経験を活かそう

 同じような経験をさせてきたはずなのに、伸びる部下と伸びない部下がいる。
 そんな時、上司であるあなたはどうしますか?

 

1.伸びる部下と伸び悩む部下
 自分が初めて管理職になったとき、やらなければならない仕事の一つに「人材育成」という項目が加わりました。
 それではということで、いろいろと経験をさせるべく様々な仕事をやってもらいました。
 ところが、1年経って振り返ってみた時に、『この優秀な部下は自分がいなくても成長したのではないか』と思う一方で、『この部下は確かに成長したけれど、もっと成長させることができたのではないか?』とも思いました。

 その違いはどこにあったのでしょうか。

 

2-1.経験学習サイクル
 「人は経験から学ぶ」ということは、誰もが経験的に!?分かっていると思いますが、そのプロセスを明らかにしたのが、デイビッド・コルブが提唱した「経験学習サイクル」(下図)です。

  

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人は経験から学ぶのではない - うめさんブログ

 

 まず仕事の中で実際に①経験してみる。
 そして、経験した出来事や事実について、様々な視点から成功や失敗の原因を②振り返る
 次に、振り返りから明らかになった今後の仕事においても適用可能な③教訓を引き出す
 最後に、その教訓を別の仕事の場において④試してみることで、また新たな気づきが得られるという①のサイクルへとつながっていきます。

 

2-2.例:スーパーの店員
 このサイクルの例を挙げましょう。

 

 あるスーパーでお弁当の仕入れを担当しているAさん。

 たくさんのお客さんが来てくれたのに弁当が足りなかったり、逆に大量の弁当を仕入れたのにお客さんが少なく大幅に余ってしまったりというミスをしていました。(①経験)

 そこで、発注ミスの原因を探ってみたら、弁当が足りなくなったのはスーパーの近くで運動会が行われていた時であったことや、前週の販売個数のみをたよりに発注していたこと、などに気づきました。(②振り返り)

 このことからAさんは、「前週の販売個数だけでなく、スーパーの近くでお弁当が必要とされるようなイベントが行われる日を事前に把握しなければならない」という教訓を得ました。(③教訓を引き出す)

 それから少したって、近くの中学校で学芸会が行われることを把握したAさんは、昨年の販売個数を参考にいつもの倍の弁当を仕入れたところ、大幅な売れ残りも欠品も発生しませんでした。(④試してみる)

 

3.経験学習サイクルのポイント

 以上の経験学習サイクルにおいてのポイントは2つあります。

  1. 仕事経験だけでは人は成長しないこと(振り返ることが重要)
  2. 能力やスキルを受動的に学ぶのではなく、自らの力で仕事に役立つ持論(つまり教訓)を引き出す必要があること

 

 サッカーの試合が終わったあとのインタビューで、サッカー選手が
 『いくつか自分なりに考えていたことが有効であったということも分かりましたし、次の試合に向けての課題も見つかりました。』
 というようなコメントをしているのを見たことがあります。

 

 これこそ「振り返り」であり「教訓の引き出し」と言えるでしょう。

 

4.上司は何ができるか

 経験したのに成長できないのは、このサイクルがどこかで切れるからです。
 ①から②の間が切れてしまったり、②から③、もしくは③から④が切れたりというふうにです。

 

 そこで、このサイクルを回すようにサポートしてあげるのが上司の役割ですが、まず①から②へのつながりをサポートする、つまり「振り返りを促す」ということをやって頂きたいです。

 なぜなら、成長できない部下は、この振り返りが自分ではできていないことが多いからです。

 

 営業の日報や週報のように何か様式を作ってあげても良いですし、月曜などに行う週一回のミーティングの中で先週の業務からの気づきを聞いても良いですし、1対1で話をしても良いでしょう。

 

 上司の側から振り返りの場を作り、どうやって振り返っていったらよいのかという具体のやり方をサポートしてあげる必要があります。

 

 そしてポイントは、先ほどのサッカー選手のコメントにあったように、悪い点(失敗事例)だけを振り返るのではなく、良かった点(成功事例)も振り返ることです。


 振り返りと言うと「反省」という言葉があるように、悪い点ばかりを責めることになりがちです。

 しかし、良かった点を振り返ることで、部下にとっては、成功の再現性を高めると言うことに加え、自信をつける前向きな気持ちで振り返り方を学ぶことができるという利点があります。

 一方の、上司にとっても、悪い点ばかりを聞くよりも、良かった点を聞く方が簡単です。

 悪い点を振り返るのは、ともすると詰問口調になってしまったり、一方的に怒るだけになってしまったり、アドバイスをしてしまったりと、部下自身で気づくということを阻害しがちだからです。

 

 『考える労力を惜しむと、前に進むことを止めてしまうことになります。』

 と、かのイチロー選手も言っていました。

 

 良かった点の振り返りをすることから、部下自身が考えることをサポートしてみてはいかがでしょうか?

 


参考:
上林憲雄、厨子直之、森田雅也, 2018.1, 経験から学ぶ人的資源管理, 有斐閣ブックス
松尾睦、2019.10, 部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ, ダイヤモンド社
イチローの名言・格言https://iyashitour.com/archives/19139/2

 

OJT指導員の役割

 新人研修が終わると、いよいよ配属先でのOJT(On the Job Training)「実地研修」が始まります。

 今回は、OJTを効果的にするために、OJT指導員が果すべき役割について、近年の研究成果を紹介します。

 

 

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 鮎壺の滝(黄瀬川)、2019年5月

 

 

 新入社員が配属されると、その新人の面倒を見る「OJT指導員」を付ける会社が多くあります。

 OJT指導員は、上司ではないが同じ職場の先輩だったりすることが最も多いようです。

 さて、近年の研究成果から、OJTを効果的にするポイントを紹介します。

 

 

ポイント1.指導よりも移譲

 

 OJTでは、新人に「直接的な教育・指導を行う側面」と新人に「責任と仕事の権限を委譲して実際にやらせてみるという側面」があります。

 一般にOJTというと、上司や先輩による教育指導と解釈されるわけですが、OJTを受けた新人が自分の能力が伸びたと感じるのは、前者の側面である教えてもらったことではなく、後者の責任を持ってやりたことによるそうです。

 

