Training & Development その4 『ステップ1:Needs Assessment』

 以前、研修を作るための一連の手順について紹介しましたが、Training & Development その2 効果的な研修を作るための手順 - うめさんブログ 今回から、研修を作るための手順について、一つ一つ紐解いていきます。

 

1.Needs Assessment

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 上記が研修を構築するための一連のステップを示したものですが、最初のステップは、「Needs Assessment(必要性の確認)」です。

 

 「Needs Assessment」では、一言で言うと、「研修が必要かどうかを見極める」ために3つの分析を行います。

 3つの分析とは、以下の通りです。

  1. Organizational Analysis:企業に焦点を当て、企業戦略と研修内容が一致しているか、研修が企業戦略に役に立つかどうかについて分析します。
  2. Person Analysis:従業員に焦点を当て、(1)仕事の業績や成果が個人の知識・スキル・能力不足に起因しているのかどうか (2)そうであるならば誰に研修を受けさせるべきか さらに(3)研修の対象となった人は研修を受ける準備が整っているかを分析します。
  3. Task Analysis:タスク(仕事内容)に焦点を当て、(1)今もしくは将来の重要なタスクは何か (2)そのために必要な知識・スキル・能力は何かを分析します。

 

 それぞれの分析を行うにあたっては、観察、アンケート、ヒアリング等様々な手法があります。ここでは割愛しますが、分析の結果として、以下の質問に答えられれば良いことになります。 

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 この表は、Needs Assessmentの中の3つの分析において、経営層、中間管理職、研修講師、従業員がどのようなことに関心を持っているかを示しています。

 

 例えば、経営層であれば、経営目標を達成するために研修は重要なのかどうか(Organizational Analysis)、経営目標を達成するために従業員は何をしなければならないか(Person Analysis)、わが社は市場において勝ち残っていけるだけの強みを持っているか(Task Analysis)といったことが関心の対象となります。

  中間管理職にとっては、研修によって自分の課の業績目標を達成することができるのか(Organizational Analysis)、誰に研修を受けさせるべきか(Person Analysis)、品質を上げるにはどんな研修を行わなければならないか(Task Analysis)といったことが関心の対象となります。

  従業員にとっては、上司は研修に参加させてくれるのか(Organizational Analysis)、研修は役に立つのか(Person Analysis)、どんな知識・スキル・能力が今のそして将来の自分の職務に必要なのか(Task Analysis)といったことが関心の対象となります。

 

2.経営層と研修

 ここからは私が気づいたことを述べたいと思います。

 

 前回の「戦略的な研修とは」Training & Development その3 戦略的な研修とは - うめさんブログでも述べましたが、「研修は、会社の目的を含む企業の戦略と合致」していなくてはなりません。そのために、この「Needs Assessment」においても、企業の視点から研修の必要性を分析する「Organizational Analysis」が含まれています。そして、意味のある「Organizational Analysis」を行うためには、経営層の協力が欠かせません。というより、企業の戦略は、経営層しか分からないですし、経営層がその責を負っています。

 

 ところが、私の経験上、研修に熱心な幹部は多くありません。仮に研修に興味があったとしても、幹部の頭の中には必要性や企業戦略とのつながりがあるのかもしれませんが、特段の分析も行わず唐突に「○○の研修をやろう」と宣言したきりで、「後は事務的に進めておいてくれ」となり、講師を呼んで、研修生をピックアップして、、、と準備を進めていき研修を行うこととなります。さらに、研修が行われているうちに、その幹部が異動してしまい、研修の成果の確認や研修を受けた人へのフォローアップなどがなされないままということになりがちです。

 

 私が思うに、経営陣や幹部、さらには研修などの人事にかかわることのできる人は、その会社の中で十分な実績を上げた極めて優秀な人ばかりです。そのため、以下のような理由から研修に重きを置いていないのかもしれないと感じています。

 

・自分自身で成長できてしまった

 幹部は、元々持っていた才能を、努力と工夫でさらに伸ばし、妥協なく仕事を遂行し、大きな成果を上げてきた方々です。ある意味、研修など必要なかった人かもしれません。

 ある本(すいません、書名を忘れてしまいました)に書かれていましたが、会社において大きな業績を上げた人に、「自分が大きく成長できたきっかけは何ですか」と聞くと、「研修です」と回答されることは皆無であり、皆口をそろえて「○○という修羅場を乗り切ったから」と答えるそうです。

 しかしながら、全ての人が修羅場に当たるわけでもなく、修羅場に臨んだとしても、準備が整っておらず成長の機会として活かすことが出来なかったり、それを乗り越えられなかったりする人もいるわけです。

 そういった人々に対しても、研修では、修羅場と呼ばれる会社にとって重要な体験を整理してケーススタディとし、体系的に学んでもらえるようにするといったことが可能であり、多くの人にとって研修は必要です。

 

・常に優秀な人材を周りにおいておける

 幹部は、自分が優秀であることもさることながら、周りのメンバーも優秀です。優秀な人が集まる部署を渡り歩いてきているでしょうし、人事権を持てばある程度自分で差配できるでしょう。

 そのため、幹部の中には、「人は替えがきくもの」と思っている人もいるかもしれません。「あいつは使えない奴だ」という言い方をする人は、「人を育てる」という手間も時間もかかる手段をとるのではなく、「異動させる」という手段の方が早いと思うのかもしれません。また、優秀な人が集まっている部署には、当然日々難易度の高いタスクが山ほど降ってきます。タスクのマネジメントに注力せざるを得ず、人のマネジメントに時間を割いていられないのかもしれません。

 別のタイプとして、幹部の中には、少数の優秀なメンバーのみを育てようとする方もいます。将来幹部となる人には幹部としての知識・スキル・能力、さらに人脈が必要であり、そういった育て方をするのは、「会社の戦略に合致している」限りは有効かもしれません。

 

 ただ、これらのやり方では、うまく育てれば大きな可能性を持っている人を見逃してしまいますし、育てられる人数に限りがありますし、幹部から遠く離れたところで日々現場を回している人を育てることはできません。やはり、組織的な研修というものが必要となります。

 

3.まとめ

 研修を作り上げるという過程は、講師の選定や研修教材の作り込み、研修者の選定や各課との調整といった、ともすれば事務的な作業にかかる時間が多いかもしれません。実際すでにルーティン化されてしまった研修を行うにあたっては、そういったことだけで足りるかもしれません。

 しかしながら、新しく研修を構築する場合や、従来の研修であってもその研修を行うきっかけとなった経営戦略が変わった場合、さらには経営戦略の根拠となった市場の変化や新技術の出現などといった要因が変化した場合には、幹部とともにこのOrganizational Analysisを行う必要があります。

 そして、研修はあくまで、企業の戦略を達成するための一手段にすぎません。Needs Assessmentの結果、研修よりも他の手段(給与体系やキャリアディベロップメント(人事異動)の変更等)が効果が高ければそちらを優先すべきです。そういった研修以外の手段も議論の俎上に載せられるのも、やはり経営陣ならではなわけです。

 

 幹部の力を上手に借りて、研修を行うべきかどうかをしっかりと見極めていきたいものです。

 

出典:
Noe, R. A. (2017). Employee training and development (Seventh ed.). New York, NY: McGraw-Hill Education.