幸せな職場

 今回はTEDから、Michel C. Bush氏のプレゼン「This is what makes employees happy at work」です。わずか4分の動画、そして日本語の字幕もありますので、是非。

 

 Michel C. Bush氏はアメリカの経済誌「Fortune」が毎年発表している「Fortune 100 Best Companies」の調査を行っている「Great Place To Work社」の代表です。

  そして、Bush氏によると、幸せを感じる従業員が多い企業ほど、売り上げの伸びが3倍ほど高く、株式市場でのパフォーマンスも3倍ほど良く、離職率が半分とのことです。そして、幸せを感じる職場を作るのは福利厚生などではなく、上司や仲間にどう扱われるかでした。具体的には以下の4つです。

 

  1. Trust & Respect:自律性
  2. Fairness:公平性
  3. Listening:アイディアの追及
  4. Let's talk about change:信念

※日本語は直訳ではなく、プレゼン内容を踏まえて私なりの訳に変えています

 

 では、一つ一つ見ていきましょう 

 

1.Trust & Respect:自律性

 従業員と会社(上司)の間に、「信頼と尊敬」が必要です。

 悪い例として挙げられていたのが、「わずか15万円のパソコンを経費で購入するために、15人もの承認を得なければならなかった」というもの。

 この事例から分かるように、「信頼と尊敬」とは「自律性」と言い換えることができると思います。職場における「自律性」とは、どの程度職員に仕事の進め方に裁量が与えられているかというものです。以前もブログで少し書きましたが、組織行動論を学ぶ中で繰り返し出てきます。

報連相と自律性 - うめさんブログ

 そして、モチベーションを高めるのにも、責任感を持ってもらうのにも、仕事に満足感を持ってもらうのにも、仕事を効率的に進めるのにも、ストレスを軽減するのにも、創造性を発揮するのにも、この『自律性』が鍵となります。

 従業員に「自律性」を与え、それを形で表すことが必要です。決裁などはその典型かもしれません。

 

 この「自律性」を体現した良い事例として、世界的に有名なホテルチェーンである「Fourseasons」が挙げられています。この「Fourseasons」では、従業員に対して以下のことが言い渡されています。

 「Do whatever you think is right when servicing the customer

 (接客に当たっては自分が正しいと思ったことは何でもしてよい)

 何かの雑誌で読みましたが、「サプライズで花をあげたらお客様が喜ぶ」と接客したスタッフが判断したら、上司の許可なく購入してプレゼントすることができるとのこと。

 

 もちろん仕事内容によっては全てを従業員に任せることはできないかもしれませんが、今よりも「自律性」を高める努力が必要です。

 

2.Fairness:公平性

 従業員は公平に扱われることを望んでいます。役職や勤続年数、年齢や経験によらず、公平に扱われる。

 これは何も仕事の内容や成果が違うのに、同じ給料をあげるべきだというわけではありません。同じ仕事で同じ成果であれば、同じ給料をというものです。

 当たり前のようですが、例えば、年齢による公平性ついては、年功序列が基本の日本では、そうはなっていない会社の方が多いでしょう。

 

 良い事例として、Salesforce.comが挙げられています。Salesforce.comは、社内調査の結果、同じ仕事で同じ熟練度にもかかわらず、女性よりも男性の方が給料が高いことが判明したため、この差別をなくすために3億円を投資しました。

 

 公平さを冷静に議論し、既得権益層を説得し、人事制度全般で体現していくのはなかなか大変ですが、常に気を配っておかなければなりません。

 

3.Listening:アイディアの追及

 「Listening(人の意見を聴く)」ことと英語では書かれていますが、「アイディアの追及」と訳しました。

 しっかりと意見を聴くために、アイコンタクトやアクティブリスニング、共感、繰り返し(リフレクション)といったテクニックを用いると良いということが言われていますが、Bush氏は、人の意見を聴くとは、「他人の意見を謙虚に受け止め、最善のアイディアを追求すること」と言っています。これは、英語の苦手な私が大学のグループワークをするために、チームメンバーと議論をするときに用いていた方法と偶然同じでした。 

議論の仕方 - うめさんブログ

 

 どれだけ人の意見を聴いても、それが良いアイディアにつながらないのであれば、何のために会話をしているのかわかりません。結局最良とも思えない上司の意見が通るだけということでは、今まで積み上げてきた議論が何だったのかということになります。

 

4.Let's talk about change:信念

 

 「変化について話をしよう」と英語では書かれていますが、「信念」と訳しました。

 企業も人も変わっていかなければならないことを理解しています。そして、人は何かを変えようという提案をするときは、その変化が自分にとって大切だからです。言い換えれば、自分が重要であると信じることのために変化しようとするのです。

 対照的な例としては、会社に評価されるような良い従業員になろう(変わろう)とすることです。会社が行っていることが自分にとっても大切なことであれば、良い従業員になろうとすることは悪くないですが、もし異なるのであれば、他人にとって大切なことのために変化することであり、多くの場合失敗します。自分にとって大切なことがないのであれば、別の働き場所を探すべきだとまで、Bush氏は言っています。

 

 (補足:この4を聞いたとき、私は少し混乱しました。というのもBush氏はこのプレゼンを経営層に向けて話していると思ったからです。実際1~3は経営層に対して訴えかけているものでしょう。ところが、この4は主に従業員に訴えかけているように思います。では、4を1~3と同様に経営層に訴えるという形で解釈すると、「従業員が従業員自身の信念と一致させて行動できるような理念を会社は提供するべきである」「そういった理念を提供し、従業員自らが変化を提案できる環境を整えるべきである」ということでしょうか。)

 

 部下を信じ公平に扱い、みんなでより良いアイディアを追求し、信念に基づき変化を楽しんでいくことができる職場が、満足度の高い職場ということでした。

 

参考:

Bush, C. Michel (2018). This is what makes employees happy at work, https://www.ted.com/talks/michael_c_bush_this_is_what_makes_employees_happy_at_work

McShane, Steven Lattimore (2015). Organizational Behavior: Emerging Knowledge, Global Reality, 7th edition.