 つまり、教えてばかりいるではなく、新人ができる範囲の業務内容を考え、そしてその業務の重要性を伝え責任を持ってやりきらせることが、新人本人の自信につながります

 

 

ポイント2.周りを巻き込む

 OJTがうまくいっている職場では、OJT指導員だけが新人の面倒を見ているのではなく、OJT指導員が自ら指導を行う一方で、周囲の人々に声かけを行い、OJTに協力するよう働きかけています。

 つまり、OJT指導員がなすべきことは、職場メンバー全体で新入社員を育てるという体制づくりをすることです。

 

 周りの協力が得られると、なぜOJTが効果的にいくのかは、以下のように考えられます。

 

 まず新人の立場からすると

  1. OJT指導員以外に質問できる相手が増えることで、業務における疑問点が解消しやすくなる。
  2. OJT指導員以外の職場メンバーとの接点があることにより、多様な仕事のやり方を目にする機会が増える

 といったことが考えられます。

 つまり多様なフィードバックを得られます。

 経験するだけでなく、それを振り返ることこそが成長につながります。 

 

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人は経験から学ぶのではない - うめさんブログ

 

 次に、OJT指導員の立場からすると

  1. OJT指導員は、OJT以外に、自らの業務もやらなくてはならない
  2. OJT指導員がすべての業務に精通しているわけではない

 という事情があり、その点を周りからサポートしてもらえると言ったことが考えられます。

 これにより、OJTと自らの仕事のバランスを取り、新人とチャンと向きあい会話する時間を確保することができます。

 

 ただし、注意点が一つあります。

 それは、新人にとって過剰な負荷とならないようにすることです。

 その点は、OJT指導員が全体的な負荷をコントロールするとともに、経験したことを振り返る時間を作ってあげる必要があります。

 

 

■気づき

 さて、ここからは自らの経験を振り返りたいと思います。

 

 OJT指導員へのサポートは必須だと、私も思います。

 

 新入社員が配属されることにより、職場が活性化するという良い面がありますが、反面、一時的に生産性は低下します。

 

 その生産性低下のカバーをOJT指導員にのみ求めるのは酷です。

 

 OJT指導員は、指導員に選ばれるだけあって優秀な社員であることが多いでしょう。ということは通常の業務もそれ相応に抱えています。

 

 また、新人の指導には、相当の手間がかかります。

 先ほど言った、適切な業務を割り振るということ一つをとっても、工夫が必要ですし、自分がやった方が数倍も早いことを、一つ一つ教えながら、やらせてみなくてはなりません。

 

 紹介した研究成果は知りませんでしたが、私自身が支店長だった当時、以下のことをやっていました。

  • 人材育成に力を入れることを支店内に宣言
  • OJT指導員(係長クラス)同士が意見交換する場の設置
  • OJT指導員以外の課長クラスや場合によっては他の支店の方々にもご協力をお願い

 これらにより、新人を育てるという雰囲気をつくるのに多少なり貢献できていたのかなと思います。

 

 そして、OJT指導員が、多忙な中、日々新人と向き合い、また研究成果にあったようにいろいろな方々に協力を求め、新人が様々な経験をする場を作ってくれたことに感謝したいです。

 

参考)

中原 淳  (著), 2012/9/1, 「経営学習論 人材育成を科学する」

 

察するのにも限界があるから話す

 2週にわたって、「テレワーク(在宅勤務)で試されるコミュニケーション力」について綴ってみました。

 今回は「話す」を取り上げます。

 ※今まで同様、部下を持つ管理職の方を念頭に置いて書いています。

 

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テレワークで試されるコミュニケーション力 - うめさんブログ

察する力をどう伸ばすのか? - うめさんブログ

 

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                             Gerd Altmannさんの作品 pixabayより

 

1.ちゃんと話さないと、、、

 テレワークが始まって以降、ZoomやTeamsを使ってTV会議はできますが、日程調整も必要なので、やはり職場で声をかけたら集まれるという気軽さはありません。

 また会議が終わると、ぶちっと接続を切ってしまうので、会議後の余韻のようなものもありません。

 すると、TV会議の場では、自然と要点だけを手短に話すことになりがちです。

 

 また、目の前に相手がいない時間が多いので、メールでの指示も増えますが、メールにあれこれと長文を書くのは面倒で、つい、やってもらいたいことだけの指示になりがちです。

 

 今までは、職場というところにみんなが集まって働いていて、部下・上司ともに、直接話す時だけでなく、自分以外の人と話している時の言動を見聞きできていたので、「察する」ということが可能でした。

 ところが、テレワークになり、直接対話している時のみしか会話できないとなると、TV会議で手短に話したり、メールで指示だけ出すという「話し方」では、しっかり伝わっていない可能性があります。

 

 例えば、指示が誤って伝わったまま、1週間全く部下の姿を見ることがなく、1週間後のTV会議で進捗状況を聞いたら全く違うことをやっていた、なんていうことも起こりえるかもしれません。

 

 そこで、これからは、今まで以上に、「自分の考えや感情を部下に話す」ということが大切です。

 ※「話す」と書いていますが、口を動かして話すことに加え、メールなどで文字で「伝える」ということも含んでいます。

 

 

2.具体的に何を話すか

 自分の考えや感情を部下に話す、とは具体的に何を話すということなのでしょうか。

 ここでは3つ取り上げました。

 

①他愛のないことを話す

 いわゆる「雑談」をすることが大切です。

 雑談は何か意味のあることを伝えるというよりは、部下との間に話しやすい雰囲気を作るための土壌づくりです。

 

 打ち合わせが始まるちょっとした隙間、例えばみんなが集まりつつある時とか、誰かが資料を配布したりしている時に、「最近家の近所にテイクアウトできるイタリア料理店を見つけたんだよ」とか「だんだん温かくなってきたよね」「最近運動不足で困ってるんだよ」「やっぱり雨だとちょっと気分がどんよりするなぁ」「学校が休みだからって、うちの子は全然勉強しない」といったことを話すというものです。

 

 この雑談で大切なのは、ちょっと自分のことを話す、つまり自己開示をするということです。自己開示というと言葉自体は大げさですが、他人が知らないちょっとした一面を話すことで、他人からは自分自身の知らない一面をフィードバックしてもらえるようになります。つまり、対話が進みます。

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ジョハリの窓 - うめさんブログ

  

