読書メモ 自分への思いやり Harvard Business Review

 もし友人が落ち込んでいたら、話を聞いたり、寄り添ったり、励ましたりしますよね。

 それを自分自身に対してやることで、「また頑張ろう!」というやる気を引き出すのが「セルフ・コンパッション(self-compassion)」です。

 

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明石海峡大橋より 2019.6 

 

 今回は、ハーバードビジネスレビュー(2019.5)から、「セルフ・コンパッション」を紹介します。社会の変化の速さや情報量の増大により、現代の人々はますますストレスを抱え込みやすくなっています。そのため、挫折したときにどう自分と向き合うかといった心理学の分野へ注目が高まるだけでなく、実際にビジネスの場に取り入れようという動きが活発になっています。

※1 本ブログでは、カリフォルニア大学バークレー校心理学科のSerena Chen教授の記事を中心に紹介していますが、原書には、他にも「セルフ・コンパッション」をどう日常やリーダーシップに生かすかなども掲載されています。是非ご覧ください。

※2 compassionは「同情/哀れみ」と訳せますが、ここでは「思いやり」と言った方が適切かと思います。 

 

1.友人が落ち込んでいたら、、、

 さて、冒頭の例に戻りましょう。

 

 仕事で大きな失敗をしたり、昇進を逃してしまったりして、ひどく落ち込んでいる友人に対して、あなたはどう接するでしょうか?

 まずは「どうしたの?」と話を聞いてあげるのではないでしょうか。そして、「君だけじゃないよ。」と寄り添ったりしつつ、なんとか元気を取り戻してほしいと思って、気分転換するために美味しいものを食べにでかけたりと、友達をいたわるでしょう。

 

 では、自分自身が落ち込んでいる時は、どうでしょう。

 友人に対しては、こういった思いやりを持って接することができるのですが、自分がそういう状況に置かれてしまうと、自分をひどい目に合わせた相手を責めたり、「なんて自分はダメな人間なんだ」と自分を責めたりしてしまうのではないでしょうか?

 

 この「相手を責める」もしくは「自分を責める」という反応は、いずれも効果的ではありません。相手を責めてばかりでは、学びを得ることができませんし、自分を不当に低く評価してしまっても、自己成長が妨げられてしまうからです。

 

2.具体的にどうするの?

 セルフ・コンパッションは「自分に思いやり」をもって接することですが、この「セルフ・コンパッション」を行うことで、改善に向けた前向きな努力をしようとする動機を高めることができる、つまりモチベーションを高めることができます。

 

 「セルフ・コンパッション」では、具体的には3つの行動を行います。

 

  1. 自分の失敗や誤りに対して批評せず、寛容になり、何が起きているかをあるがままに認識します。注:これは、最近「マインドフルネス」として広まってきています。
  2. 人は誰でも失敗するということを受け入れます。
  3. 自分自身をいたわる行動をとる。例:お茶を飲む、音楽を聴く、運動する、友達と美味しいものを食べるなど。

 

 1.2.については、頭の中で考えるのではなく、文章の形で表現することが効果的です。頭の中だと、同じことをぐるぐると考えてしまいがちですが、文章にして外に掃き出し、目に見えるようにしてやることで、客観的に認識できるようになるからです。

 そして、落ち込んでいる友人に声をかけるように、自分自身に対して寛容さや理解を示す文章を書いていきます。

 1.何が起きて自分が今どう感じているかを書き出してみる。

 2.同じような状況にあった他の人たちのことを思い出し、その人たちがどのように感じていただろうということを書き出してみる。

 

 そして、3.については、辛い時に、そのストレスをうまく和らげるための、自分に合った方法を探しておくと良いでしょう。

 旅行に行くといった大きく気分転換をはかれるものでも良いですが、まとまった休暇が必要となるなど、実行のハードルが高いものは、避けた方が良いでしょう。もっと日々の生活の中で、ちょっとした気分転換ができるものがおすすめです。

 

※注意点

 「セルフ・コンパッション」と似た概念に「自尊心(self-esteem)」がありますが、この2つは違うものです。

 自尊心は、自分と他者との比較評価を含む傾向がありますが、セルフ・コンパッションは、自分も他人も批評しません

 ですから、上記1.2.を行う際には、あくまで認識していることをあるがままに書き出していくことが重要で、他人と比べて自分の良いところだけを書いていくなどして自尊心を回復させようとしてはいけません。

 

3.リーダーとして

 最後に、このセルフ・コンパッションでの「自己への思いやり」と「他者への思いやり」はリンクしていて、一方を実践すると、もう一方も促進されます。

 特にリーダーが実践することの効果は大きいです。

 リーダーが自分自身に、寛容に、批評しない態度で接することは、他者に思いやりを持って接するためのよい練習になります。同様に、他者への思いやりは自分自身に対する思いやりを深めることにつながります。

 自分の経験上、仕事ができる人の多くは、「自分にも厳しいが他人にも厳しい」という人が多いですが、「セルフ・コンパッション」の目的が「改善に向けた前向きな努力をしようとする動機を高めること」であることを踏まえれば、思いやりを持って接することで、リーダーは部下のパフォーマンスの変化に関心を持ち、有意義なフィードバックを与えることができ、それに対して部下もモチベーション高く応じてくれるようになるのではと思います。

 

 チームワーク向上のために、こういった心理学的な側面も学び、活用していきたいです。

 

出典:セルフ・コンパッション Harvard Business Rview 2019.5