要点:
やる気が出ないのには合理的な理由がある。起こった出来事をどう認識するかによって次の行動が変わる。
筆者紹介:
感想:
「やらなきゃいけないとわかっちゃいるけどとりかかれない」には合理的な理由がありました。そしてやる気を出すカギは「あなたが置かれてきた環境とそれをどう理解するか」にかかっています。
1.無気力は学習される
「やらなきゃいけないと分かっているなら、気合一発やればいいではないか」と思いますよね。でもそう簡単にやる気は出ないんです。
ある行動をすれば求められる結果が得られる状況のことを、「行動と結果に随伴性がある」といいますが、この随伴性がない環境下におかれ続けると無気力になります。
印象的だったのが次の犬の実験。犬Aを檻の中に入れ、犬の行動とは”無関係”に電気ショックを与えます(随伴性ナシ)。最初は犬はなんとか電気ショックから逃れようといろいろ試すのですが、電気ショックは行動とは無関係に与えられるので、最終的には無気力になり全く動かなくなります。
比較対象として、犬Bを同じように檻に入れ電気ショックを与えるのですが、檻の中にあるブザーを押せば電気ショックを止められるようにします(随伴性アリ)。すると、犬はいろいろ試して、鼻でブザーを押せるようになります。ここまでは、犬AもBも合理的な行動と言えます。
さて、ここからが重要です。一度無気力となった(無気力であることを学習した)犬Aを今度はある行動を起こせば電気ショックから逃れられる環境(随伴性アリ)におきます。ところが犬Aは何も試そうとせず、ひたすらじっと耐えるばかりです。それに比べて、犬Bは、別の方法を探し出し、見事電気ショックを回避します。
この行動と結果に随伴性がない環境下で努力をするのは極めて非合理的なわけですが、ところが一部の人は努力してしまいます。当然うまくいかないわけですが、それを環境に原因を求めるのではなく、自分自身に原因があると解釈し、どんどん自分を追い込んでしまいます。これは極めて危険です。
2.原因をどこに求めるか
何かが起きた時、私たちは自然と「なぜこうなったのだろう」と疑問を発します。これを「原因帰属」と言います。心理学において、この「原因帰属」がなぜ重要かというと、「何をできごとの原因と認知するかによって、そこで感じる感情やその後のできごとに対する期待、さらには実際の行動のとり方が大きく変わってしまう」からです。
例えば、デートに失敗したときに、その原因を「自分の顔のせいだ」と思ってしまうと、容姿はなかなか簡単には変えられませんから、行動の起こしようがなく、感情的にも自分を卑下する方向に行ってしまいます。ところが、その原因を「デートプランのせいだ」と思えば、行く場所を変えたり、レストランを変えたりと、改善する行動がとれ、感情的にも前向きになれるでしょう。
心理学者のワイナーは、「原因をどこに求めるかによって(原因帰属)、”感情”が生じ、また、次回どのようなことが起こるかという”期待”が生まれ、これにより次の行動が引き起こされる」というモデルを提唱しています。
そして原因帰属を次の3つの次元に分類しています。
- 位置次元[内的・外的] 例)テストの結果が良かったのは、自分が努力したから(内的)、テストの問題が簡単だったから(外的)
- 安定性次元[安定・不安定] 例)試合の結果が良かったのは、運動神経が良いから(安定)、たまたま調子が良かったから(不安定)
- 統制可能性次元[コントロールできる・できない] 例)テストの結果が悪かったのは、努力しなかったから(コントロールできる)、運悪く風邪をひいてしまったから(コントロールできない)
3-1.感情をコントロールする
感情は、「生理的興奮」にそれをどう認知するかという「認知的ラベル」を貼ることで生じます。
例えば、胸がドキドキするといった生理的現象を、目の前にいる人が好きだからと認識するのか、橋の上にいるからと認識するのかで、生じる感情は異なります。
(高所にいることによるドキドキを目の前の人が好きだからなのかもと誤解することが、有名な「吊り橋効果」です。)
そして先ほどの原因帰属の次元とのつながりで言うと、原因を[内的]なものと捉えるか[外的]なものと捉えるかという「位置次元」が感情と大きくかかわっています。テストの結果が悪かった時、自分の努力が足りなかったからと思えば、気分は落ち込むかもしれませんが、先生の教え方が悪かったと思えば、気分は落ち込まないか、もしくは先生への怒りが生じるでしょう。