 もし部下が雑談にのってきたら、部下の話をしっかり聴いてあげましょう。もちろん、部下が乗ってこなくても、ちょっと気分が和むだけで十分です。

 あくまで自分の発言は場を和ますためのものであり、そのための呼び水にすぎないからです。そこをはき違えて、自分のことだけを延々と話してはいけません。

 

 そして、区切りのいいところで、「さぁ、打ち合わせをしよう!」と前向きに宣言して、打ち合わせに入るといいでしょう。

 

 ポイントは、自分が感じたちょっとしたことを話す、みんなが話に乗れることを話す、自分が感じたことだからと言って誰かの悪口を言ったりはしない、といったところでしょうか。

 

 先日参加したオンライン勉強会で、フリーランスデザイナーの佐藤翔子さんが「オンラインミーティングの予定時間の前後に雑談してよい時間を設ける」というアイディアを紹介されていましたが、とても良いアイディアだと思います。 

 

 

②考えを話す

 考えとは、背景・目的・根拠・判断基準・思いなどのことです。

 

<指示を出す時>

 管理職は、部下にいろいろと指示を出したりする必要があります。

 

 その際、忙しいから、面倒だからと、やることだけを指示していませんか?

 

 なぜこういう依頼にいたったのかという背景や、その依頼をすることでどうしたいのかという目的を伝えずに、「○○をやれ」と解決策だけを言われても部下は動くかもしれません。

 しかし、背景や目的を伝えた方が、やる気が起き、よりよい成果を出してくれるでしょう。

 また、部下自身が、背景や目的を踏まえて考えることで、管理職である自分が言った解決策よりも良い解決策を発案してくれるかもしれません。

 

 悪い例として、「部長がやれと言っているから」という自分より立場が上の人の名前を出して背景や目的に代えてしまう管理職(課長)がいますが、これは仕事をする上で全く参考になりません。

 部長がどういう理由や目的でその依頼を出したのかを聞き出せない課長なのであれば、いない方がましです。

 直接部長とやり取りしたほうが早ですし、間違いがありません。

 

 同じ職場で仕事をしていたのであれば、管理職である課長にかかってきた電話の内容や、課長と部長が話している内容に聞き耳を立てることによって、背景や目的を察することができたかもしれませんが、テレワークでは困難です。

 部下に指示を出す時は、必ず背景や目的を話さなければなりません。

 

 さらに言えば、部下から依頼した成果を受け取ったのなら、その成果がどう役に立ったのかという、事の顛末まで後日部下に話す、というところまでやれると良いでしょう。

 部下としても仕事の意義を感じられたり、また仕事の流れを覚えたりすることができるからです。

 

 

<判断し決断する時>

 管理職は、複数ある案の中から適切なものを選び出し、決断する必要があります。

 その際、なぜその案が良いと考えたのか、さらになぜ実行に移すことにしたのか、その判断基準や決定根拠を部下に話していますか?

 

 部下よりも経験や知識を多く持っている管理職にとっては自明なことであっても、部下には分からないこともあります

 

 

 また、どの観点(例えば、コスト、時間、リスク等)から見ても良いと思われるベストな案があれば判断理由は一目瞭然ですが、ビジネスにおいては、A案はコスト面で優れているけど時間がかかる一方で、B案はすぐに実行可能だけどコストがかかるといったように、甲乙つけ難いことが多くあります。

 そして、それを判断し決定するのが管理職の役目です。

 

 このような時、ただ「A案にする」とだけ言うのではなく、「今回は○○という理由で時間よりもコストを優先するのでA案にする」と伝えなければなりません。

 そうでなければ、部下はA案を選んだということから「コストが一番大事なんだ」と思ってしまい、別の案件において上司がコストより時間を優先した案を選定した場合に、「課長は毎回言うことが変わる。」と混乱してしまうでしょう。

 そして何より、部下の判断力を鍛えることができません。

 

 管理職は、判断基準や決定根拠を話さなければなりません。

 

 

<翻訳する>

 管理職と言っても、組織のトップでないかぎり、自分の上にはさらに管理する人がいるという中間管理職の人がほとんどです。

 その中間管理職の大切な役割の一つに、「翻訳する」というものがあります。

 

 例えば、<指示を出す>の例で示したように、課長である自分よりも立場が上の部長から依頼が来た場合に、部長が話していた理由や目的を部下に分かるように言い換える必要があります。

 また、部長の言葉が足りなかったら、自分の言葉で補ってやる必要があります。

 

 (ただし、言葉を補う場合は、「部長の言葉」と「自分の言葉」を分けて伝える必要があります。「部長は○○と言っていた。ここからは自分の考えだけど△△ということだと思うよ。」)

 

 

 さらに中間管理職が果たすべき「翻訳する」という役割の中に、組織の理念や戦略を現場に分かるように伝えるというものがあります。

 

 経営陣や部長クラスは、現場スタッフとは別の視点で物事を見、そして判断しています。

 経営層の言葉、特に経営陣が集まった会議などの発言をそのまま伝えても、部下にはピンとこないでしょう。部下に分かるよう、自分の言葉で話すことが必要です。

 

 最近参加したオンライン勉強会で、(株)ミミクリデザインの代表 安斎勇樹さんが「無策なトップダウン型「理念浸透」は、組織の創造性を殺すリスクがある 」「理念・戦略が納得されながらも再解釈され続けている状態において組織の創造性が発揮される」と述べられていましたが、まさにこの再解釈をつなぐ鍵を中間管理職がになっています。

 

 私自身が、特にこの翻訳という役割が求められたと感じるのは、一見すると組織の理念や戦略と矛盾するような指示が上から降りてきた時です。

 部下が一様に首を傾げたり、こんなおかしな指示やってられませんよ、という発言が出そうなとき、ちゃんと自分が納得する形で再解釈し、それを部下に自分の言葉で伝えることができるかが試されます。

 (もちろんやっぱりおかしいとなったら、自分の一段上の上司に確認する必要があります。)

 

 

③感情を話す(部下の感情を代弁する)

 この感情を話すというのは、自分がどう感じているのかを伝えるということではあるのですが、部下の感情を代弁するという使い方が良いと思っています。

 

 少し回りくどい言い方をしているのには理由があります。

 上司である自分が今どう感じているのかを冷静に伝えられるのであれば、また「嬉しい」や「楽しい」と言ったポジティブな感情であれば、自分の感情を部下に伝えることは良いと思っています。

