アメリカにいた時、トーストマスターズというスピーチの練習をするサークルに入っていました。話す内容もさることながら、アメリカのスピーチには型があり、スピーチの構成、身振りの仕方、声のトーンなど教えてもらいました。
そして、スピーチにもいろいろ種類があったのですが、どうしてもユーモアスピーチという、笑いを取るスピーチが理解できませんでした。
なぜなら、ユーモアを理解するには、名作文学の一説や、昔はやったドラマのセリフ、ことわざといった知識を知らなければならなかったからです。また、英語が聞き取れたとしても、日本人の自分には面白く感じないという、文化的な違いも理解しなければなりませんでした。
そのため、「ユーモアスピーチ」は諦めてしまいました。
そんな折、トヨタ自動車の豊田社長が、ご自身が卒業された米国バブソン大学の卒業生向けにスピーチをした、この動画を見つけました。
豊田章男 米国バブソン大学卒業式スピーチ 「さあ、自分だけのドーナツを見つけよう」
自分は、世界を相手にビジネスをしている豊田社長はネイティブ並みに英語が上手い、と思っていたので、この動画での日本人らしい発音に親近感を覚えました(^^;
そして、さすがでした。
自分が気づいた素晴らしい点は以下の5点。
- 内容が良い。例:卒業生に対して常に前向きなメッセージを送っている。
- 聴衆であるアメリカ人や卒業生の世代の流向をとらえたキーワードを入れている。例:ドーナツ(アメリカ人大好き)、ヨーダ(スターウォーズも大好き)、NFLの選手、ゲームオブスローンズ(放映中の大ヒットドラマ)
- 日本の文化にも触れている。 例:令和の紹介
- 軽く触れたキーワードを上手く伏線にして、再度大事なところで用いている。例:タクシードライバー
- 笑いがとれている。
さて、今回の本題の「笑い」ですが次のパターンがあることを発見しました。
「シリアスなことを言うと見せかけておいて、どうでもいいことを言う」
例えば、(動画 1:54)卒業生が最も気にしているであろう就職に関することよりも大切なことを言うと前振りしておいて、卒業パーティの話をする。
立て続けに、もっと重要なことを言うと見せかけて、「自分も卒業パーティに行っていい?」と尋ねる。
さらに、パーティに出ても自分は夜更かしはできない、とCEOとしての仕事があるようなフリをしておいて、「だって、翌日はゲームオブスローンズの最終回があるから」と言う。
(動画 3:50)卒業生へのアドバイスをする立場であることを強調し、「つまらない人間になるな。人生を楽しめ。」「幸せな人生には何が必要か?」「人生に幸せをもたらすものは何か?」という、とても大切なことを言う前振りとなるシリアスな質問を投げかけておいて、「自分が見つけたのはドーナツだった」と言い、ドーナツに対して大げさな賛辞の言葉を述べていく。
※この「ドーナツ」というキーワードは、このスピーチにおいて、キーとなるメッセージとして内容を支えるものになっている点は、ユーモアという点だけでなく素晴らしいです。
他にも、ちょっと真剣なことを述べるふりをして肩透かしを食らわせるというのを、軽快なテンポで何度が織り交ぜつつ、スピーチを盛り上げていっています。
このやり方ならば、落ちを考えることは必要ですが、アメリカ文化に関する知識や気の利いた言い回しは必要なく、大げさなジェスチャーもいらず、日本人が得意なまじめな感じでしゃべれば良いのです。
このやり方をまねて練習を重ね、どこかで機会があったら、ユーモアスピーチに挑戦してみたいです。
参考:
普段私が仕事で行うプレゼンは、ほぼ何かをしっかり理解してもらうための説明であることから、笑いを取りに行くのはリスクが大きいと思います。
そのことを井尻先生が丁寧に解説してくださっています。とても参考になります。
プレゼンテーションに「笑い」は必要か? | 「考える」ブログ