Training & Development その1 人材育成とは

 今週から「人材育成」(Employee Training & Development)の授業で習ったことを復習していきます。
 まずは、概論として、「人材育成とは何か?」についてです。
 

 
1.人材育成(Employee Training & Development)とは
 
 どのような組織であれ、常にその業績を向上し、組織としての目標を達成していかなくては、存在し続けられません。より高い業績を上げるため、資金(カネ)や設備(モノ)も必要ですが、人材(ヒト)も欠かせません。
 「もっといい人材がいないか?」というのは、経営者のみならず、チームを率いる管理職にとっては、常に頭をよぎる問題です。別の会社からヘッドハントしたり、社内から優秀な人だけを集めてくるという方法もありますが、そのようなことができるのはほんの一部の人だけです。また、仮に集められたとしても優秀な人もいずれいなくなります。やはり、組織の中でどんどんと優秀な人が育っていくことが、継続的に組織の目標を達成しつづけるためには必要です。
 つまり人材育成(Employee Training & Development)が必要です。
 
 さて、ここで一つ言葉を整理しておきます。「Training」「Development」の違いです。今回のブログも、またこれ以降も、「Training」をメインに扱っていきますが、「Training」とは、簡単に言うと研修のことです。定義としては、「Trainingとは、従業員が仕事に関連する能力や知識、スキル、態度を身につけるために会社が行う計画的な取り組み」となります。
 具体例としては、新入社員のためのビジネスマナーの研修や、会計担当者のための簿記に関する研修、管理職のための部下指導に関する研修などです。今後は「研修」と訳すことにします。
 
 一方、「Development」は、より長期的な視点に立ったもので、人事異動などがその例です。定義としては、「Developmentとは、従業員が将来の仕事や職務に備えるため、研修を含んだ定められた教育や業務経験、関係構築、人間性の評価、スキルや能力の習得」のことです。今後は「人材開発」と呼ぶことにします。この長期的な視点に立った人材開発は、まさにどうキャリアを積んでいくかということになりますが、本当にジェネラリストを育てることがいいことなのかなど、人事異動においてもっともっとこの視点が必要だと思います。
 
 話を戻して、「Training」にしろ「Development」にしろ、人材育成をなぜ行うかというと、最初にお話しした通り、ビジネス上のゴールを達成するためには、人的資本(Human Capital)が必要だからです。
 
 この人的資本とは、具体的には以下の通りです。
  • Knowledge (know what) :知識 (何かを知っている。)
  • Advanced Skills (know how):スキル (どうやるかを知っている。)
  • System Understanding and Creativity(know why):理解 (なぜやるのかを知っている。)
  • Motivation to deliver high-quality pruducts and services(care why):やる気 (なぜやるのかを意識し続けられる。)
 
 なかなかうまく訳せませんでした(^^;が、この4項目は示唆に富んでいます。
 例えば、会計なり構造力学なり法律なり、仕事に必要な知識を知っていなければ仕事が理解できません。
 そして、知識として知っていても、それを体現(簿記がつけられる、橋の設計ができる、法律を適用できる)出来なければ仕事になりません。
 さらに、なぜその仕事をやるのか、なぜこういう仕事のやり方をするのかを理解していなければ、ポイントを押さえて仕事をしたり、改善したりといったことはできないでしょう。
 最後に、すべてを知っていも、それをしっかり意識し続けられる、つまりやる気として維持できなければ、良い成果は上がらないでしょうし、また長期的にみて良い仕事にはならないでしょう。
 
 研修を行う際、それが「知識」を身につけるためなのか、また手順などの「スキル」を身につけるためなのか目的は様々だと思いますが、「知識」に主眼を置いた研修であっても「スキル」に主眼を置いた研修であっても、なぜこの知識やスキルが必要なのかを「理解」させることや、学んだことが継続的に発揮されるよう研修が終わった後の「やる気」を維持させることについても、研修において配慮する必要があるということです。
 
 
2.人材育成の3つの方法
 
 人的資本(Human Capital)を形成するために、人材育成を行うわけですが、簡単に言うと、従業員が学び続けられるようにしてあげるのが、人材育成です。
 人材育成には、大きく3つの柱があります。
  1. Formal Training & Employee Development
  2. Informal Learning
  3. Knowledege Management
 
 1つ目の「Formal Training & Employee Development」は「formal」と付いていますが、これは会社が発案したということを意味しており、会社が学ぶ内容を決めたり受講すべき人や時期を定めた研修やトレーニングプログラム、イベントのことです。
 2つ目の「Informal Learning」は、1.に対して、「informal」と付いていますが、これは従業員自らが学ぼうとする取り組みのことをさしています。これはたいてい必要に迫られて始まることが多いですが、やり方は様々で、独学する、職場の人と仕事の相談をする中で学ぶ、会社が構築したイントラに掲載されている資料から学ぶなどです。
 私は、このinformal learningはとても重要だと思っています。なぜなら、職場の文化や雰囲気、環境によって、「informal training」の効果が大きく左右されるからです。
 例えば、社内に自ら学ぶ自己投資を推奨する雰囲気があったり、自分が学んだことを周りに伝え、また困ったことがあったらいつでも相談に乗るよという雰囲気があったら、さらに周りの人がただ答えを教えてあげるのではなく、調べ方を教えてあげるなど、自ら学ぶことをサポートするというやり方まで身につけていたとしたら、「informal training」の効果はとても大きいでしょう。逆に、学んだことや困ったことがあったときに個人の中に抱え込んでしまうような雰囲気では、とても学びは促進されません。
 3つ目の「Knowledege Management」は、「会社の業績を向上させるために、ツールやプロセス、システムや構造、そして文化を用いることによって知識を蓄積し、共有し、生み出すこと」です。
 例えば、あるプロジェクトにおいて得られた成果を記録しデータベースに入れておく、ある案件の経過を記録しておく、なんでも議事録を取って共有するという文化を形成するといったことです。ITを使った例としては、必要な知識や情報をイントラに掲載しておいたり、facebookの社内版のようなものを構築し、各個人の経歴を踏まえた得意分野を登録し、従業員同士の助け合いをサポートしている会社もあります。
 
 社内研修は、Formal Training & Employee Development(1.)に該当し、次回のブログ以降でも、主にこのformalな研修を対象に、「人材育成メニューを検討するときに何をどういう手順で検討していくと良いか」などを取り上げますが、この3本の柱全てが重要です。
 
出典:
 
Noe, R. A. (2017). Employee training and development (Seventh ed.). New York, NY: McGraw-Hill Education.