動的平衡

静岡新聞(第11回)です。

 

(静岡新聞 2017年3月16日掲載)

 天城の山々には、春、夏、秋、冬と、四季ごとに訪れている。太郎杉やブナの原生林、八丁池などを巡り、狩野川の源流で淹れたコーヒーを飲む。いつ訪れても変わらぬ素晴らしさを見せてくれる天城だが、雨の後には、ところどころに斜面の崩落が見られるなど、姿が変わっている。

 

 かなり前だが、福岡伸一著『生物と無生物のあいだ』の中で“動的平衡”という言葉に出合った。例えば、皮膚。変わらないように見えて、毎日あかとなって消える一方、新たな皮膚が形成されている。

 この言葉は私たちが国土開発をする上でもとても大切なことのように思う。河川はいつもそこに存在するが、常に水も砂も流れ、その量は刻々と変化している。洪水を防ぐために水をたくさん流そうとして安易に川の底を掘ると、しばらくしてまた埋まってしまう。海岸が削られてしまうからといってそこだけにブロックを置くと、下流側に砂が流れず、削れる範囲が拡大してしまう。

 

 国土開発は自然を征服することではない。大先輩からは、「国土に働きかけ、その恵みを分けてもらうこと」と教わった。自然の仕組みである“動的平衡”を壊しては、恵みは得られない。

 “動的平衡”の実現のため、各種データをとったり、数値シミュレーションを繰り返したりと、最新の技術を用いることもある。だが、まずは自然の中に身を置くことで、その流れを感じることが肝要である。そして、山から川へ、川から海へとイメージを膨らませる。これからも天城に出かけたい。