 ただ、ここで私が危惧しているのは、「感情を伝えた方が良い」ということをもって、自分の怒りや悔しいというネガティブな思いをそのまま部下にぶつけてしまう人が出てくるのではないか、ということです。

 

 自分の感情をコントロールすることが苦手だと感じていらしゃる方は、ネガティブな感情は話さない、と決めてしまった方が良いかと思います。

 その代わりに、ネガティブな感情を引き起こすこととなった、事実のみを話すということが良いかと思います。

 

 さて、本題の「部下の感情を代弁する」に戻ります。

 

 具体例から説明したほうが分かりやすいでしょう。

 

 部長から無理難題が降ってきて、課長である自分がその依頼を部下に伝えた時、部下が不満な顔をしているとします。

 そんな時、課長である自分から、「実は自分はこの依頼、期限に間に合うかどうか不安なんだよなぁ。」と、部下が思っているであろうことを自分を主語にして話してみます。

 すると部下も「そうなんですよ。実は○○とか△△とかいう課題があって、、、」というように部下も感情を吐き出してくれることがあります。

 

 ここでのポイントは、自分を主語にすることです。

 部下の心をしっかり読めるのであれば、「○○さん(部下の名前)、もしかして期限に間に合うかどうか不安ですか?」と言っても良いかもしれませんが、心を読み間違えた場合、部下の信頼を失います。

 

 その点、自分を主語にしていれば、合っていたら、部下は「課長もおんなじことを思ってたんだ」となるでしょうし、合っていなくても「自分はこう感じたんですよ」と別の感情を話してくれるでしょう。

 どちらの場合も、自分から感情を話したことで、部下も感情を話し始めているところに注目してください。

 

 

 そして、このマイナスの感情を一旦共感したうえで、「○○とか△△とか課題はあるけど、頑張ろう!」とポジティブな感情を伝えます

 もちろん感情だけ伝えて、課題に対処しないというのは問題ですが、ネガティブな感情を共有することで、部下は心が軽くなり動きやすくなります。

 

 管理職として、自分を主語にして部下の感情を代弁することは、必要だと思います。

 

 

3.注意点

 テレワーク(在宅勤務)時代に求められるコミュニケーション力の最後として「自分の考えや感情を部下に話す」というものを取り上げました。

 

 今回取り上げた「話す」というスキルは非常に大切です。

 

 それでも、「聴く」と「話す」はどちらが大切かと問われれば、自分は「聴く」スキルの方が「話す」スキルよりも優先度が高いと考えています。

 部下の考えや感情が分からなければ、チームを創造的にマネジメントできないからです。

 

 手順としては、まず部下の話をしっかり聴き、そこから部下に考えや感情を話してもらい、それを踏まえたうえで、自分の考えや感情を話していくということになります。

 

 コミュニケーション力を磨き、テレワークでも楽しく効率的かつ創造的に働いていけるようにしたいです。

 

察する力をどう伸ばすのか?

 前回のブログで「テレワークで試されるコミュニケーション力」について取り上げました。

テレワークで試されるコミュニケーション力 - うめさんブログ

 

 最も伝えたかったメッセージは、

コミュニケーションをとっている時以外の姿が見えないからこそ、コミュニケーションをとるわずかな機会に察する力が求められる」

ということと

今までの職場においてすら(つまりオフラインですら)コミュニケーションが取れなかった人が、今後のオンラインでのコミュニケーションがうまく取れるとは思えない

ということでした。

 

 この中の「察する力」について友人からいくつかコメントを頂きました。ありがとうございます。

 

 そして、先週以降ずっと考えていたのは、「察するとは具体的に何をしたらよいのか?」「察する力はどうやって伸ばしたらよいのか?」ということでした。

 

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出典:Gerd Altmann氏作 Pixabayより

 

1.ヒューマンスキル

 察する力というのは、対人関係を構築するスキルの一つです。

 そして、対人関係を構築するスキルと言うと、1955年にハーバード大学のロバート・カッツ教授が提唱したカッツモデルの中で提示された「ヒューマンスキル」が有名です。

(カッツモデルの説明は省略します。)

 

 このヒューマンスキルには7つの能力が含まれています。

  • コミュニケーション力

  • ヒアリング力

  • 交渉力

  • プレゼンテーション力

  • 動機づける力

  • 前向きにスキルを磨き続ける能力(向上心)

  • 組織を引っ張る能力(リーダーシップ)

 

 そして、三谷宏治先生は、これら7つのスキルは基礎的な3つの力

  • 聴く(話を聴く、質問する)

  • 話す(相手に伝える)

  • 見る(行動や組織を観察する)

に集約されると述べています。

 

 私が取り上げた「察する力」は、洞察力や観察力ともいえるもので、この3つの中の「見る」に該当します。(※「観る」の方が個人的なイメージには合うなあと思います。)

 

 例えば、前回の例で言うと、上司や部下の個々の仕事の状況や行動、心情、表情、さらには上司と部下や部下同士の関係と言ったものを見るというものです。

 

 

2.どうやって伸ばすか?

 ところが、この「見る力」を伸ばすのはなかなか難しいです。

 

 前回のブログで私が書いた「上司の忙しさを見て判断する」というのも、具体的に上司のどこを見るのか、もしくは見たことをどう解釈するのかなどは、事例を挙げることはできるかもしれませんが、すべてを挙げることは難しいですし、見ようとしている対象(この場合は上司)の個人差もあるでしょう。

(※従業員が多国籍となっているglobalな会社では、文化的な違いも踏まえて解釈する必要が出てくるため、さらに難しいかと思います。)

 

 そこで、まずは「聴く力」から伸ばしていったら良いのではないかと思います。

 

 なぜなら「聴く」という行為の中に、相手を「察する」ことも含まれているからです。

(もちろん「話す」という行為の中にも、相手を「察する」ことも含まれていますが、自分が伝えたいことを考えつつ、相手のことも考える必要のある「話す」ということに比べて、相手のことだけを考えるようにして「聴く」ことの方が「察する」力を伸ばすのに、より適切なのではないかと考えました。

 

 

3.聴く

 私が学んだコーチングではこの「聴く」ということを非常に大切にしており、いくつかのテクニックもありますが、私自身が思う最も大切なことは、「相手の立場に立って黙って聞く」というものです。

