オンボーディングプログラムと業務の引継

 人事異動の時期ですね。今回は「オンボーディングプログラムと業務の引継」についてです。

 

 新入社員や転職してきた社員が早く会社に馴染み仕事で成果を出せるようにする研修のことを「オンボーディングプログラム(onboarding program)」と言います。『新人研修』とかのことです。

(以下、分かりやすくするため、オンボーディングプログラムのことを、『新人研修』と表現します。)

 

 図は、効果的な新人研修のための4つのステップを示しています。

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ステップ1.Compliance:
 仕事をする上で知っておかなければならない法律や社内のルール・手続きの理解
ステップ2.Clarification:
 仕事内容や求められている成果の理解
ステップ3.Culture:
 会社の歴史や伝統、価値観や規範の理解
ステップ4.Connection:
 公式及び非公式な人間関係の理解と構築
例: 仕事で直接関係のある上司や部下、取引先などは、公式な人間関係。仕事で直接関係はないが、同期入社の人や、社内の実力者などは、非公式な人間関係。

 

 新人研修は、新たな仕事に満足感を持ってもらい、十分な成果を上げてもらい、そして離職を防止する上で重要です。

 

 ステップ1に示した仕事に関係する法律を知らなければ、会社に重大な損害を及ぼしてしまうかもしれませんし、社内決裁の仕方を始め、旅費の申請といったちょっとした社内手続きですら新人にはストレスでしょう。多くの不祥事等を踏まえ、だいぶ前からコンプライアンス(法令遵守)については取り組まれていると思いますが、意外に社内手続きについては手薄かもしれません。

 

 ステップ2は、仕事をしてもらう以上は、どのような仕事内容なのかは充分に説明されると思いますが、どの程度の成果を求めるかについてまで明確にされていないかもしれません。上司の側から、新人に何を期待しているのかを示す必要がありますし、その成果が得られるようフォローする必要があります。

 

 ステップ3の「会社の歴史や伝統、価値観や規範の理解」は、個人的には、最も重要だと思っています。なぜならばこれを理解していないと、スムーズに仕事をすることができないからです。

 会社の歴史や伝統、価値観や規範とは、言い換えれば「組織文化」です。組織文化には目に見えやすい儀式的なことから、なんとなくみんなが持っている共通認識などがあります。

組織行動論 メモ9 『組織文化』 - うめさんブログ

 中々明文化しづらいかもしれませんが、経営理念や社内の歴史(特に伝説のように語り継がれている出来事や、プロジェクト・製品にまつわる逸話)、社長の挨拶など、すでに形になっているものもあるでしょうから、これらを活用すると良いでしょう。
 この組織文化は、器用な人は仕事をする中でなんとなく感知し、自分をその組織に合わせることが出来るかもしれませんが、そうでない人もいます。「この仕事はなんとなく自分にあっていない気がする」と新人が言うのは、ステップ2の仕事内容ではなく、ステップ3の組織文化のことを言っていることが多いように思います。組織文化はなかなか外から見ることのできないことを多く含んでいます。積極的に伝えていく必要があると思います。

 

 ステップ4は、社内の人間関係はおそらく仕事をしていく中で、ミーティングで自己紹介をしたりしながら、遅かれ早かれ構築されるでしょう。
 しかし、社外の人との人間関係は組織として長い時間をかけて築いてきた重要な資産ですので、仕事で会う前に、過去の経緯や好みなども把握しておくべきです。
 非公式な人間関係は、先の組織文化とも関係しますが、例えば、同期との交流や社内で同じ趣味を持つ仲間は、仕事をこなすということのためだけではなく、安心感や一体感を生むための重要なつながりです。

 

 これらの内容をうまく新人研修の研修プログラムの中に組み込む必要があります。また、よく新人研修の際に、社内の人が自分の経験などを話す講話のような授業がありますが、その際に、講演者にこの4つのステップを意識しつつ話してもらうと良いでしょう。

 

 さて、ここまでは、「新人研修」に関することとして、4つのステップについて述べてきましたが、これらは「人事異動に伴う業務引継」においても活用できると思っています。

 業務を引き継ぐ際には、ステップ2の仕事内容だけでなく、何が期待されているのか、さらに他部署や他支店からの来る後任には、ステップ3やステップ4をしっかりと引き継ぐ必要があります。
 個人的な経験では、ステップ1や2は部下がいればフォローしてもらえるかもしれませんが、ステップ3や4は前任者によるフォローが必須ですし、さらに立場が上になればなるほどステップ4の社外の人間関係こそ最も引き継いでいかなければならないものでしょう。

 

 新人や中途採用者、後任に楽しく仕事をしてもらうため、人事部局や管理職、前任者はしっかりと備え、伝えることが肝心です。

 

参考:
Noe, R. A. (2017). Employee training and development (Seventh ed.). New York, NY: McGraw-Hill Education.