人事制度と会社の戦略

『すべての人事制度は、会社の目的・戦略に合致していなければならない』

 

人的資源管理(第2回)です。

 
 当たり前のように思えて、すべての人事制度を会社の目的や戦略と合致させるのは非常に難しいです。

 まず会社の目的や戦略を明確にする必要があります。その目的や戦略が、「利益を上げること」といったどの会社にも当てはまるようなものでは意味がありません。

 例えば、採用活動において、どの会社も「優秀な人材を」とか「コミュニケーション能力の高い人材を」と考えますが、会社の目的や戦略を踏まえて、どのような人材が欲しいのか、どのような能力を重要視するのか、を具体的にしなくては、応募者の選定ができません。

 

 この会社の目的と採用を一致させた好例はウォールマートです。
 採用に当たって給料は重要な要素であり、良い人材をとるためには、より高い給料を用意する必要があります。また、従業員の満足度はお客の満足度とつながっており、従業員が不満を持っていては、顧客に良いサービスが提供できません。ところが、高い給料はコストとなり、巡り巡って製品価格が高くなってしまいます。するとウォールマートの目的・戦略である「どこよりも安いものを提供する」という方針と矛盾してしまいます。
 そこでウォールマートは、パートタイム従業員のシフト調整が簡単にできる独自システムを導入します。これにより、給料ではなく働きやすさを従業員に提供し、パートタイム従業員の残業時間を大幅に削減しています。

 (注:ここでは会社の目的・戦略と人事制度を一致させた好例として取り上げていますが、ウォールマートのローコスト戦略を実現するための雇用に係る取り組みに対しては、いろいろと批判や訴訟が起きており、2005年には巨額の制裁金を支払っています。)

 

 人事制度を新たに作るときはもちろん、既存の人事制度についても、ちゃんと会社の目的・戦略に合っているか、その目的・戦略に沿った運用がなされているか、さらに、それが顧客の満足度を高めることにつながっているのかどうかを考えなくてはなりません。
  
出典:Bernardin, H. J. (2013). Human resource management: An experiential approach (Sixth ed.)