 

 もちろん、話を聴いているということを相手に示し、そのことによって話しやすい雰囲気を作る「相手の目を見る」や「うなづく」「相手の言ったことを繰り返す」といったこともできた方が良いです。

 また、相手が話している内容を確認するために「質問する」や「相手の言ったことを要約したり言い換える」といったこともできた方が良いです。

 

 ただ、人はどうしても、相手が話している間に次に自分の言うことを考え始めてしまい、自分の経験を話し出したり、相手の主張を評価したり、反論したり、アドバイスをしたくなってしまいます。

 

 そうではなく、相手が話している間は、相手が何を言おうとしているのか、どういう気持ちなのかを把握するために、話されている言葉を理解することに集中するだけでなく、相手の表情や声のトーンなども汲み取る(つまり、察する)ことをしつつ、相手の立場で聴くことが大切です。

 

 さらに、相手の話を聴いている自分にはバイアスがかかっている(=人の認識にはバイアスがかかる)ということも、知識として知っておくと良いでしょう。

↓関連する過去のブログ

組織行動論 メモ2 『誰もが正しく認識できていない可能性がある』 - うめさんブログ

 

 この「聴く」ということを徹底することで、「見る力」(=察する力)も養われていくと思います。

 

 

4.部下の話を「聴く」

 上司として管理職の立場にある方は、部下の話を聴くことがとても多いかと思います。

 

 ところが上司は、忙しく、知識も経験もあり、決断し、解決しなければならないため、つい部下が話している途中で口をはさんでしまいがちです。

 自分もこの「黙って聞く」というのが極めて苦手で、心がけてはいるのですが、忘れることが多く、まだまだ修行が必要です。

 

 もし「黙って聴く」ということができていなければ、最初は、「部下の話が一段落するまでは黙っておこう」とか「3分は黙っていよう」とか「部下と同時に話し始めてしまったら必ず部下に譲る」とか、自分なりの行動目標を決めると良いでしょう。

 

 

 ところがこの「聴く力」があがってくると、話しかけてくる部下も増えるでしょうし、部下の話も長くなるかもしれません。すると、ただでさえ忙しかったのに、さらに忙しくなります。

 そんな時は、「何のために部下の話を聴く必要があるのか?」を今一度考えていただきたいです。

(自分は部下の話を聴くことは必須だと思っていますが、敢えて私の考えは述べないでおきます。3分ほどで良いので、是非考えてみてください。)

 

 よくある悪い例だけ挙げておくと、「報告しろ!」とうるさく言う上司に限って、報告を聞いていなかったりします。

 そして、報告を聞いてくれない、もしくは報告したことで怒られる、ということを部下が学習していまうと、部下はますます報告しなくなります。

 

 いやいやちゃんと聴きたいと思っているのだけど忙しい、という方は、以下を試してみてはいかがでしょうか?

(単なるテクニックなので、自分が忙しいという理由はあるにせよ、相手のことを思いやるという立場にたって使ってください。)

 

 話を聴く冒頭で「じっくり聴く」のか「時間を区切って聴く」のかを決めるというものです。

 「時間を区切って聴く」場合には、自分のスケジュールや部下が話そうとしている内容や必要な時間を踏まえて、最初に「〇分間は話を聴くよ」と伝えるだけです。

 

 そうすることで、部下もちゃんと時間を取ってくれたことを認識しますし、その時間内で伝えるよう工夫してくれるでしょう。また、聴く方もその時間はちゃんと聴くことに集中できます。

 

 ただし、毎回毎回時間を区切っていると、「話をちゃんと聴いてくれない」となりますので、混みいった話の場合や、話が途中になってしまった場合は、改めてスケジュールを確保するというのを忘れないようにすると良いでしょう。

  

 「聴く力」を通じて「見る力」もつけ、チームワークを高めていきたいですね。

 

 

参考: 2019.9., 三谷宏治, 新しい経営学, 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

テレワークで試されるコミュニケーション力

 コロナウイルスへの対応で、2週間ほどテレワーク(在宅勤務)をしています。

 私自身は、今は管理職ではないのですが、今までの自分の経験を振り返って、このテレワークの状況は中間管理職にとって試練だと思ったので、気づいたことをつづってみました。

 

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出典:pixabay

 

1.従来の私の仕事環境

 テレワークによる影響は、仕事内容、IT環境、そして会社の組織文化によって様々だと思いますので、まずは今までの私の仕事環境を紹介します。

 

 私は、昔ながらの上意下達なピラミッド型の組織で、多くの人と仕事をしてきました。

 

 ですから、職場の状況としては、部長級は個室にいて、課長以下は一つの部屋に課長を筆頭に机が並んでいるという状況です。

 もちろん一人一台はパソコンがありますが、テレワークをするためのモバイルパソコンはほとんどありませんでした。

 そして、仕事で作る資料は、PowerPointやExcel、Wordを使っていました。

 

 コミュニケーションの手段としては、基本メールですが、メールの文面もやや礼儀を重んじるところがあり、さらに上司(特に幹部)にメールを送るのはややためらわれ、基本資料を持って面と向かって説明に伺うというスタイルでした。

 

 上司(特に幹部)の方々は多忙であり、受け取るメールの量も多く、また組織文化的にメールを送るだけと言うのは失礼だということで、上司はメールを見ないこともありうると想定して、メールのやり取りをしていました。

 役職的に同じような立場の人とやり取りするときですら、メールを送ったら必ず電話をするなんてこともしていました。

 

 という状況なので、Slackなどのチャットを使うことはありませんでした。

 

 このメールだけではコミュニケーションが完結しないというのは、私個人は好きではありませんでしたが、メールの量が非常に多く、期限が切羽詰まった急ぎの案件が多く、内容が複雑なこともあるので、やむをえないとは思っていました。

 

 

 もう一つのコミュニケーションの手段は打ち合わせ(ミーティング)です。

 役員会などの非常に格式ばった会議の話はここでは割愛しますが、普段のちょっとした打ち合わせは数多く行われていました。

 

 何か分からないことがあると、課内や他部署の詳しい人のところに行って教えてもらったり、「頭の体操に付き合ってくれる?」なんて声がけして集まった2,3人でアイディア出しをしたり、議論をしたりしていました。

