グローバル企業の挑戦:文化とは自民族中心主義である

 アメリカにいたころ、アメリカ人は日本人に比べておおざっぱだなぁと感じたり、自己主張が強いなぁと感じることが多々ありました。文化の違う国で生活するのは、段々慣れくるとその違いが楽しくなってきましたが、最初はやはりストレスがたまりました。

 さて、グローバル企業では、従業員に多種多様な文化を持つ人がいます。世界中から優秀な人を採用できることの裏腹として、文化の違いをどう乗り越えるのかというのが、人的資源管理の中でも大きなトピックの一つとなっています。

 

1.文化とは
 まず「文化(culture)」とは、以下の要素で構成されています。

  • cultural beliefs:何を真実ととらえるかという認識
  • cultural norms:何をしてよくて何をしてはダメかという共通理解
  • customs:世代を超えて受け継がれてきた振る舞いや習慣

 

2.文化の違い
 各国の文化的な違いの研究で有名なものは、1970年代後半にオランダの社会科学者ホフステッドが、IBMの従業員(88,000人・72か国)に対して行ったアンケート調査で、文化の違いを次の4つの指標で表しています。

①Power Distance:権力をどの程度受け入れるか
(High ヒエラルキーを受け入れる ⇔ Low 受け入れない)
 日本含めアジア圏はこれが比較的高め、つまり権力の差異を受け入れやすい。
 
②Uncertainty Avoidance:不確かな状況をどの程度嫌うか
 (High きっちりしている ⇔ Low おおざっぱ)
 日本はこの指標が世界の中でもものすごく高いです。つまり、すごくきっちりしている。
 
③indibidualism:個人主義の程度
(High 個人主義 ⇔ Low 集団主義)
 アメリカは個人主義、日本は集団主義です。
 
④Masculinity:男性社会の程度
(High 男性優位な社会、仕事が大切 ⇔ Low 男女平等、生活が大切)
 日本はこの指標もものすごく高いです。

 ただ、この指標については、1)シンプルすぎる(4つの指標で文化の違いが表せるわけがない) 2)IBMの従業員のデータしか用いていない 3)文化がどのように変化していくのかを表現できない という批判があります。
 
 そのため、今は世界中の学者が共同して、『GLOBE project』という研究を行っています。
 研究概要)

 http://globeproject.com/study_2004_2007
 研究成果・各国の指標)

 http://globeproject.com/results

 このGLOBEでは、9つの指標で文化の違いを表現しようとしています。例えば、「長期的な視点に立つのか/短期的な視点に立つのか」といった指標や、「どの程度人道的なふるまいに重きを置くか」といった指標(例えば、アフリカのある国ではその人がどの程度誠実であるかが最も重要)、「どの程度パフォーマンス(成果)に重き置くか」といった指標が加わっています。

 こういった文化の違いがいろいろなところに表れてきます。

 例えば、、、

  • Power Distanceが高い国では、強いボスが望まれますし、呼ぶときも「○○さん」ではなくて役職名をつけて「○○課長」と呼ばなくてはなりません。
  • Uncertainty Avoidanceが高い国では、明確で細かな指示が求められます。
  • individualismが高い国では、個人のパフォーマンスに重きを置いた給与体系が望まれます。逆にこれが低い国では、チームのパフォーマンスに重きを置いた方がうまく機能します。
  • Masculinityが高い国では比較的残業も受け入れられますが、これが低い国では残業は受け入れてもらえません。
  • Performanceに重きを置く国では、みんな自分の能力を高めることに熱心で、トレーニングが大好きです。


3.文化的な違いへの対処法

 いよいよ、ここから本題。

 こういった、文化的な違いにどう対処するかについては、2つの考えがあります。
 ①ethical relativism:その国の文化に従って行動する(郷に入りては郷に従え)
 ②ethical universalism:すべての国に共通する倫理観に基づいて行動する

 どちらの考えでもよいのですが、どちらも行き過ぎると問題です。
 
 例えば、ある国では賄賂が習慣になっているから賄賂を贈って便宜を図ってもらうというのは間違っています。これでは、ethical relativismではなくconvenient relativism(ご都合主義)になってしまいます。
 
 また、万国共通のこれが正しいというのを押し付けすぎると、ethical universalismではなく、cultural imperialism(帝国主義)になってしまいます。

 一般的に、こういった文化の違いに対処するたには、相手の文化のことを事前によく学び、その一方でステレオタイプに陥らないようにする(つまりアメリカ人といって一括りにするのではなく、当然個人の違いも大きいことを理解する)ことが大切だといわれています。
 
 人事面では、ある国に赴任する前には、座学だけでなく、実際に現地を訪れ、仕事だけでなく生活や文化も感じられる実地研修といった十分な事前研修を行う必要がありますし、受け入れ側にも同様の研修が必要です。

 また、会社の目的・戦略を踏まえた、各国共通の行動規範を作る必要があります。

例)トヨタ自動車 行動指針:

https://www.toyota.co.jp/pages/contents/jpn/company/vision/code_of_conduct/code_of_conduct.pdf

 

4.最後に
 いろいろと述べてきましたが、個人的には、教科書に書いてあった次の一文が最も印象に残っています。
『culture is ethnocentric 』
(文化とはそもそも自民族中心主義である/自民族に都合のいいようにできている/自民族の方が他民族より優れているという考えに基づいている。)
 
 文化はその国の人々が長い年月をかけて作り上げてきたもので、それは他国の人のためではなく、自分たちに合った、自分たちのためのものなわけで、それを他の国の人が自分の文化の価値観を基準にして、間違っていると言ってみても始まらないかと。

 

 とはいえ、グローバルに仕事をする上では、上述の人事面でのサポートは必須です。


出典:
Bernardin, H. J. (2013). Human resource management: An experiential approach (Sixth ed.)

Cullen, J. B., & Parboteeah, K. P. (2010;2009;). International business: Strategy and the multinational company. London: Routledge Ltd - M.U.A. doi:10.4324/9780203879412