人事部門と現場管理職の関係

『現場管理職の役割は極めて大きい』

 

人的資源管理(第5回)です。

 

 人事部門は、他部署に比べて圧倒的に人員が少なく、また人事異動(配置:Staffing)以外の保持(Retention)、開発(Development)、調整(Adjustment)、対応(Managing Change)[人事の仕事 - うめさんブログ]といった活動については、何かと縁の下の力持ちといった役割を担っているので、現場で働く人はあまり意識することがないと思われる。現場はそれよりも日々現場で起こる様々な活動への対応で追われている。
 
 ところが、人的資源管理の研究分野では、この現場の管理職(課長等)の役割の重要性が指摘されている。
 
 図は、人事における各活動における、現場管理職(Line Management)と人事部門(Human Resource department)の役割を示したもの。

f:id:umesanx:20190104022620j:plain

 例えば、配置(Staffing)にあたっては、現場管理職から、現場に必要なスキルに関するデータを提供し、人事部門では、そのデータをもとに、採用時の試験内容を定める。

 保持(Retention)にあたっては、人事部門は給与や福利厚生制度を定め、現場管理職は部下を公正に評価する。

 開発(Development)においては、現場はオン・ザ・ジョブ トレーニングを日々行い、人事部門は、研修計画を構築する。

 調整(Adjustment)においては、人事部門は、現場の不平や不満を調査し、現場管理職は業務内容を調整する。

 対応(Managing Change)においては、現場は会社のビジョンを実現するための労働力を提供し、人事部門はそのプロセスを促進するための専門知識を提供する。

 

 よって、現場は「また人事部門が何かやってるなぁ」とか「人事関係は自分にはどうしようもないから関わりようがない」と考えるのではなく、人事を担う一員であるとの認識に立ち、会社の目的や戦略を理解したうえで、人事にかかわる現場の諸活動を行う必要がある。決して目の前の忙しさに負けて、適当に人事評価を行ったり、部下の育成を怠ったりしてはならないし、積極的に人事部門に現場の声を届けてあげる必要がある。
 
 一方、人事部門は「新しい制度について文書で通知したし、イントラにも載せたので周知完了。」とか「この人事制度で現場は変わるはず。(そして、作りっぱなし。)」と考えるのではなく、たえず現場からの声に耳を傾け、同時に会社の目的や戦略と人事制度のかかわりについて現場の理解を促進し、必要に応じてトレーニング(例:人事評価方法等)等で現場管理職をサポートする必要がある
 なお、おそらく人事部門が現場に意見を聞こうとすると警戒されるので、警戒されないよう日々の関係を構築しておく必要がある。

 

 現場の管理職はとかく忙しい。ルーティンで回さなければならない仕事の上に、日々問題が起き新たな対応に迫られる。そして、とにかく現場を動かさなければならない。
それでも、現場の管理職にしかできない仕事の大きな一つが、この人事にまつわる仕事である。ついつい、管理職になる以前に自分がやっていた係長レベルの業務に手を出してしまいがちだが、ぐっと我慢し、管理職にしかできない、部下に任せることができない、この人事関係の仕事をやりとげる義務がある。

出典:
Cascio, W. F. (2016). Managing human resources: Productivity, quality of work life, profits (Tenth ed.)