 メールで依頼をしたり依頼を受けた後でも、関係者で集まって簡単なミーティングをやっていました。

 メールとだぶる内容は当然あるのですが、個々人が作業を始める前に、目的を共有したり、作業内容を確認したり、課題(リスク)を挙げたりするというのは、その後の作業をスムーズにするうえで、とても良かったです。

 

 もちろんその中では雑談もあり、「打ち合わせが長いなぁ」と思うことも多々ありましたが、面と向かって意見をざっくばらんに交換しつつ仕事を進める雰囲気は、とても気に入っていました。

 

 

2.察する

 さて、このような状況の中で、私は中間管理職として仕事をしてきたのですが、メールや電話、打ち合わせ以外のところでも、いわゆる「察する」というコミュニケーションを多くとってきました。

 

 例えば、自分の上司に対しても部下に対しても以下のようなことをしていました。

 

  • 相手(=自分の上司や部下)が今どの程度忙しいかを見る。

 例えば、相手が切羽詰まった作業をしていそうなときは、自分が今から話そうとする案件の重要度を鑑みて、それでも声をかけるのか、後にするのかを考える。

 

  • 相手の機嫌を見る。

 例えば、誰しも機嫌が悪い時があり、そんな時に難しい案件を持っていったりはしませんでした。また、機嫌から、相手の体調面の状態や、仕事の進み具合をおしはかったりもしました。

 

  • 相手が電話や打ち合わせで話していることに聞き耳を立てる。

 例えば、上司が電話をしていたら、その上司の話し方でその上司より上の人からかかってきているのか、下の人と話しているのか分かります。

 上司や部下が誰かと打ち合わせしている際中の表情を見れば、難しい案件なのかそうでないのかとか分かりましたし、聞こえてくる単語から自分の仕事に関係するのかや次の展開をどうすればよいか、などを考えていました。

 

・打ち合わせ後や依頼後の相手の表情を見る。

 例えば、打ち合わせ後「やれやれ」という表情を上司がしていたら、自分の対応の何がまずかったのか考えました。

 また、依頼を受けた部下がおもしろくなさそうな顔をしていたら、何かひっかかっていることがあるのかと考えて、依頼の目的を再度明確にするなどのフォローしました。

 部下が席に戻った後、手が動いていなかったら、少し考えてもらった後に、どこから手を付けるかなどについてフォローをしました。

 

 職場という場所にみんなが一堂に会しているから、こういった察するということができていました。

 

 

3.テレワークで試されるコミュニケーション

 さて、以前のブログで、状況にあったコミュニケーションの手段を選ぶことの重要性を紹介しました。

↓関連する過去のブログ

組織行動論 メモ8 『コミュニケーションのためのツールの選び方』 - うめさんブログ

 

 このコミュニケーションの手段を選ぶというのは、職場と言う場所にみんなが一堂に会していたからこそできていたということに、テレワークをしていて気づきました。

 

 逆に言えば、コロナウイルスでテレワーク(在宅勤務)をせざるを得ない今の状況から考えると、選択の余地が無くなってしまいました。

 

 具体的には、zoomなどのTV会議やメール、そして電話、さらにSlackやLineなどのchチャットを使うしかありません。

 そしてそれだけでなく、2.で述べたような同じ空間にいるからできた「察する」ということができなくなりました。

 

 中間管理職の方々は相当仕事がやりにくいのではないでしょうか。

 

 それでも、この「察する」といったことを、限られた手段の中で発揮していかなければなりません。

 コミュニケーションをとっている時以外の姿が見えないからこそ、コミュニケーションをとるわずかな機会に「察する」能力が求められます。

 

 例えば、zoomなどのTV会議での表情の読み取りや、メールやチャットの文面への配慮が求められます。

 

(少し話がずれますが、slackなどのチャットという手段を最大限に生かすには、上司や部下だといった職場の階層が邪魔になるのではと感じています。チャットの手軽さを損ねないようどれだけ部下との距離を縮められるかというのもポイントです。)

 

 コロナウイルスがたとえ終息したとしても、テレワークがますます広がるであろうこれからの時代にいったいどんなコミュニケーションスキルが求められるのかは、私自身もっと勉強していきたいと思っていますが、一つだけ確実に言えることがあります。

 

 それは、

 『今までの職場においてすら(つまりオフラインですら)コミュニケーションが取れなかった人が、今後のオンラインでのコミュニケーションがうまく取れるとは思えない』

 ということです。

 

 まずは、今一度今までの状況においても求められていた傾聴や論理思考などのコミュニケーションスキルが身に付いているのかどうかを振り返り、さらに磨きをかける必要があると思います。

 

 自戒を込めて、最後は少し厳しめに書いてみました。

 

追記:このブログを読んだ友人からの指摘から、「察する」のは当然必須だけど、「(自分の感情や考え、根拠などを)伝える」ということの重要性も増すだろうなと思いました。

 

 

新人研修の役割

 新人研修の季節ですね。自分も受けてますが(^^;

 コロナウイルスの対応で新人を一か所に集めることができなくなり、新人研修をどうしたらよいか人事担当者の方も頭を悩ましていることと思います。

 そこで、今一度、新人研修の目的をおさらいしてみました。

 

 今回は、中原淳先生の「経営学習論」からの引用です。

(注:ただし、引用にあたって私の方で言葉を簡単にしていたり、自分の意見を足しているので、正確には原書をご確認ください。)

 

 こちらの図書は今まで私が紹介してきた中原先生の図書とは違い専門家向け、もしくは大学で少し習ったことがある方向けとなっています。

 一言で言うと、職場での学習に関わる各種研究成果を体系的に集約したものです。

 私も読んでいて、「あれっ、言葉や表現が難しいな。ちょっと論文ぽいな。」と思いつつ読み進めましたが、その分内容の濃いものとなっています。

 各種研究成果の歴史の変遷や理論の違い、最新の研究で分かっていること・分かっていないことを知ることができるので、職場における学習関係の本を読むときのガイドラインにもなるかと思います。

 

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1.組織社会化

 新人研修は、組織の一員となるための研修ですが、この組織の一員となることを、「組織社会化」と言います。組織と言う社会に入ることです。

 

 ちゃんとした定義を言うと、少し難しいのですが、次のようになります。

「組織構成員として参加を達成するため、新規参入者が新しい職務・役割、職場集団や組織文化についての知識を獲得し、組織適応を達成する過程」

 