感情は次の行動を引き起こすので、[内的]に自分自身に原因を求めることで、悔しい思いをし、次に向けて頑張るという原動力にもなります。が、一方で何でもかんでも自分のせいにしてしまうと、必要以上に落ち込み、無力感を生じ、あきらめてしまうということにもなります。
どこに原因を求めるかで感情をコントロールすることができます。
3-2.期待をコントロールする
行動したらどのようなことが起こるかという”期待”は、[安定性次元]の影響を受けます。例えば、マラソンで良い結果が出た時に、それを自分の運動能力のおかげだと捉える(安定的)と、次も良い結果が出せそうだという”期待”が生まれます。逆に、マラソンで悪い結果が出ても、それを、たまたま風邪気味で調子が悪かったから(不安定)と捉えると、今度は良い結果が出せるかもという”期待”を持ち続けることができます。
極端なことを言うと、ポジティブな結果が出たら、安定的な原因に理由を求め、ネガティブな結果が出たら不安定な原因に理由を求めることで、”期待”感を保つことができます。
ところがある行動がある結果を生むという随伴性の高い状況でも、その行動がとれない場合があります。毎日コツコツ勉強すれば試験で良い成績が取れることが分かっていても、努力できないというものです。
これを説明するために、「行動コスト」という考えを使います。頑張れば望む結果が得られるという場合においても、この「頑張れば」という条件が厳しすぎるのです。さらに問題は、この「頑張れば」という条件をクリアできてしまう人を見ると、クリアできなかった人は、「自分はなんてダメな人間だろう」と考えてしまいます。
しばしば親は「勉強すれば」と言いますが、この「勉強すれば」という行動コストが、ただ口で言うだけの親と、実際に勉強する子供との間には、大きなギャップがある場合があります。よって「行動コスト」に関する認識をすり合わせ、その行動コストを下げてやる必要があります。
3-3.他人の評価をコントロールする
原因帰属の最後の次元は[統制可能性次元]です。これは、意図的にコントロールできるかどうかというものです。
例えば、努力はコントロール可ですが、才能はコントロール不可です。そしてこの[統制可能性次元]は、他人の評価に影響を与えます。試験の成績が悪かったとしても、その日たまたま風邪をひいていたのであれば、先生は怒らないでしょうが、前日までちっとも勉強しなかったとしたら叱られるかもしれません。
努力すれば評価はされるわけですから、努力すればいいではないかと考えられるのですが、「あらかじめ失敗が予測される場合」は自己防衛のため、統制可能であるにもかかわらず努力を控え、かつ統制不可能な風邪をひいたといったような言い訳を用いることとなります。なぜなら努力したのに良い結果が得られなかったら、それは恥や能力が低いとみなされてしまうからです。
もちろん、こういった方法ばかりとっていると、いつまでたっても何もできないままなのですが、短期的であれば「自己防衛」のためにこの方法をとるというのはありだと思います。
4.為せば成る?
「為せば成る。為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉があり、多分日本人の好きな言葉なのかと思います。が、今まで述べてきたことを踏まえると、これがうまく機能しないどころか、人を追い詰める場合もあります。
まず、本当に為せば成るのか、つまり行動と結果に随伴性があるのかを確認する必要があります。次に、為せばという条件、つまり行動コストが高すぎはしないかということを確認する必要があります。
5.ではやる気を出すためにどうするか(自分なりのまとめ)
- 随伴性を確認し、随伴性が高まるように工夫
- 行動コストを下げるため、なるべく小さく直近の目標を設定
- 原因を時に内的に、時に外的に求め、感情をコントロール
- 時には自己防衛したって良い。
以上エッセンスのみ紹介しましたが、原著ではより分かりやすく詳しい説明やデータが掲載されています。是非原著を読んでみて下さい。
ではでは。