読書メモ① 「新しい経営学」三谷宏治 『リソースよりもオペレーションが先』

 今回取り上げる「新しい経営学」、大学院で経営学を学ぶ前に読んでおきたかったです。

 MBAを取るぞ、ファイナンスを勉強するぞ、という前に、この本で、経営学で学ぶ各科目間のつながりを理解し、ビジネスの全体像をつかめるようにしておくと良いかと思います。

 経営学を学んだことのない人でも読めますし、仕事でなんらかの事業に関わっている人ならば、自分の担当だけでなく他の担当部局とのつながりが理解できるようになります。

 

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1.本の特色

 私も大学院で、ファイナンスとか組織論とかマーケティングとかリーダーシップ論とかを習いましたが、それぞれ詳しくやった割に、各科目間のつながりが理解できず、最終学期に受けた戦略論の講義で苦労しました。

 

 この本では、経営学の6つの分野(経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織、オペレーション)を再構成し、一つの事業をちゃんと回せるようにするために必要な、以下の4つの要素に分類しています。

 

  1. ターゲット[顧客]:誰に対して
  2. バリュー[提供価値]:どんな価値を
  3. ケイパビリティ[オペレーション/リソース]:どうやって提供し
  4. 収益モデル[プロフィット/利益]:どう採算をとるか

 

 これらの一つ一つを理論と歴史、そしてたくさんの具体例(越後屋、任天堂、コーヒーなど)でもって説明されています。

 そして、その中で強調されているのは、「この4つの要素がしっかり組み合わされることで競合他者に安易にまねされることないビジネスモデルが出来上がる」というものです。

 

 私もついついマーケティングを学んだ直後は、「よし、やっぱり、セグメンテーション(S)・ターゲティング(T)・ポジショニング(P)が一番大事だな」と思い込み、企業分析などでこの点だけに集中し、あたかもこのSTPだけが重要で、ある企業の成功は全てSTPによるものだ、と思い込んだりしてしまいました。しかし、当然STPがちゃんと出来ていても、それを提供できなくては意味がないですし、ましてや利益が上がらなければビジネスとして成り立ちません。

 

 この本は、そういった狭い視点に陥らないように、4つの要素の関連性を常に意識させてくるつくりになっています。

 

 

2.ケイパビリティ[どうやって価値を提供するか]

 さて、私は「組織」や「人」に関心があるので、4つの要素の中の「ケイパビリティ」を取り上げたいと思います。

 

  まず「ケイパビリティ」とは、価値を顧客に提供するために必要となる、「オペレーション」と「リソース」のことを指します。

 

 1つ目の「オペレーション」とは、どうやって商品やサービスをつくり、運び、売るかといった運用方法や仕組みのことで、製造方法や物流、販売方法、組織構造などです。

 そして、「オペレーション」はさらに、流れを表す「プロセス」とそのプロセスを管理する「組織」に分けることができます。

 

 2つ目の「リソース」とは、ヒト・モノ・カネ(と情報、知財)と言われる、働く人や設備、原材料、そして資金などです。

 

 これらの「オペレーション」と「リソース」の両方がそろって初めて顧客に価値を提供できるわけですが、この本では

『リソースよりもオペレーションが先』

と述べています。 

 

 なぜなら、先に「リソース」から考えると、今手元にあるヒト・モノ・カネでなんとかしようという発想となるからです。さらに、この発想では、よりリソースを持った競合他社に簡単にまねされる危険があるからです。

 

 そうではなく、まずはあるべきオペレーションを考え、それを実現するためのリソースを導き出す必要があります。そして、リソースが足りないなら、鍛え上げるか調達するしかないのです。

 

 ハーバード・ビジネス・スクールで起業家養成コースを立ち上げたハワード・スティーブンスは以下のように述べています。

 「起業家精神とは、今自分が握っているリソースを超えて機会を追求することだ」

 Entrepreneurship is the pursuit of opportunity without regard to resources currently controlled.

