日本の組織の課題

 今回も、中村和彦先生の「入門 組織開発」から、日本の組織の課題を取り上げます。

 中村先生は、本書の中で日本の組織の課題として以下の4つを指摘しています。

 ①活き活きとできない社員

 ②利益偏重主義

 ③個業化する仕事の仕方

 ④多様性の増大

 

 今回は自分の経験に照らしても深刻だなと感じた「①活き活きとできない社員」を取り上げ、何が社員のモチベーションや主体性を損ねているかを考えます。

 (本書では、①~④の詳しい説明や、そしてこれらの課題への対処としての組織開発の理念や具体の方法が紹介されています。是非本書もお読みください。)

 

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 Iceland, Feb. 2019

 

 さて、みなさんの職場で働く社員の方々は、活き活きと働いているでしょうか?それともストレスを感じながらくたびれた感じで働いているでしょうか?

 そして、どちらの職場で働きたいでしょうか?

 

 当然、社員一人一人が活き活きと働き、それによって明るく元気な雰囲気が醸成されている職場で働きたいでしょう。

 

1.モチベーション

 活き活きと働くには、モチベーションが高くなければなりませんが、このモチベーション(動機)はどこから来るのでしょうか?

 心理学では、このモチベーションを、モチベーションを引き起こす要因によって、「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2つに分けています。

 

 「外発的動機づけ」とは、報酬や罰則などの外的な要因により動機づけが高まる場合を指します。

 

 一方の「内発的動機づけ」とは、外的な要因がなくとも、例えば仕事自体が楽しかったり、お客様に貢献できることに価値を見出したり、自分のスキルが上がっていったりといったことで動機づけが高まる場合を指します。

 

 ただし、いずれの動機づけも欠点があり、「外発的動機づけ」においては、上司の評価が外的な要因となっている場合、社員は自ら主体的に考えて行動するよりも、上司の意向をくみ取って上司の指示通りに動くような状態、すなわち受け身の状態になっていくという点です。

 一方の「内発的動機づけ」においては、人によって何に動機づけられるかは異なり、またこの動機づけを高めるためには、仕事の意味を理解し納得することが必要で、そのためには即効性のある対策はありません

 

2.X理論とY理論

 社員への仕事の動機づけの仕方によって、社員は受動的にも主体的にも動くわけですが、この部下の主体性に影響を与えるマネジメントの考え方として、「X理論」「Y理論」というものがあります。

 ちなみに、神戸大学の金井壽宏先生は、「理論」というよりもマネージャー(上司)が自らの経験から得た「持論」と訳した方が日本語の語感に合うとおっしゃっていますが、私も同感です。

 

 さて、「X理論」という持論を持つマネージャーは、「人は生まれつき仕事が嫌いだから、人(部下)には命令と監督が必要で、目標に達しない場合は罰則を与えるべきだ」と考えます。

 

 一方、「Y理論」という持論を持つマネージャーは、「人は自ら実現したい目標のためには、自己統制を発揮し、(個人と企業の目標が一致すれば)、人(部下)は自らの能力を高め、創意工夫をし、自発的に行動する」と考えます。

 

 (閑話休題:「X理論」は性悪説、「Y理論」は性善説とも言えるかもしれません。ちなみに、X(エックス)は×(バツ)に似ているので性悪説と私は記憶しています(^^;)

 

3.なぜ活き活きと働けないのか?

 ここで最初の「活き活きとできない社員」という今の日本企業における課題に戻ると、今の経営幹部の層はX理論を持つ人が多く、それが若い社員の主体性をはぐくむことを阻んでいるということです。

 

 この年代の人たちがくぐり抜けてきた時代は、今よりもずっと環境の変化が小さく、製品やサービスの寿命が長く、効率的に大量生産を行うことが求められた時代でした。そんな時代には、一つの目標に向かって、部下は指示に従って行動するという、上意下達のマネジメントが適していました。

 

 しかし、今は、環境の変化が激しく、製品やサービスの寿命が短く、顧客の価値観が多様化し、加えてグローバルな競合が激しい時代です。このような時代には、環境の変化や顧客のニーズに対応できるように、それらの変化に最も間近にいる現場の社員が主体的に考え行動することが求められています。

 

 そして、主体性を持ってもらうために、例えば、マネージャーに管理職研修などでコーチングを学ばせたりしていますが、「X理論」というマネジメント観を持ち続けながら、コミュニケーションのスキルとしてのコーチングを用いたとしても、部下に見透かされるのがオチです。

