人事制度と会社の戦略 事例:サイボウズ株式会社

『すべての人事制度は、会社の目的・戦略に合致していなければならない』
 事例:サイボウズ株式会社
 

人的資源管理(第3回)です。  
 
 前回とりあげた『人事制度は、会社の目的・戦略に合致していなければならない』について、サイボウズ株式会社の取り組みを紹介します。
 
 サイボウズ株式会社の青野社長の書籍「チームのことだけ、考えた。」には、今学期学んだ「人的資源管理」における理論なことが、リアルな具体例として述べられています。
 
 サイボウズ株式会社は、1997年にいわゆるITベンチャーとして設立し、今年で20周年を迎える、グループウェア(チーム内でありとあらゆる情報を共有し、チームワークを高めるソフトウェア)を提供している企業。
 
 設立当初から、優れたソフトウエアを世に送り出し、事業は拡大していくが、事業の拡大に伴い、事業部制を導入し、成果主義の人事制度を導入するも、離職率は28%(つまり、1年後には社員4人のうち1人が辞める)状況となっています。
 
 青野社長は、この立て直しのため、まず会社の「ミッション」を、執行役員とともに作り上げて、さらにこのミッションについて社員からの意見を聞いています。そういった対話を通じて、ビジョンに含まれている「一単語」についても定義付けを行っていきます。そしてそれを全社員に対して社長自らの言葉で語っています。
 このミッションを徹底的に練り上げ社員で共通の認識を持つことが、その社の事業のみならず、人事制度を議論する上での土台となります。
 
 次に組織の「ミッション」に対して、どのような組織を目指すべきかを議論しています。当初3つの方針を打ち出していますが、それから7年の間に、一度打ち出した方針の実現に向けて努力を重ねつつも、「根本的なところで説明できなくなり(原文抜粋)」一つに絞られている。こういった議論の積み重ねが、人事制度を作るうえでの大きな指針となります。
 
 そしていよいよ人事制度の構築。サイボウズにおいても、多くの工夫と失敗を重ねていく中で、以下の結論に達していますが、これらは学術分野における研究成果と一致しています。
 ・各人事制度における目的を明確にする。
 ・各人事制度の目的は、組織全体の理想に紐づける。
 ・各人事制度の目的に共感が得られるよう、制度を作るプロセスをオープンにし、社員に参加してもらう。
 ・各人事制度をトップが率先して利用する。
 
 人事制度上は正しいが、目的に合っていない使い方として、こんな例が挙げられていました。ある社員が「1か月、退職日を延長したい。そうすれば、来期の有給休暇が20日付与され、もう1か月休みながら給料をもらえる」と言った。
 有給休暇の制度が、1年間健康的に働き続けるために適切に休息をとるためのものだとすると、この使い方は目的に合致していません。
 
 また、福利厚生の一環として、外出中のコーヒーショップの費用を会社が負担することとした際も、社長から、この制度の目的を社員に発信しています。「外勤を優遇するものでなく、会社のミッションを達成するために、外出時においてもより効率よく働いてもらうため(コーヒーを頼むことで外出先での仕事スペースを確保するため)のものである」と
 
 さらに、育児休暇についても、社長が自らが利用している。これで、社員も使いやすくなる。
 
 今回紹介した青野社長の書籍は、理論を学んだ直後だっただけに、『人事制度は、会社の目的・戦略に合致していなければならない』を実践するにあたっての具体のイメージが非常に理解しやすいものでした。
 ベンチャーだから、小規模な組織だから(サイボウズは現時点で社員数500名ほど)可能なのでは、と言わずに、今一度人事制度と戦略の一致を考えてみたいです。
 
出典:
 青野慶久(2015)チームのことだけ、考えた。ダイヤモンド社
 Bernardin, H. J. (2013). Human resource management: An experiential approach (Sixth ed.)