マシュマロチャレンジ

今週は、TEDから、「マシュマロチャレンジ」というゲームを紹介します。

子供たちの方が大人よりもずっとうまくやれた秘訣は何だったでしょうか?

 

1.マシュマロチャレンジって何?

 マシュマロチャレンジとは、4人一組のチームで、18分間の間に、乾燥しているスパゲティ20本とテープと紐を使って、てっぺんにマシュマロをのせることができる塔を作るというものです。

 

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2.18分間をどう使ったか?

 このチャレンジは、短時間の間にチームで協力して塔を作らなければならないので、どう時間を使うのかが肝心ですが、たいてい次のような時間の使い方をします。

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 最初に課題を確認し(Orient)、次にどのように作るか計画を練り(Plan)、材料を使って塔を組み立て(Build)、そして最後に慎重に塔のてっぺんにマシュマロをのせ「やったー」(Ta-Da!)となるわけです。

 

 ところが、マシュマロをのせた瞬間に塔が崩れてしまい「あちゃー」(Oh-Oh!)となってしまうこともあるわけです。

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3-1.どんな結果に? 子どもたちの方がすごいのはなぜ?

 このプレゼンをしているTom Wujecさんが、このチャレンジをするためのワークショップを世界中で70回以上開催したところ、次のような結果でした。

(図の縦軸は塔の高さを、横軸はチームメンバーの職業です。)

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 一番良い結果を出したのは、建築家とエンジニアでした。構造物に詳しいわけですから、当然でもありますし、そうでないと世の中困ってしまいますよね。

 

 次に良い結果を出したのは、なんと幼稚園の子どもたちです。平均を上回っていますし、弁護士やビジネススクールの学生よりも高い塔を作っています。

 

 なぜでしょうか?

 

 このチャレンジは短時間の間に協力体制を構築することが必要なのに、大人たちは最初の方で主導権争いをしたり、目の前のことに集中できなかったりしていたということもあります。

 

 が、それ以上に大きな違いは、「プロトタイプ」を作ったかどうかです。

 

 下図はビジネススクールの学生の時間の使い方です。

 ビジネススクールの学生は、ただ一つの正しい解を求めて突き進んでしまうことが良くあるわけですが、最後の最後にマシュマロをのせようと試みます。

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 ところが、幼稚園の子供たちは違います。

 下の図に示したように、途中途中で「ちょっとマシュマロをのせてみよう」と試しているのです。うまくのったら、さらに塔を補強しつつ高くしていくという方法をとったのです。

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 この「プロトタイプをつくる」という考えが非常に大切です。

 まず一度、最低限のもので良いから目標を達成するもの(今回の場合は、マシュマロがのる塔)を作ってみて、そこからさらに改善していく。

 

 この考えはいろいろなことに応用できます。様々な製品開発は当然ですが、何かお店を出す時でも、まずはイベントに合わせて週末だけテントで商品を売ってみてうまくいったら、起業支援制度を使って貸店舗で一定期間出店してみて、というようにステップアップしていくと良いのではないでしょうか?

 私が携わっている行政の施策についても、まずは小規模でも良いから一度やって成果をあげるところまで到達してみる。そしてそこから得られた教訓をもとに、適用範囲を拡大していくことが、大きな成果につながる道なのではないかと思います。

 

3-2.CEO(最高経営責任者)が集まったチームの結果は?

 先ほどの結果の図の右側に、2つの結果を足したものが下の図です。

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 「CEOs」の棒グラフを見てください。さすがCEO(最高経営責任者)の方々です。平均より高い結果を出しています。(それでもまだ幼稚園の子にはかないませんが(^^;)

 次に「CEOs with Executive Admins(ファシリテーター)」の棒グラフを見てください。ずっと良い結果となっていますね。

 

 これは、「ファシリテーター」の力によるものです。

 4人のCEOチームに、一人ファシリテーターを付け、チームの協力促したり、作業に集中させたり、時間を管理したり、他のチームの進捗状況を教えたりと、チームを支えることをした結果、よりよいパフォーマンスを引き出せたのです。

 CEOの皆さんは普段から多くの社員を率いている方たちであり、協力することの大切さをよく理解しているはずなのですが、そういった方々が集まったときでも、チームワークを促進するファシリテーターがいると大きく結果が異なるというのは非常に興味深いです。

 

3-3.賞金を付けたらどうなった?

 このチャレンジでは、だいたい10チームのうちの6チームほどは塔を築き上げることができるそうです。

 そこで、一番高い塔を築いたチームには、1万ドル(100万円)の賞金を与えるという条件でやってみた結果が次の図です。

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 なんと、どのチームもマシュマロを支えることのできる塔を完成させることができませんでした。わずか数センチの塔でも完成していれば賞金を獲得できたのに。

 

 4か月後、同じチームに、一番高い塔を作ったら賞金を与えるという同じ条件で、再度マシュマロチャレンジをやってみた結果が下の図です。

 多くのチームが、先に示した図の平均20インチを超え、さらに幼稚園の子供たちの30インチを超えたチームもありました。

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 これは、彼らはすでにプロトタイプを作ることの重要性や組み立て方を一度学んでいたということ、賞金がかかっていたということにより、ほとんどのチームが非常に高い塔を作り上げることができました。

 

 ここから導き出されるのは、スキルの低い人に報酬を与えても成功はせず、スキルの高い人にこそ報酬により高い成果が生み出されるというものです。

 

    Low Skills + Incentives  Success

    High Skills + Incentives = Sucess

 

 報酬については、心理学者のKarl Dunckerによる「ろうそく問題」のように報酬がどう創造性に影響を与えるかという研究も有名ですが、今回のようにある程度、作業内容がある程度明確かつ作業する人がある程度熟知している場合には、報酬が有効なようです。

 

4.気づき

 今回のプレゼンでは、プロトタイプの大切さが説かれていましたが、プロトタイプを作るというのは、「小さく始める」ということだけではなくて、「なんらかの成果があがるまで一連のことを最後までやり通す」という2つの要素があるのではないかと思います。

 

 製品開発の例で言えば、まずは最初からあれやこれやと機能を盛り込みすぎるのではなく、最も核となる機能のみが機能するプロトタイプを作る。また、動くまで作る。

 出店の例でいけば、週末だけテントで売っているときも、ちゃんと黒字に持っていくところまで頑張ってみる。失敗したときでも、場所が悪かったからとか、設備投資が小さかったからという安易な反省をして、規模を大きくすれば(つまり、より大きな投資をすれば)解決できるというような結論にもっていかない。ちゃんと、PRや商品の展示方法、接客、材料調達のコスト管理など、利益につながる一連のことをやってみて、少しでもよいから黒字に持っていくということが大切だと思います。

 

 さらに言えば、このプロトタイプをつくる作業をち密に早く何回繰り返すことができるかも重要です。この辺りは、ソフトウェア開発におけるプロジェクトマネジメントの手法の一つのアジャイル型開発と同じなのかもしれません。

 

 自分の経験上も、ついつい最初から完ぺきな成果を求めてしまったり、社内で議論しているうちにどんどん要件が拡大してしまったりして、検討期間が延び、試そうとしたころには前提条件が変わってしまったということがありました。

 また、実行したのだけれども、要件が複雑すぎて、いったいどれが一番の失敗要因だったのかの分析が難しいケースもありました。

 

 決して気楽な気持ちでやるというわけではないですが、まずは「プロトタイプ」を作り上げるというやり方を今後の仕事に取り入れていきたいです。

 

参考:

Build a Tower, Build a Team, https://www.ted.com/talks/tom_wujec_build_a_tower