 この定義において、留意すべきポイントは以下の3つです。

 

1)組織社会化を達成するには「個人による学習」が必要だということ

2)組織社会化の目的は、「組織が期待する役割・職務・業務を実行することができようになること」と「組織に適応できるようになること

3)組織社会化は、プロセスであるということ。

 

  例えば、今回のブログでは新人研修を取り上げますが、新人研修だけでなく、入社前のHP等での職場紹介やインターンシップから、新人研修が終わって配属された後のOJT(オン ザ ジョブ トレーニング)も含む一連のプロセスということです。

 

 ですから、入社前に聞いていた会社の雰囲気と入社後の実際の会社の雰囲気があまりにかけ離れていたり、新人研修で習ったことが配属後に活用できないということが起きると、新入社員は会社と言う組織の一員になることができず、遅かれ早かれ辞めてしまうことになります。

 

 

2.新人研修

 組織社会化のプロセスにおいて、「新人研修」は極めて重要な位置づけを占めます。

 前述の通り組織社会化という一連のプロセスの一コマなわけですが、会社員となったという大きな変化の節目に行うものであること、また会社側(恐らく人事部局)が研修スケジュールや内容などをしっかりコントロールできるものであることから、確実に一定の教育効果が見込まれるからです。

 参入前に会社のことを伝えるためのHPやインターンシップはありますが、インターネット上の情報をすべて会社側でコントロールできるわけではありませんし、新人研修後に新人を各職場へ配属した後のOJTについても、そのOJTの質をあるレベルに維持するのはなかなか困難だからです。(OJTについては次回取り上げようと思います。)

 

 新人研修の目的は、1で述べた組織社会化の目的と同じですが、では、新人研修の効果は何でしょうか?

 

新人研修の効果

1)研修の厳しさによる効果

2)研修の不変性による効果

 

 ちょっと言葉が難しいですね。解説していきます。

 

「1)研修の厳しさによる効果」とは、以下の5つから構成されています。

①タブラ・ラサ(白紙)効果

 いわゆる「学生気分から抜け出させる」というもので、新人たちの今までの価値観を一度壊し、社会人・社員としての新たな価値観・行動規範を習得させることです。

 

②ヨコとの連帯感醸成

 研修内容が厳しいものであるからこそ、同期とのあいだの社会的つながりが強固になることをいいます。

 

 (閑話休題:私個人としては新人研修の時、研修後にほぼ毎日グラウンドでサッカーをやったことが今でも忘れられず、とても連帯感の醸成に役立った印象が、、、人事の方すいません。)  

 

③タテへの信頼感醸成

 研修において、時には不条理とも思える指示や命令を出すトレーナーに対して、新人は当初はネガティブな感情を持つものの、それが次第に「サポートしてくれている。鍛えてくれている。」という感情に変わり、信頼感が生まれることです。

 

④自己効力感の醸成

 厳しい研修を乗り越えたからこそ、「自分はできる」という自己効力感が生まれます。

  

 この④は①と結びついていて、つまり「意識が変わる」だけでなく「行動が変わる」ところまで新人を導く必要があります。

 

⑤組織コミットメントの醸成

 ①~④が満たされると、必然的に組織に対するコミットメント、つまり組織への愛着が醸成されてきます。

 

 さて、①から⑤において、「研修が厳しいからこそ」という表現や研修が「厳しい」ものであることを前提に書いている部分がありますが、この「厳しさ」をはき違えることのないようにしていただきたいと、私は強く思います。

 もう今の世の中あまり無いと思いたいですが、理不尽なこと、体力的に無理なことをやれば良いということではありません。

 

 新人を振るい落とすことが目的ではありません。新人が会社の一員として伸びていくことを後押しするものでなくてはなりません。

 

 山でキャンプをしたりするのも、タブラ・ラサ効果を生み出すための工夫と言えますが、やるのであれば、新人各人の個人特性の把握や万全の安全管理、強固な目的意識、トレーナーの指導が必要です。

 

 

「2)研修の不変性による効果」とは、毎年同じような研修をすることで、その研修を受けた社員の間での共通の話題となり、コミュニケーションツールとして使えたり、同じ研修をくぐり抜けた仲間として組織の一員と認めてもらえるといったことです。

 

 

3.オンラインでの新人研修

 コロナウイルスの脅威が増してきている中、ここ数か月ほど、各会社の人事の方々は、どう新人研修を行うのか頭を悩ませたことと思います。

 

 従来のようにどこかの一か所に新入社員を集めることができれば、毎日スーツや作業着を着る、時間を守る、同期とともに様々なマナー研修を受ける、課題に取り組む、先輩社員の立ち居振る舞いを見る、トレーナーからリアルタイムで叱責を受ける、会社の歴史や経営戦略や目標を学ぶことで、①~⑤をある程度達成することができたからです。

 

 それをオンラインにした時、どれだけ①~⑤を達成することができるのか、工夫が必要です。

 

 私としては、物理的に距離が離れていることにより、心理的な距離も離れていくことをまずは食い止めたいと思います。

 

 つまり、②と③を今まで以上に大切にする必要があります。

 

 メールで一斉に指示をして課題を出して終わりではなく、zoomやskypeで一方的に講義をして終わり、ということではなく、なるべく少人数(6人ぐらいまで)のグループを作り、トレーナー(人事部局や育成スタッフ)も入ったうえで、zoomなどの顔が見える(つまり、表情が分かる)ツールを使って、顔を合わせて雑談をする、自己紹介をする、一緒に学ぶ・課題をする・プレゼンをする、学んだことを振り返る、オンライン呑み会をするといったことで、双方向のコミュニケーションを確保することが大切かと思います。

 

 と同時に、②と③を土台として、⑤へつながるよう、何のために会社に入ったのかという新人個人の思いと、何のために会社があるのかという会社のVision・Mission・Valuesが一致できるよう、いろいろな形で新人の思いをくみ取るとともに、新人に会社の思いを実感させる必要があります。

 

 コロナウイルスで先が見通せない時だからこそ、新人には、会社という組織が向かっていくべき先を、明るい未来を語る必要があると思います。

 

 

参考)

中原 淳  (著), 2012/9/1, 「経営学習論 人材育成を科学する」

 

