読書メモ 部下育成の教科書 著)リクルートマネジメントソリューションズ

 今回の本は、リクルートマネジメントソリューションズさんの「部下育成の教科書」です。
 
 リクルートマネジメントさんは『人材育成や組織開発』を行っている会社で、年間2千社・約15万人に人材育成のトレーニングを行っています(本が発行された2012年時点)。そんな経験から、うまくいっているマネージャーたちが共通して行っていた法則について書かれたのがこの本です。
 
1.自分の経験
 就職してから、いろいろと研修には参加させてもらいましたが、うちの会社は基本「上司の背中を見て学べ」という雰囲気でした。そして、人材育成を担当したときも若手に責任があるかのように、「(自分含め)最近の若手は全く育っていない」と幹部に言われたことを覚えています。
 かくいう自分も管理職となり、人材育成が当然やるべきことの一つとなりましたが、業務をこなすことにいっぱいいっぱいでした。そのため、振り返ってみると、「優秀な子は自分が全くかかわっていないのにさらに伸びていた」し、申し訳ないことに「今一つ力不足だった子は、少ししか伸びていない」状況となってしまいました。
 
 何度目かの管理職の時、「強みを伸ばそう」をキーワードに、人材育成に取り組んでみましたが、どのレベルまで(どの『段階』まで)伸ばしてやる必要があるのかという目標設定がなかなか悩ましいものでした。
 知識や技術といったスキルは目標設定の一つの目安となり、この法律を知っておかなければならない、この手続きができるようにならなければならないなど、業務をこなすために身につけなければならないこととしてリストアップすることはできました。
 しかしながら、知識があるだけで仕事が片付くということでもなく、また、知識は膨大でありかつ更新されていってしまい、さらに人事異動によって改めて身につけなければならないことになることもありうるものなので、スキルだけで目標設定をするのは片手落ちな気がしていました。
 
2.気づき(『 』は著書からの抜粋です。)
2-1.段階ごとの育成方法を理解する
 この本では、まず、『ビジネスパーソン(の成長過程)には段階がある』としており、『スターター』『プレイヤー』『メインプレイヤー』『リーディングプレイヤー』の4つ段階に分けています。そして、この『段階に合わせた育成方法がある』としています。
 この『段階と育成方法は業種や職種を問わず普遍性がある』そうです。さらに、『部下がどの段階にいるのかを測るものさしがあり、このものさしを使う』と部下を育てるためにやるべきことがわかるようになります。
 ここで『段階』とは、例えば管理職同士が『あいつは3年目の割に、よくやっているよ』とか『彼はもう30歳にもなるのに、まだあの程度か』といった会話をするときに、ぼんやりと頭の中に描いている3年目や30歳ならばここまでやって欲しいと思っているレベルのことです。これを明らかにすることで、なかなか設定することが難しい目標がクリアになります。
 
 各段階の詳細については著書をご覧いただきたいですが、例えば『スターター』とは『ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階。社会や会社の一員であるという姿勢を持ち、周囲との関係性を築くことが求められる』。
 期待される役割としては『社会や会社の一員としての姿勢や行動、仕事の仕方を身につける』『周囲からのアドバイスや指摘を真摯に受け止め、行動を変えようとする』などがあります。
 一方で、陥りがちな状態として『周囲となじめず職場で発言できなくなってしまう』『指示内容を誤解したまま進めて間違った結果に終わる』など。
 
 それぞれの段階について『定義』や『期待される役割』、『陥りがちな状態』が、箇条書きで具体的に列挙されているので、これらを『ものさし』として、どの段階にいるのかを判定することができます。チェックリストのような形にしてもよいでしょう。チェックリストにしてしまえば、ある部下について複数の上司(係長、課長補佐等)の視点から評価できるでしょうし、複数の部下の比較もできるようになるでしょう。後述しますが、この『ものさし』を共有することで、チーム全体が育成についての視点を持てるようになります。
 
