読書メモ 「思考・論理・分析」波頭亮

 「論理思考」や「クリティカルシンキング」はビジネスの基本スキルだと言われています。自分も入社したころ、この手の本を読み、その後10数年ほど仕事で使ったりしていたつもりでした。

 しかし、この本をオンライン勉強会でつながった講師の方や仲間の方々と一緒にここ1か月ほど読み意見交換したことで、自分自身の理解が中途半端であったこと、それゆえにちゃんと実践できていなかったことが分かっただけでなく、「論理思考はみんなでやろう」という自分なりの気づきを得られました。

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1.本の紹介

 この本、とてもマニアックです。

 

 例えば、「論理思考」と普段一言で言ってしまう言葉について、「論理」と「思考」に分け、それぞれの単語についてなんと1章かけて「思考とは(第1章)」「論理とは(第2章)」が述べられています。そして、それに「分析」を加えた、シンプルな3章構成となっています。

 

 それぞれの章の中で、以下のことが述べられており、事例を用いて、一つ一つ定義や活用方法、留意点まで解説されています。

  • 思考とは?
  • 思考から得られるメッセージは2種類しかない!
  • 分かるとはどういうことか
  • 正しく分けるにはどうすればよいか?(ディメンジョン、クライテリア、MECE)
  • 思考の属人性とは?
  • 論理とは?
  • 推論とは?
  • 推論の価値を決める要因は?(「距離(意味内容の新しさ)」と「確からしさ」)
  • 演繹法の構造や活用する際の留意点
  • 帰納法の構造や活用する際の留意点
  • 演繹法と帰納法の関係
  • 分析とは?
  • 分析の3要件
  • 分析の4つのステップ
  • 情報とは?
  • イシューアナリシスとは?
  • 心理的バイアス

 

 一つ一つの詳しい解説や具体例は是非本書を読んで頂きたいですし、MECEやイシューなどはすでにご存じの方もいらっしゃるでしょうし、ネットでも検索できるので、割愛します。

 

(ここからは自分の考えです。)

 

2.気づき「論理思考を深めるにはみんなでやろう」

 

2-1 論理思考は練習しづらい

 「論理思考」は、マナーやコミュニケーション、時間管理や書類整理などのスキルと同列の初歩的なビジネススキルとして挙げられることが多く、事実新人や若手職員の研修メニューに取り入れられることが多いです。

 また、個人的なスキル、つまり個々人がそれぞれに身につけておくべきスキルとみなされています。

 

 事実、私も会社に入ったばかりの頃、「クリティカルシンキング」に関する本をいくつか読みましたし、それは自分自身のためでした。

 例えば、自分が担当している業務の課題を明らかにするため、自分の提案の質を高めるため、議論の中で負けないようにするため、上司を説得するため、といったことのためです。

 

 そして10数年仕事の中でなんとなく使ってきましたが、一方で、本当に「正しく考え、正しく分かっているのか」は疑問でした。

 

 そのため、再度「論理思考」を磨いていこうと思った今、論理思考は非常に練習しづらいと感じました。

 なぜなら、仮に、「論理とは何か」ということを本で学び頭で理解し、そして論理的に思考するための「方法論」を身につけたとしても、実践できるかどうかという問題は残りますし、実践できたとしてそこから導き出されたものが最上のものであるかは分かりません。

 色々な議論の切り口があるでしょうし、様々な時間やコストと言った内的制約や目的や期限と言った外的制約もありますし、そもそもの議論のスタート地点となる、イシュー(=今ここで答えを出すべき問い)の設定にあたっては、思考し、論理を組み立て、分析する人の属人的判断によらざるを得ないからです。

 

 さらに、本書に記載されていた通り、論理思考を徹底的にやるのは非常に大変です。

 

 例えば、イシューアナリシスについて本書で述べられていたように「イシュー設定以外は徹底的に客観的かつロジカルに行うべし」となると、相当頭を振り絞る必要があり、また情報収集・分析作業が発生します。

 

 また、せっかく一生懸命論理思考を駆使して自分の提案の質を高めたのに、大した議論もせず、結局上司の言う案に決まったりする場合もあります。

 

 逆に、社内に知り合いが増えてくると、信用取引ができるようになり、ある程度論理的に見えるような議論さえすれば、「なんとなくいいんじゃない」ということで自分の案が通ってしまうこともあります。

 

 当然こういった論理的であることが徹底されていない意思決定により、成功したり失敗したりという結果が生まれるわけですが、会社全体が徹底的にロジカルになっていない限り、失敗したとしても原因が分かりません

 

2-2 「論理思考は個人ではなく、チームでやろう!」

 それでもやはり、仕事において練習するのが最も効率的かつ効果的だと思います。

 

 大きなイシューではなく、小さなイシューについて、通勤途中の頭の中でちょっと考えてみたり、資料作成の前にまとまった時間を取ってじっくり考えてみて、イシューツリーを作り、そこから自分の提案や分析を組み立て、その提案や分析結果をチームのメンバーに見てもらうのが良いと思います。

 

 チームのメンバーからフィードバックをもらうというのがポイントです。

 

 論理思考は初歩的な個人スキルとみなされているという話をしました。確かに、チームのメンバーに見てもらう前段として、ある程度の論理思考ができていることが必要です。

 しかし、論理思考は、初歩的なスキルとするには難しすぎ、また個人で使うのではなく、相手の意見をしっかり理解するときにこそ役立つのではないかと思います。

 

 相手がどういう情報や知識を根拠としているのか。それらをどう組み合わせて、何を言おうとしているのか。どういったことに注目し、重きを置いているのか。

 

 論理思考を身につけていれば、上司や同僚からフィードバックをもらい、それに対して自分の考えを論理的に述べて、またフィードバックをもらうということを繰り返すことで、前述の論理思考に必要な要素を集めていくことができます。

 

 「上司は全然わかってくれない」「上司の言っていることが分からない」「同僚がケチばっかり付ける」「みんな対案もなしに反対意見ばかり言う」と怒ったり、がっくりする前に、論理思考を使って一度はチームのメンバーからのフィードバックを受け止めることが必要です。

 例えば、

 「上司は全然わかってくれない」

 ⇒自分の論理展開に飛躍があったのでは?

 「上司の言っていることが分からない」

 ⇒上司はどんな情報と知識をもとに話しているのだろう?

 「同僚がケチばかりつける」

 ⇒なにか大事な論点が抜けているのでは?(MECEになっていない?)

 「みんな対案もなしに反対意見ばかり言う」

 ⇒そもそも自分とみんなとで議論の前提がずれているのでは?

 

 もちろんチーム内で論理思考を学ぶとともに、フィードバックの内容や仕方をある程度合意しておく必要がありますし、さらには心理的に意見が言いやすい人間関係を作っておくことが前提となりますが、チーム全体で論理思考をしていくことで、より確からしく、より新しいアイディアが生み出されると思います。

 

 最後に、本書では、論理思考に影響を与えるものとして「属人性の罠」や「心理的バイアス」についても述べられていましたが、個人的には、これらを知っておくことは大切ですが、それ以前の問題として論理思考が徹底されていないことが多いと感じます。

 仕事においては、「まぁ、みんなそれぞれ考えが違うよね。だから、偉い人の案でいいんじゃない。」として、思考を止めてしまうのではなく、その意見の違いを生み出しているものについて思考を巡らせていくことが必要です。

 

 自分の論理思考を磨きつつ、論理思考にチーム全体で取り組み、思考を深めていきたいです。

 

参考:

2019.10.30(18刷), 波頭亮, 思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践, 産業能率大学出版部