Project Quality Management(品質管理)

 今回はProject Quality Management(品質管理)です。
 
 PMBOK(プロジェクトマネジメントのガイドライン)には、品質管理について、どう計画を立て、実行し、そしてコントロールするかについて、一般的な流れや手法が書かれています。しかし、業界によって品質管理のやり方は異なるため、ここでは、品質とは何か、品質をマネジメントするとはどういうことかという点に焦点を当ててみました。
 
1.Qualityとは
 様々な国際基準を定めているISOの定義によると、「Quality」とは「the degree to which a set of inherent characteristics fulfill requirements」(ISO 9000)とのことです。思い切って簡単に訳すと「どの程度(その製品/サービスに)求められている事項を満たしているか」となります。
 
 この定義をもう少し理解するために「Quality」と「Grade」について説明します。
Gradeとは「同じ機能を有しているがその性質が違う」ことを意味します。分かりにくいので、いくつか例を示します。
 
例えば、
車)High-Grade:レクサス Low-Grade:ヴィッツ
機内サービス)High-Grade:ファーストクラス Low-Grade:エコノミークラス
レストラン)High-Grade:ミシュランガイドに掲載されているレストラン Low-Grade:定食屋
 
 レクサスもヴィッツもどちらも車として安全に走行できますが、やはりレクサスの方が乗り心地が良いでしょう。
 ファーストクラスに乗ってもエコノミーに乗っても同じ時間で目的地まで着きますが、機内での食事の豪華さや座席の広さは異なります。
 
 では、「High-Quality」「Low-Quality」とは何でしょうか?
 先ほどの定義「どの程度(その製品/サービスに)求められている事項を満たしているか」にのっとると、求められている事項を満たしていればHigh-Quality満たしていなければLow-Qualityとなります。
 例えば、私が単身赴任中の2年間だけもてば良いと思って買った安い洗濯機が、ちゃんと2年間故障もせずに動いてくれたのであれば、安い洗濯機であってもHigh-Qualityです。
 逆に、子供が大きくなっても使いたいから10年ぐらいはもってほしいと思って買った高い洗濯機が、5年で壊れてしまったのであれば、高い洗濯機であってもLow-Qualityです。
 
 時折「クオリティが高い」という言葉の差す内容がGradeのことを指していたりしますが、このプロジェクトマネジメントにおける品質とはあくまで「どの程度求められている事項を満たしているか」という程度のことを指します。
 
【閑話休題】
「Qualityは商品によって異なり、そのマネジメントの仕方も異なりますというお話」
 マイクロソフトの創始者であるビル・ゲイツが、ある展覧会の場で、「もしGeneral Motorsがコンピューター業界のような技術革新を続けていたら、今頃車の値段は1台25ドルになっていて、燃費も1ガロン当たり1,000マイル(1リットル当たり約420km)となっていただろう」と発言しました。
 この発言に対して、General Motorsはプレスリリースで「もし私たちGneral Motorsがマイクロソフトのように技術開発を行っていたら、私たちが乗る車は次のようになっていただろう」と言いました。
  • 特に理由もなく1日に2回はクラッシュする。
  • 道路が舗装されなおされる度に新しい車を買わなければならない。
  • 座席はすべての人に同じサイズを強要することとなる。
等々
 
 
2.品質とマネジメント
 ここからは品質管理を学んで自分が気づいたことを述べていきます。
 
「品質は顧客が決める」
 繰り返しになりますが、品質とは「どの程度(その製品/サービスに)求められている事項を満たしているか」ということでした。では、この求められている事項を満たしているかどうかを決めるのは誰かというと、最終的には顧客です。
 例えば、家を作るにあたっては、行政が定めた建築基準法などの基準を守らなければなりませんが、最終的には、そこに住む人に満足してもらわなければなりません。
 また、顧客が求めるものは、Gradeによって異なります。例えば、ミシュランガイドに掲載されているレストランで食事をする人は、味の良さはもちろん、雰囲気の良さや給仕のきめ細かさなども求めているでしょう。定食屋で食事をする人は、ボリュームを求めていたり、栄養バランスを求めていたりするでしょう。
                                    
