教科書の読み方

 留学してた頃、読まなければならない英語の教科書がたくさんありました。教科書を読んだ後、それをもとにレポートを書かなければならないし、試験もあるので、ちゃんと理解しないといけない。

 それなのに、試しに1ページ読むのにかかる時間を測ってみたところ、自分の英語力では、睡眠も含め全ての時間を勉強に当ててたとしても、次の授業までに課題図書が読み終わらない。また、なぜか英語だと読んだことが頭にあまり残らない。(多分、自分なりの英語に要約できないからだと思います。)さらに、アカウンティング(会計)など、日本語ですら習ったこともない科目もあって読み進めることができず、もう冷や汗ものでした。

 

 そんな中で、編み出したのが以下の方法です。しっかり理解しようと頑張って教科書を頭から一言一句読まなくて済みます。もちろん日本語の教科書ならば頭から読んでもいいですが、同じ方法を使うと、日本語の教科書も、もっと短時間で読め、理解が深まることと思います。

 

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写真:一度だけ訪れたThe New York Public Library, こんなところで勉強してみたい, Feb. 23, 2019

 

1.教科書を読む「目的」と教科書の「ねらい」を理解する

 まずは、教科書を読む目的を確認します。シラバスを読んだり、教授に直接聞くなどして、先生が、その教科書と講義を通じて学生に学んで欲しいと思っていることを見つけます。

 自主的に勉強している大人であれば、その教科書を読んで、「何を知りたいのか」「何に活用したいのか」等、読む目的を明確にします。その際、後述する「3.ケース」と「4.章末問題」とも関連しますが、読む目的を問いの形にできると良いです。

 例えば、「うちの部下たちのモチベーションをあげたいのだけど、モチベーションって何?どうやったら湧いてくるの?どうやって会社の制度の中に取り込んだらいいの?」といった具合です。

 

 次に、教科書の序章に軽く目を通します。すると、教科書のねらいが書いてあります。おなじファイナンスの基礎に関する本でも著者によって少しずつ力点が違いますし、解説の仕方も違うはずです。また、たくさんの教科書の中から、教授がその教科書を選んだ理由があるはずです。そして、教科書の力点は多くの場合教授の意図とも合っています。

 さらに、改訂版であれば、最近の動きを踏まえて変更した部分が書いてあります。学問も日々進化し、また経営学のような学問では世の中の変化の影響を受けるので、その点も把握しておきます。

 

2.教科書の構成(各章のつながり)を理解する

 次に、目次に目を通します。まずは、1章のタイトル、2章のタイトルといった章の見出しをみていきます。そして、それらの章がどのようにつながっているのかを把握します。

 例えば、組織行動論の教科書であれば、1章は概論、2章から5章が個人の行動特性について、6章から10章がチームの行動特性について、そして11章12勝が組織を取り巻く最新の動向など、といった具合です。

 このあたりの章の構成については、序章に書いてあることも多いです。

 また、授業では、何回かの講義に分けて、一つの教科書のいくつか章を順次読んでいくことがありますが、もし次回の授業が4章から始まるのだとしても、その4章が3章とつながっていることを把握していれば、3章の目次程度は目を通して4章とのつながりを意識しておいた方が、4章の理解が進みます。

 

 さらに、自分の読む目的がはっきりしているのであれば、読む部分を絞ることができます。

 例えば、自分にとっては5章と6章が大切なのでしっかり読もう、それに関連する4章と7章は軽く目を通そう、それ以外の章は読まなくてもいいし、時間があったら読んでもいいし、理解できなくてもへこまなくていいと割り切れます。

 

 次に、章の一段下の節のタイトルにも目を通していきます。この節のタイトルを追っていくだけでも、だいぶ内容や教科書全体の流れが把握できます。

 教科書には章ごとのまとめが記載されていますが、章や節のタイトルはいわば「最も短く表現したまとめ」なわけなので読まない手はありません。自分が少しかじったことのある分野であれば、この節レベルのタイトルを追うだけで書いてあることの予想がつくかもしれません。

 逆に初めての分野であれば、内容は分からないかもしれませんが、キーワードを拾うことができます。タイトルに用いられている専門用語らしき用語は確実に覚えなければならないものでしょうし、意味を理解しておかなければならないということが分かります。

 

(ここまでで、教科書の全体像の把握は終わりです。つぎに、各章に入っていきます。)

 

注:次の3、4、5は順序を入れ替えても構いません。お好みで。

3.章のケース(事例)を読む

 私が学んだ経営学の教科書は、たいてい各章の始めに半ページから1ページほどの具体的なケース(事例)が載っていました。

 例えば、「給与体系を改善することで従業員のやる気を引き出した車の販売店」の事例や、「一人一人の消費者のニーズに合わせたマーケティングを行いグローバル企業の進出を退けた老舗企業」の事例など。

 

 教科書は、個別の事例から共通点を抽出し、一般化した言葉で述べられていることが多いので、ただ読んでいるだけだと、頭に残りにくいことがあります。特に私は、実務的な考えをしがちで、「結局何に使えるの?」とすぐ思ってしまうため、具体的なケース(事例)を先に読んだ方が腑に落ちました。

 

4.章末問題に目を通す

 各章の最後には章末問題がついています。それらの問題にただ目を通します。目を通すだけです。まだ教科書を読んでいないので解けるわけはないのですが、「あー、こういう問題が解けるようにならなきゃいけないんだな」ということが分かります