19年お世話になった会社を辞めました

 19年お世話になった会社を辞めました。

 これからは、「土木構造物をつくること」から「人や組織をつくること」をサポートすることを通じて、社会に貢献したいと思います。

 ご指導いただいた方、気づきをくれた方、助けてくれた方、皆様本当にありがとうございました。

 今後どこかで恩返しできればと存じます。

 

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1.思いの変化とこれからやりたいこと

 「社会の仕組みを作りたい」という思いで就職しましたが、「人や組織のための仕組みを作りたい」という思いに変わりました。

 

 この思いの変化は、多くの人や組織とともに協力しながら土木プロジェクトを動かす経験を積ませていただいたこと、そして、そのプロジェクトに、時に部下として時に管理職として関わらせていただいたことが強く影響しているかと思います。

 

↓関連する過去のブログ

上司だったり部下だったり - うめさんブログ

 

 私はこの19年の間に、支店・支社・本社・研究所・関連会社(出向)に所属し、その中で、河川・ダム・砂防・海岸・道路・港湾・人事関係と様々な分野に携わりました。

 

 このように専門がくるくると変わったため、なかなか一つの分野に詳しくなることができず、自分はいつも誰かに助けていただきながら仕事を進めてきました。

 そして、そのおかげで人や組織への興味が増していきました。

 

 例えば、こんなことが気にかかる質(たち)でした。

 

  • 自分よりも知識も経験も年齢も上の方々をどうマネジメントしたらよいのか。
  • 部下よりも圧倒的に専門分野の知識がないリーダーに求められるのは何か。どうチームに貢献したらよいのか。
  • なぜあの支店のチームはうまくいっているのに、こっちの支店のチームはうまくいかないのか。
  • 係長の時は優秀だったのに、なぜ課長となったら成果があげられないのか。逆に、係長の時はいまいちだったのになぜ課長となったら成果をあげられるようになるのか。
  • 部下に厳しくても慕われる上司がいる一方で、部下に優しくても嫌われる上司がいるのはなぜか。
  • 「上司の背中を見て学べ」というスタイルでは部下が育たなくなっている一方で、「手取り足取り教えても」やっぱり部下が育たないのはなぜか。
  • 同じような仕事を経験させているのに伸びる部下と伸びない部下がいるのはなぜか。
  • 様々な危機感から組織を変えようとするいろいろな取り組みがなされるが、なぜ変われないのか。
  • トップのマネジメント層の思いがなぜ現場まで届かないのか。逆に現場の思いがなぜトップのマネジメント層に届かないのか。
  • 人の評価とは一体何を評価したらよいのか。また、評価する人によってなぜこうも評価結果が変わるのか。
  • 一体どういうスキルや能力をどう高めればよいのか。
  • 働くことに対する価値観がなぜこうも人によって異なるのか。

 

 土木プロジェクトを動かすためには、日々、コスト管理やスケジュール管理、品質管理、調達管理、リスク管理などいろいろと対処しなければならないことが多く、ほとんどの時間がそれらへの対処に割かれます。

 ところが、自分はどのポストにいても、どの分野にかかわっていても、時間があると、ふと人や組織に関することを考え、本を読んでちょっと試してみたり、詳しそうな人に話を聴きにいったりしていました。

↓関連する過去のブログ

部下の方々に教えてもらったこと - うめさんブログ

 

 休職し、アメリカで昼は家事と育児をしつつ、夜は大学で経営学を学んだ時も、組織論や人的資源管理といった分野に惹かれ、卒業し仕事に復帰した後も、学術書を読んだりしていました。

 

 「あぁ、自分はこれをずっとやっていきたいんだな。」ということに確信が持てた瞬間、転職しようと思いました。

 

 

 

2.今までの会社ではやれないこと

 

 さて、「やりたいことがあるから」という前向きな理由がもちろん大きいのですが、当然「やれないこと」があるから、仕事を変えたわけです。

 

(念のため注:これまでの記載も、ここからの記載も、もちろんすべて個人的な見解です。)

 

 今までの会社の場合、人事制度の主要な部分は別の組織が決めており、会社が変えていけることの自由度が限られていました。

 

 また、ジェネラリストを育てるという意味では良いかもしれませんが、私のように分野をまたいだ異動があまりに多いと、専門性が身に付きませんし、自分が好きな人や組織のことだけをやるというわけにはいきません。

 

 これは、人事を担当する部署の人も例外ではなく、平均して2年ほどしか在籍できないため、変えていけることの限界があります。

 もちろん人事部局の人は、社内の人事制度に熟知し、社員のために多くの時間を割いているのですが、とかく日々の制度運用が忙しく、人事関係のデータを継続的に集めて分析したり、学術的な理論を学んだり、人事制度を抜本的に変えたりということに十分な時間が割けません。

 例えば、誰がどんなポテンシャルを秘めていて、それをどう伸ばしていくのか、ということを客観的かつ科学的な方法で評価できるほどの専門家にはなかなかなれません。

 

 さらに、同業他社がいないため人の出入りが少ないこと、つまり一度採用したら退職までいることを前提に、人的資源の管理がなされているため、能力を伸ばしていこうというよりは、能力が伸びた人だけを残すという管理の仕方になっています。

 この点が、プロジェクトや業務の管理についてはしっかり行うが、人的資源の管理にはあまり注意を払わないということにつながっていると感じました。

 

↓関連する過去のブログ

人的資源の特徴 - うめさんブログ

 

 また、組織と言うのは、自己の能力を磨き優秀な業績をあげた人が上にあがっていくのですが、同時に、能力や業績に大きな影響を与えるその組織の価値観(組織文化)に最も適合した人が出世していきます。

 そのため、トップの人が組織を変えようとすることは、自分の土台を一度壊すことになるため自己矛盾が生じます。よって、人や組織は外圧があった方が変わりやすいと言えます。

 

↓関連する過去のブログ

組織行動論 メモ9 『組織文化』 - うめさんブログ

 

 そこで、今回自分は、組織外部から人材育成や組織開発をサポートする専門家となる道を選びました。

 これからは、「土木構造物をつくるサポート」から「人や組織をつくるサポート」をすることを通じて、社会に貢献したいと思います。

 

3.最後に「ドラクエ人生論」より

 

レベル20になったら転職するだろ。レベル1に落ちるのが怖くて魔法戦士になれるか。

 

もし強い敵にやられても、教会からやりなおすだけだ。お金はなくなるが、経験は残っている。