 

 

3.組織とは

  「オペレーション」を構成する「組織」については、「硬い組織」「柔らかい組織」があります。

 硬いというのは、役割や所属、上下関係、指揮命令系統がはっきりしていることで、柔らかいとはそれらが曖昧なことを指します。

 そして、硬い組織は同じことの繰り返しに強く柔らかい組織は変化への対応にたけています

 

 そしていずれの組織にしても、以下の4つの側面を持っています。

  1. 機能
  2. 構造(メンバーシップ、階層構造、ポジション)
  3. 意思決定とコミュニケーション
  4. 行動ルール

 

 これら4つを組み合わせることで組織は個人の能力を超えた問題に対処できます。

 

 ケイパビリティは、「(オペレーションの中の)プロセス→(オペレーションの中の)組織→リソース」の順で考えると、戦略的で整合の取れたものが構築できるというもの覚えておきたいです。

 

 最後に、硬い組織も柔らかい組織も、どちらが正解と言うことはありません。

 最初に述べたように、「ターゲット」に「バリュー」を届け、「収益モデル」を満足する(=利益を上げる)組織を構築する必要があります。

 本書では、例として、イラク戦争後の治安維持のために派遣された米軍を例に、硬い組織と柔らかい組織が紹介されていますが、同じ軍隊でも対処すべき問題が異なると組織も変えなければならないということが分かります。(是非本書で詳細をお読みください。)

 

 

(ここからは私の考えです。また、次回ブログではこの「組織」の続きとして「人」を取り上げます。)

 

4.気づき

 本書において繰り返し出てくる4つの要素は、どの部局に所属していようと理解し、そして意識しなければならないと感じました。

 

 例えば、品質部門の人が品質基準を満足すること、そしてより良い品質を求めるのは当然やらなければならないですが、顧客の中に品質がどの程度の価値をもって捉えられているかや、どうその品質を価値として顧客に届けるのかは考えなければなりません。

 また、営業部門であっても、多く売ればいいのだろ、というのではなく、自分の売っている商品やサービスがどう収益に結びついているのか、そして自分の会社がどのような収益モデルから成り立っているのかを知っていなければなりません。

(閑話休題:上手な収益モデルほどどこで儲かっているのか分からない、もしくは顧客に意識させないようになっています。例:googleのサービス[検索、地図、写真など])

 

 「そんなこと(=4つの要素の連携を考えること)は当たり前ではないか」と思われるかもしれませんが、こと人事については、今あるリソースで何とかすることを求められることが多いように感じています。

 

 後ろ向きな例で恐縮ですが、何か社内で問題が起こったので、一斉に研修を行わなければならないといったことや、不祥事に対する人事的な処分を決めなければならない。どこどこ部署の人員を増やしてほしいと言われれば、では代わりにどこの部署の人員を減らそうかという調整をしなければなりません。また、ただ単に最近のトレンドに流されて、組織の名称だけとりあえず変えようとする経営幹部もいます。最近はやりの働き方改革においても、オペレーションを見直すのではなく、ただ単に見かけの残業時間だけを減らすことを求められたりします。

 

 そうではなく、例えば、今はとにかく利益よりも売り上げを増やすことが必要な時期なので、そのために営業部局の人をただ増やせばよいのか、それとも必要なスキルを身につけさせるのか。

 または、コストをカット(≒生産性を向上)するためにオペレーションを見直すことが必要な時期なので、そのためにアウトソースした方が良いのか、組織をフラットにした方が良いのか、さらには社内の雰囲気を変えることを優先した方が良いのか。

 このようなことを考えなければなりません。

 

 「リソースよりもオペレーションが先」

 「ターゲット、バリュー、ケイパビリティ、収益モデルを常に意識し、連携させる」

 この2つは忘れないようにしたいと思います。 

 

↓関連する過去のブログ

組織の6つの要素 - うめさんブログ

人事制度と会社の戦略 - うめさんブログ 

 

参考:

2019.9., 三谷宏治, 新しい経営学, 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン