Knowledge Management (知識の共有)

 

 今自分がいる会社は、自分も含めなんとほとんどが他の会社からの出向者です。平均2年で元の会社に戻ってしまうので、「チームや会社として知識や経験を蓄積し、今行っている事業において、過去の失敗を回避したり、またよりよい成果を生み出したり、さらに新たなプロジェクトを生み出したりする」ためには、工夫が必要です。一方、長く勤めている人が多い会社でも、人事異動があるため、やはり同じように工夫が必要です。

 

 そこで、今回紹介するのは、プロジェクトマネジメントにおける「Knowledge Management(ナレッジ マネジメント)」です。ひとまず日本語訳としては「知識の共有」と訳しますが、後述するように、ただ「知識」を「共有」することだけではありません。

 

1.知識とは。知識をマネジメントするとは。

 まず、知識には、「形式知」「暗黙知」があります。「形式知」とは、言葉を用いて明確に表現することができる知識です。例えば、ある金属製品の加工手順を示したマニュアルなどです。一方の「暗黙知」とは、個人が持っている経験や感覚などの言葉で表現することが難しい知識です。例えば、町工場で金属加工を行っている職人さんの勘のようなものです。
 「形式知」を集めることが、ナレッジマネジメントの第一歩となりますが、この「形式知」だけではすべてを伝えることはできません。先の例のように、ある金属製品の加工手順を示したマニュアルがあれば誰でも経験を積んだ職人さんと同じような精度の製品が作れるようになるわけではありません。よって、「形式知」と一緒に「暗黙知」をどう一緒に伝えていくのか、また、「暗黙知」をどう「形式知」に変えていくのかといったところが、一つの肝になります。
 
 また、Knowledge Managementを「知識の共有」と訳しましたが、この言葉には、知識を「共有」することだけではなく、「統合」し新たな知識を生み出すことも含まれています。よって、ただひたすらに文書を集めるだけでなく、その蓄積から新たなアイディアが生まれるようにする必要があります。

 

2.ツールとテクニック

 Knowledge Managementを行うためのツールやテクニックとしては、以下のようなものがあります。
・社内セミナーや研修
・On the Job Training
・文書の保存
・意見交換の場の設置
・新たな試みを試すことのできる場の設置
・キャリアディベロップメント(どういう部署を歩み経験を積んでいくか)

 

 おそらく皆さんの会社でも取り組んでいることがあるかと思いますが、まだまだ工夫の余地は大きいと思います。例えば、社内セミナーや研修を行ったら、その内容を共有する。On the Job Trainingでは、トレイナー(訓練する人)に丸投げするのではなく、トレイナーを育成・サポートする体制を作る。文書を保存するにあたっては、最終成果物だけでなく、途中成果物も保管する。紙での保存だけでなく、ちゃんと検索できるようデジタル化して保存する、など。
 そして、「意見交換の場」や「新たな試みを試すことのできる場」などは、知識の「共有」から「統合」を生み出すための、強力なツールとなるかと思います。

 

3.ナレッジマネジメントの実行にあたって

1)幹部・上司の協力
 ナレッジマネジメントの実行に当たっては、なによりも幹部・上司の協力が必要です。幹部・上司はいくつかの重要な役割を担います。

 まず、「知識を共有するんだ」という社内の雰囲気を作る必要があります。知識を得るには時間と労力が必要であり、情報は権力であり、また内容によっては厳しい情報管理が必要なため、共有することがためらわれることもあるかもしれません。それでも、より良い成果のために「みんなで学びを共有しよう!」という社内の雰囲気を作らなければ、前述したどんなツールやテクニックを用いても、ナレッジマネジメントは進みません。

 幹部が率先して学び、情報を共有し、それらの情報から新たな価値あるものを生み出していく姿勢を見せる必要があります。

 また、知識の「共有」や「統合」の必要性を理解できるのも、上司です。それぞれの担当者は自分の担当である目の前の仕事をこなすことに一杯で、自分のやっていることがどう他の業務に関連しているのかについては、なかなか気づかないこともあります。上司は、複数の担当者の仕事をマネジメントするのが仕事なわけですから、当然その過程で知識の「共有」や「統合」を行っています。よく「情報共有ができてないではないか」と怒る上司もいますが、そのマネジメントも含めて上司の仕事です。

 さらに、どういった知識を身につけていったらよいのかという観点から、優秀な上司は非常に良いお手本となります。ある業務に詳しい人をSMEs(Subject Matter Experts)といいますが、まさに多くの知見を有し、実績を残してこられた上司が一体何を知見として持っているのかを分析することで、社内セミナーや研修において何を学んだら良いかといったことが見えてきます。

 

2)様式と手続き、そしてIT

 ナレッジマネジメントを実行するための様々なツールを紹介しましたが、結局は、業務等を通じて得た知識を何に記録していくかという「様式」とどう業務プロセスの中に取り込むのかという「手続き」の話になります。いろいろと考えなければならないことがあるかもしれませんが、まずは簡単な「様式」を作って「手続き」としてルーチンワークの中に組み込んでしまうのが継続させるコツです。

 そして、ITを活用したいところです。先の「2.ツールとテクニック」で挙げたいくつかの項目は、ITを活用することでずっと簡単になるでしょう。研修で使ったスライドをイントラで共有し、誰でもいつでもどこからでも学べるようにする。過去の資料を探すために、書庫にこもって一枚一枚紙をめくっていくのではなく、パソコン上でキーワード検索できるようにする。過去の書類も自動判読できる範囲で文字をデジタル化する。自分が得た知識をイントラ上に公開する、分からないことがあったら社内の人にイントラ上で質問できる、そしてそれに回答したら「いいね」というフィードバックも得られる。

 さらに、そうしたイントラ上にたまってきたデータを分析することで、どういった知識を学ぶべきかといったことや、誰がその知識に詳しいのか、また誰が知識の共有に貢献しているのかといったことも分かるようになるでしょう。

 

 幹部や上司の協力を得て、無理なく楽しくナレッジマネジメントをし、自分もチームも成長し、より良い成果を効率よく上げていきたいものです。

 

参考:
Project Management Institute. (2017). A guide to the project management body of knowledge (PMBOK guide) (Sixth ed.). Newtown Square, Pennsylvania: Project Management Institute, Inc.