 例えば、「○○について述べよ」とか「○○理論と△△理論の違いは何か」、「○○という条件の時、△△を求めよ(計算問題)」等。

 これらの問いを頭の中において、後述の7.で本文を読んでいくことになります。

 また、章末問題は、たいてい、章の中で解説されている順に記載されているので、ここでも章の中の流れを確認することができます。

 

 さて、この「3.ケース」も「4.章末問題」も、「1.読む目的」を補強するためのものです。問いを常に頭の隅に置きながら読むことが、教科書を理解し、理解したものを活用できるようにする最も重要なコツだと思います。

 

5.章のまとめを読む

 章の最後には「まとめ」の文章がついています。おそらく半ページから1ページ程度なので、ここは”きっちり”読みます。このまとめの中だけは、分からない英単語も調べます。ただし、専門用語は頭の中で何回か言ってみて慣れる程度にして、意味はあとで本文を読む中で探すことにします。

 

 自分は前述の通り、英語で読むとその場では分かっても、なぜか頭に残りにくい質(たち)だったので、本文を読んでいて分からなくなったら、このまとめに何度も戻ることが多かったです。

 

(いよいよ次から、章の中に入っていきます。が、まだ本文は読みません。)

 

6.図表だけ読む

 章を頭から1ページずつめくっていき、図表を見つけたらそれを眺めます

 図で示してあるものは、重要な概念であることが多く、また図で表すということは、なんらかの図形情報にした方が文章よりも伝わりやすいと筆者が考えたからに違いありません。また、表で示してあるものは、ある系統ごとに分類して示した方が分かりやすいというものでしょうし、グラフについては、変化を表したいのでしょう。

 

 皆さんも経験があると思いますが、図・表・グラフで表してあるものを文章(や口頭)で説明しようとすると、とても長くなり、そして長くなった割に分かりづいです。文章で読むより、図・表・グラフを先に目で見て頭に入れておいた方がずっと理解が早いです。

 もちろんあとで、図・表・グラフの解説については文章で読みますが、この段階で、図・表・グラフから筆者は何がいいたいのかを想像してみるのもおすすめです。

 

(次からようやく本文を読みますが、飛ばし飛ばし読みます。)

7.英語の構成を踏まえて読む

 ようやく本文を読んでいきますが、英語の構成を踏まえて読みます。

 日本語であれば、斜め読みをしていけるのですが、私の英語力では斜め読みはできませんでした。悲しいことに、2年勉強しても、できるようになりませんでした。

 その代わり、英語(の教科書、論文等)は文章構成が極めてきっちりしているので、それを利用します。

 英語は、まず結論、そして具体例、最後にまた結論(ただし、表現は変えて)となっています。そして、接続詞が極めて明確で、Thenなどで話が続いていくことを示してくれますし、ButやHoweverといった逆説の後には重要なことが記載されていますし、ThusやThereforeの後にはまとめがきます。また、「理由が3つあります」と書いてあれば、そのあとに必ず、first, second, thirdが見つかります。

 

 この構造を利用して、まず各段落の一文目だけ読みます。英語は、最初に結論を持ってくることは前述しましたが、それは各段落レベルにおいても徹底されています。一文目だけ読んで、あまりよく分からなかったら最後の文を読みます。さらに、読み飛ばす途中で、接続詞に丸を付けていき、その接続詞をたよりに重要そうな文だけを読んでいきます。

 事前に「4.章末問題」と「5.章のまとめ」「6.図表」を頭に入れてあるので、一文や二文読んだだけでも結構分かるはずです。また、分からなくても気にせず読み進めます。そして、余りにも分からなかったら、具体例を探します。とにかく前に読み進めていかないと終わりませんし、全体像を把握してから分からない部分に戻ってきた方が理解できることも多いです。

 

8.ようやくじっくり読む

 以上の1.~7.までやって、章全体を把握し、それでもまだ理解できない、もしくは、よりしっかり理解したい箇所があったら、ここで初めてその個所を頭から順番にかみしめるように読んでいきます。

 

(随時次の方法も使ってください)

9.ネット検索を活用する

 このご時世、インターネットを活用しない手はありません。

 「2.目次を読む」で抽出したキーワードや「5.章のまとめ」の専門用語、「6.図表」のタイトルについて、本文を読んでもよく分からなかったら、ネットで検索するとたいてい解説が見つかります。

 

 自分の場合は、アカウンティング(会計)は習ったことがない上に、いきなり英語で習い、かつ実務でかかわったことがなかったので、教科書を読むのが大変でした。

 そんな時、キーワードをとりあえずカタカナ読みにして検索に放り込んでみたら、アメリカの公認会計士の資格を取るべく勉強している日本人の方のブログがたくさん見つかり、本当に助かりました。日本語だとなんと読むのが早いことか。また、ブログを書いている方の工夫ある解説がとても分かりやすい。

 そして、ちょっと理解ができた状態で、また英語の教科書に戻るととても理解が進みました。ネットに書いてあることが教科書並みに正しいかどうかの判断は必要ですが、全く分からない状況の中で、検索するだけでヒントをもらえるという点では、大変便利です。

 

 以上、自分なりの教科書の読み方を述べてみました。教科書はなかなか読み進められないですが、研究成果を反映した論拠のしっかりしたものであり、また体系的に学べる貴重な書物です。仕事をするようになってから教科書から遠ざかってしまいましたが、今後も読み進め、目の前の実務に生かしていきたいです。