 各個人の段階が分かったら、次は管理職として、その段階において求められているレベルに到達できるよう、つまり成長できるよう具体のサポートが必要です。管理職が行うべきは『(その段階に合った)仕事を割り当てる』『良し悪しを伝える(フィードバック)』『支援する』ことの3つです。
 
 具体例を見ていきましょう。社会人としてスタートしたばかりの『スターター』に対しては、『相手はどう考えているのかを意識・想像することはビジネスパーソンにとって非常に重要な姿勢である』ことから、『お客様や他部署の視点に触れる機会を作る』仕事を割り当てる必要があります。
 そして『良し悪しを伝える』際には、『小さな前進を認める』ことが必要であり、『支援する』にあたっては『こまめに声がけを行い、職場への安心感を醸成する』必要があります。
 
 もう一つの仕事の割り振り例としては、『スターター』から『プレイヤー』『メインプレイヤー』『リーディングプレイヤー』と段階が上がっていくと、『担当業務を持たせる』『一人ではやり遂げることが難しい質・量の仕事を与える』『プロジェクトやチームのリーダーに任命する』など、仕事のレベルが上がっていきます。
 
2-2.チーム全体で育成に取り組む
 私が支店長をしていた時、入社1~3年目の若手が10数名もいました。その当時はとにかく思いつくまま、多くの人に協力をお願いし、いろいろなことに取り組んでいました。うまくいっていたかどうかは別にして、私がうれしかったのは、取り組みを始めて1年経った頃に、新たにうちの支店に異動してきてくれた中堅の人から、「若手が多いといいですね。支店全体に若手に教えようという雰囲気があります。」と言ってくれたことでした。
 
 人材育成は、一義的には管理職の仕事です。課の若手は課長が担当し、課長以上は幹部が担当することになります。
 しかし、管理職だけでは手が回らないというのも現実です。ピラミッド組織であれば、常に管理職の下に管理職の人数より多い若手がいることになります。フラット化した組織であれば、フラットである分なおさら、マネージャーになった瞬間に、数10人のスタッフをみることになったということにもなりかねません。そのため、チーム全体で育成に取り組む雰囲気を作る必要があります。
 
 この著書では、マネージャーがすべての部下の育成をするのではなく、『リーディングプレーヤー』を巻き込み、さらには業務のラインの中で『メインプレーヤー』や『プレイヤー』も育成を担当し、そして究極的には、チーム全体がお互いに育成をすることのメリットやそのための方策が紹介されています。
 
 この著書でも人材育成の基本はOJT(On the Job Training; 職場内訓練)であると書かれていますが、まさにチームの他のプレイヤーは、自分が目指すべき次の段階にいる一番身近な良いお手本です。また、人材育成を行うと、育成される側より、育成者の方が学びが多かったということもよくある話です。
 チーム全体で取り組む雰囲気を作るため、人材育成についてリーディングプレイヤーに協力を求める、スターターの面倒を見ているプレイヤーをサポートする、など人材育成にチーム全体を巻き込む、つまり一緒になって取り組むことが重要です。
 そのためにも、2-1で紹介した『ものさし』を共有し、それぞれがどの『段階』にいるかを把握し、成長するために何が必要かをチーム全体で理解する必要があります。
 ただし、留意点としては、これらの取り組みは、『部下全員の能力開発のため(つまり、人材育成のため)』であり、人事評価とは一線を画するものであることを明確にしておく必要があります。人事評価は人材育成の度合い(つまり、どれだけ成長したか)ではなく、あくまで達成できた業績によって評価することを明確にしなければなりません。
 
 なお、今回は紹介しませんでしたが、著書では、上述の4つの段階以外に、管理職としての4つの段階、スペシャリストとしての2つの段階も提示されています。また、育成において非常に重要な、ある段階から次の段階に移る『トランジション』について、どうサポートするかについても詳しく書かれています。
 
3.TO DO
・一度このものさしを使ってチームのメンバーの段階をみてみる。
・リーディングプレイヤーに人材育成の必要性を話し、協力してもらう体制を構築する。