「品質改善とは」
 企業は絶え間ない品質改善を行っていく必要がありますが、この改善とは、Low-QualityをHigh-Qualityにすることを意味します。つまり、求められている事項を満たせるようにすることです。例えば、求められている強度を満たすようにするとか、不良品の数を減らすといったことです。もしくは、より安く同じ品質を満たせるようにするということもあります。
 
 ところが品質改善と称して、現場の製造部門の判断で、求められている事項(要求事項)を変更してしまうことがあります。この場合よくあるのが、求められている以上の品質にしてしまうというものです。これは特に実際に物を作っている現場においては、より良いものを作りたいという思いもあってか、取り組みやすいものです。
 例えば、定食屋の親父さんがもっと美味しいかつ丼を作ろうとして、とても高級な豚肉を買うといったものです。確かに美味しくなりますが、それが定食屋を利用する学生の求める物かというとそうではないでしょう。なぜなら、高級な豚肉を使った分、かつ丼の値段も上がってしまい、安くてボリュームのあるものを食べたい思っている学生の要求事項とずれてしまうからです。
 
 Project Quality Managementは、最初に要求事項を定めるところから始まります。この要求事項は、プロジェクトチャーター(プロジェクト骨子)に定めたそもそものプロジェクトの目的を踏まえ、プロジェクトスコープマネジメントを通じて、どのような製品やサービスを生み出すかについて関係者間で得られた合意をもとに、定められています。よって、おいそれと一部門の判断で要求事項を変えてしまうわけにはいきません。もちろん要求事項は変えてはいけないというものではなく、あくまでプロジェクト全体のマネジメントの中で顧客が求めているものを議論し、要求事項を変えていかなければならない、ということです。
 
 
「要求事項とマーケティング」
 要求事項を満たすということは顧客の期待に応えることだとすると、マーケティングにおける「顧客が期待するサービス」と「顧客が実際に受け取るサービス」を整合させることが必要となります。
 
 品質管理というと、「顧客が実際に受け取るサービス」のみに焦点があてられがちです。材料を吟味し、製造ラインを改善し、従業員をトレーニングするなどです。それらを通じて、自分たちが描いた「顧客が実際に受け取るサービス」を確実に実現しようとします。ところが、もし要求事項、言い換えれば「顧客が期待するサービス」を読み違えていたとすると、これらの活動のマネジメントはすべて意味のないものになってしまいます。「顧客が期待するサービス」を確実にとらえることが必要です。
 また、「顧客が実際に受け取るサービス」の価値を適切に顧客に伝えておく必要があります。例えば、過大広告によって顧客の期待値を上げすぎてしまうと、結局がっかりさせてしまうことになります。逆に、適切に顧客とコミュニケーションが取れていれば、「顧客が期待するサービス」と「顧客が実際に受け取るサービス」のギャップを小さくできるでしょう。
 例えば、ウォールマートに行くお客さんは、安い値段でそれなりの物を手に入れられることを期待しているわけなので、それなりの物を製造しておけばよいことになります。
 
「テキサスの道路と日本の道路」
 初めてテキサスに来て空港から自宅に向かう間にまず目についたのは、あまりにも道路がデコボコというものでした。高速道路ですらデコボコ、ましてや一般道には穴が開いていたり、修理してあったとしても余計に盛り上がってしまっていたり。そのせいで、この2年間の間に、自分の車は日本製(トヨタ車)なのに、タイヤが2回もパンクしましたし、何度も車の修理に出しました。このテキサスの道路に比べると、日本の道路はまるで鏡のようです。
 逆に、テキサス州の高速道路は無料です。そして日本の高速道路は有料です。それでもテキサスでも日本でも車は同じように走っています。どの程度コストが異なるのか、どの程度安全性が異なるのかはわかりませんが、道路に何を求めるかが異なると、ここまで品質が異なるかと驚きました。
 
参考:
Kotler, P. (2016). A framework for marketing management (Sixth ed.)
 
Project Management Institute. (2017). A guide to the project management body of knowledge (PMBOK guide) (Sixth ed.). Newtown Square, Pennsylvania: Project Management Institute, Inc.
 
Schwalbe, K. (2015). Information technology project management (Eighth ed.)