 補足:コーチングでは、「コーチングマインド」と言う「クライアント(上記の場合は、部下)の可能性を信じる」ということが非常に重要です。

 

(ここからは自分の考えです。)

 

4.気づき

 本書では、上述の課題を述べたうえで、組織開発によってどう解決していくかが続くのですが、ここまでのX理論・Y理論、そしてモチベーションなどについて、自分の気づいたことを述べたいと思います。

 

・X理論・Y理論

 まず、私の持論は、Y理論「人は自発的に行動する」です。そして、マネージャー(管理職)の役割は、部下が自発的に活動できるような環境を整えることだと思っています。

 

 これは、おそらく自分自身が主体性をもって動きたいという思いがあるとともに、自分が上司であったほとんどの場合において、部下の方々の方が自分よりも知識も経験も豊富であったことによるかと思います。

(一方で、自分が見た、X理論の管理職の多くは、部下よりも確実に知識も経験も豊富で、実績を上げてきた方が多かったように思います。)

 

 しかしながら、より正確には、私はY理論を基本としつつ、場合によってはX理論も使い分けていたように思います。

 例えば、自分が詳しい案件であって、かつ、事態は緊迫しており一刻も早く手を打たなければならないときは、部下にはまずは自分の指示した通りに動くことを求めました。

 また、どうしてもごく一部には主体的に動くのが苦手な人がいて、指示を出さなければならないこともありました。

 

 自分がどちらの理論であるかを把握したうえで、状況や部下に応じて使い分けられるようになると良いのではと思います。

 

・モチベーション

 私自身にとって、大事な価値観の一つは「主体性」です。自分でやることややり方を決めたいです。

 

 もちろん、仕事の上ではどこまで主体性を発揮できるかは場合によります。

 上司からの指示を受けて何をするかが決まることが多いですし、自分がどんな役割を果たすのかもチームの中で決まりますし、ある程度決められた手順に従ってやらなければならないこともあります。また、自分の方から上司に相談することも当然あります。

 

 そうであっても、何のためにやるか分からない仕事をやったり、チームの中で自由に提案できなかったり、一挙手一投足までやり方を細かく言われる状況では、そのやり方が最も効率的かつ効果的であったとしても、とてもやる気が起こりません。

 

 このように主体性がない状況ではモチベーションがあがりません。

 

 このモチベーションの大切さについては近年注目が集まっていて、モチベーションクラウド社さんのように、アンケートによって従業員のモチベーションを数値化し、それにもとづいて改善策を提示し、その実現までフォローするというサービスも好評のようです。

 

 そして、モチベーションをどのように測るのか、それをどう活用していくのかについては、学術的に議論が深められつつあるようですが、従業員のモチベーションや何がモチベーションに影響を与えているのかを、継続的に計測していくことは重要だと思います。

 

 以前一度、若手の人材育成の中で、「折れない新人の育て方」という本を参考に、このモチベーションについてアンケートを取ってみたことがあります。

 

 本書では、新人の元気(モチベーション)に影響を与える要因を、以下の5つに分類していました。

1.会社:会社に将来性を感じているかどうか

2.上司:上司が尊敬できるかどうか

3.職場:職場の人とうまくいっているか。職場の人が気にかけたり、期待してくれているか

4.仕事:自分の担当している仕事の意味や意義を感じられるか

5.自分:成長できそうと思えるか。仕事の手ごたえを感じているか

 

 この時は、上記5つの項目について若手に記述式で答えてもらったので、各項目の状況を数値化したり相関を取ったりするようなことはしませんでしたし、組織全体の状態を測るというよりは、新人一人一人にあった育成をするために尋ねたわけですが、上述の通り、会社全体に対するイメージや職場に関するイメージを捉えることができ、非常に有効でした。

 (本書は、5つの要因だけでなく、それを踏まえた具体の若手の離職防止策なども記載されています。是非本書もお読みください。)

 

 組織を変えていくには、まず、主体性というものをしっかり見える化してやることが必要です。

 

 最後に、中村和彦先生が「入門 組織開発」のあとがきにおいて、本書の主張が集約されているといっても過言ではないとおっしゃられていた一文を掲載しておきます。

 

 『X理論の経営層のもとでは人や関係性が疲労する、Y理論をベースに組織の人間的側面のマネジメントに取り組む必要がある』

 

 

参考:

中村和彦, 2015.5, 入門 組織開発 生き生きと働ける職場をつくる, 光文社

船戸孝重, 徳山求大, 2009.4, 折れない新人の育て方 自分で動ける人材をつくる, ダイヤモンド社