Training & Development その3 戦略的な研修とは

 前回は、研修を作るための手順の概要を紹介しました。

 Training & Development その2 効果的な研修を作るための手順 - うめさんブログ

 

 一つ一つの手順の詳細を見ていく前に、これらの手順を経て作り上げられる研修は、「戦略的な研修」でなければなりません。では、「戦略的な研修とは」何でしょうか?

 

1.企業の戦略と研修のつながり

 研修はやることが目的なのではなく、ちゃんと研修で学んだことが身について、仕事ができるようになり、それが会社の目的(業績アップ等)に結びつかなくてはなりません。

 つまり、研修は、会社の目的を含む企業の戦略と合致していなくてはなりません。

 「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、企業の戦略が定まっていないと、以下のようなことが決まりません。

  • 現在の仕事に関連する研修をどの程度行うのか?もしくは、将来の仕事に関連する研修をどの程度行うのか?
  • 個々の従業員、もしくはチーム、部署、部門といったどの単位のニーズに合わせた研修を行うのか?
  • 管理職などの特定の従業員に対して研修を行うのか、それとも全従業員を対象とするのか?
  • 定期的に研修を行うのか、それとも問題が起きたときのみ、ライバル企業が何かしたときのみ行うのか?
  • 人事異動や給与査定といった他の人的資源管理と比較して、どの程度研修に重きを置くのか?

 例えば、今はマーケットシェアを獲得することが大切な時期なので営業部門を対象とした研修を強化するのか、会社が大きくなってきたので管理職を育てる研修を行う必要があるのか、若手の離職を食い止めるために研修を行うのか、AIなどの最先端の技術を取り込むことが大切なので研修ではなく他社からの人材の引き抜き、つまり採用活動に力を入れるのか、などです。

 

 では、企業戦略とは何か。色々な定義がありますが、以下の3つを含んでおり、その一つ一つを明確にする必要があります。

  1. Mission:何のために自分たちの企業は存在しているのか?
  2. Goals:Missionを達成するために、何をするのか?
  3. Strategic Choise:どのようにして他の企業と戦っていくのか?

 

 この定義にかなり忠実に沿った戦略をたてているのがAdidasです。

  1. Mission:We’re all ‘Creating the New’ – because we believe that, through sport, we have the power to change lives
  2. Goals:We want to be the best sports company in the world
  3. Strategic Choise:

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 大学院の企業戦略論をとっていた時の宿題でAdidasを調べていた時に見つけたのですが、一つ一つについて解説がついていて、これを読めば、誰もが戦略を理解できるようになっていました。

 例えば、ゴールとして、「世界一のスポーツカンパニーになる」と書いてありますが、”best”とは何を意味するのかも書いてあります。

 さらに、Strategic Choiseにおいては、財務的な視点も含んだどの指標を優先するのかといったこととともに、スピードを重視しながら、どの都市に、どういった資源を使って製品やサービスを届けるのかといったことも書かれています。

 

 こういった戦略が明確であればあるほど、研修の目的も明確になります。そのために、人事部は経営陣に近い部署として位置づけられているのです。研修を行う際には、経営陣に戦略について確認をすることが必要ですし、研修が戦略に寄与することを示す必要があります。

 それによって、経営陣からは研修へのサポートや了承を得ることができ、より効果的な研修が得られることとなります。

 

 私の経験では、外部の方に研修の講師をお願いしたことがありますが、その際には講師の方々に「わが社がその研修に期待していること」や、その背景としての「わが社の現状」などを、ちゃんと伝えておく必要があったと思っています。

 逆に言えば、こういったことを聞いてこない外部講師には研修を頼むべきではないのかもしれません。

 

2.戦略的な研修とは

 では、企業戦略を明確に反映した、戦略的な研修とはどういった特徴を備えているものなのでしょうか。以下の7つの特徴が挙げられます。

 

  • 戦略におけるゴールと研修の目的が一致している
  • 研修によるビジネスへの影響を計測することができる(例えば、生産性や顧客満足度など)
  • 企業の外部にいる顧客やサプライヤーも研修の対象に含んでいる
  • 最も重要な仕事に寄与する強みを構築することに焦点を絞っている
  • ナレッジマネジメントや人事異動といった人的資源管理に関する他の動きとも連動している
  • 従来の教室での研修に加え、インターネットを使ったeラーニングを活用している
  • リーダーシップをはぐくむための研修を含んでいる

 

 次回以降、研修を作るための一つ一つの手順の詳細をみていきますが、これらの手順は作り上げようとしている研修が上記の7つの特徴を備えることができるようにしていくプロセスとなります。


出典:
Noe, R. A. (2017). Employee training and development (Seventh ed.). New York, NY: McGraw-Hill Education.

https://www.adidas-group.com/en/group/strategy-overview/