人を支援する3つの型

 ダイエットをしようとするとき、ジムのトレーナーの指導を受けますか、医者に相談しますか、それとも自分で頑張りますか?

 

 今回は、エドガー・シャインが提唱した、人を支援する3つの型について紹介します。(出典は、中村和彦先生の「マンガでやさしくわかる組織開発」です。)

 

 ちなみに、このエドガー・シャインは、キャリア開発や組織文化、そして組織開発の研究で有名なマサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院の教授です。

 

f:id:umesanx:20200215111258j:plain

Iceland, Feb. 2019

 

 

1.支援の3つの型(かた)

 シャインは、人を支援したり、組織の変革を支援したりする場合には、次の3つの型があるとしました。

 ①専門家型:専門家から解決策を教えてもらう。

 ②医師-患者型:診断を受けて処方箋をもらう。

 ③プロセス・コンサルテーション型:伴走者として支援してもらう。

※③は名称も説明も分かりづらいですが、今回のブログはこの型の解説がメインです。

 

 それぞれの支援の型について、支援が効果的に行われる場面がある一方で、上手く機能しない可能性があります。

 

 ①専門家型は、支援を受ける人や組織が、自分たちの問題点を理解しており、コンサルタントや支援者が提供する解決策がその問題の解決に役立つことを理解している場合に有効です。

 

 例えば、ある人が、自分が肥満体型であることを認識し、痩せるためには運動が必要であることを知っており、スポーツジムでトレーナーの指導を受ければ効果的に痩せられるだろうと考えている場合です。この場合のトレーナーが専門家ということになります。

 この支援型の欠点は、専門家の指導が終わってしまうと、元に戻ってしまう可能性があることです。ダイエットの例で言えば、スポーツジム通いをやめたら、リバウンドしてしまったといったところでしょうか。

 

 ②医師-患者型は、医師の診断を受ける患者のように、支援を受ける人や組織が、現状において何が問題かが分からず、さらに、診断によって見定められた解決策を自分たちで持続的に実行できる場合に有効です。

 

 例えば、ある人が、自分の健康状態を把握したくて健康診断を受けたらメタボだと判定され、医師から食事の質やお酒の量について指導を受け、その指導にそって日々の食生活を改善することで、肥満を解消していくというものです。

 欠点は、私自身も思い当たることがありますが、医師(専門家)の前では「分かりました、気をつけます」と言ったのに、それが実行できない、継続できないということが起きることです。

 

2.プロセス・コンサルテーションとは

 さて、いよいよ③プロセス・コンサルテーションです。

 

 ③プロセス・コンサルテーションとは、支援を受ける人や組織が、自分で現状に気づき、自分で改善策を計画し実行していけるように、そばに寄り添って支援するというもので、支援を受ける人自らが気づき実行する気にならなければ(=自らやる気にならなければ)解決の難しい問題に直面している場合に有効です。

 

 この自ら気づき実行する気にならなければ解決の難しい課題とは「適応を要する課題」(以下、「適応課題」と呼びます。)と言われているもので、当事者にとってその状況に適応することが必要な問題で、自分の思考様式や行動を変えていく必要があるものです。

 この「適応課題」という言葉を主張したのは、リーダーシップの研究者ロナルド・ハイフェッツですが、「適応課題」に対して、もう一つの課題は「技術的課題」です。

 

 例えば、私の経験で言えば、アメリカで生活するためには、コミュニケーションをとれるようになることが必要でしたが、これは英語というスキルを持っていないという「技術的課題」を解決するだけでは不十分で、アメリカと日本の文化の違いを理解して、強く主張したり、自己責任の元、自由に選択したりというように行動できるようにならなければならないという「適応課題」もクリアする必要がありました。

 

 そして、こういった「適応課題」については、カウンセリングやコーチングが有効です。

 具体的には、支援者が、支援を受ける人(当事者)に寄り添い、当事者個人との対話や、当事者が組織であれば組織内の当事者同士での対話を促し、自らの状態を認識できるようにし(見える化し)、次に、それに対してどう対応するかを自らが決められるよう議論をサポートし、さらに対応したことを振り返られるような機会を作ってあげるというように、プロセス全体を通じて当事者を支援します。

 

 これがプロセス・コンサルテーションですが、「支援をする側は適切な距離感を持って、あくまで伴走者として関わっていく関係である」ことを、支援を受ける側に認識してもらう必要があります。

 と、同時に、支援者は、当事者の可能性を信じ、当事者自身が気づき実行できるように全力でサポートしていくことも必要です。

 一方的に頼るのではなく、相互に信頼しあうという信頼関係が基本となりますが、信頼関係の構築には時間がかかり、またプロセス全体をサポートするため、効果が表れるまで時間がかかります

 一方で、当事者自身が納得しつつ進んでいくため、支援者がいなくなっても継続されたり、自発的にさらなる改善が推進されたりといったことが期待できます。

 

 

(ここからは自分の考えです。)

 

3.気づき

 さて、このプロセス・コンサルテーションという手法ですが、自分自身はまだこの言葉も概念も知らなかった頃、一度経験したことがあります。

 

 支店長時代に、業務改善を行うためにコンサルタントの力をお借りしましたときのことです。

 

 コンサルタントから提示されたやり方は、業務改善を行う先行モデルとして、支店の中のいくつかの課を選び、各課にコンサルタントがアドバイザーとして立ち会い、その課のメンバー自身が議論をして、自らの業務の状態を振り返り、業務改善策を提案・実行し、その効果を検証するというもので、まさにプロセス・コンサルテーション型でした。

 

 自分は支店長という立場からこの取り組みに関与していましたが、いくつか気づいたことがあります。

 

①支援者(コンサルタント)の務め

 『様々な会社の改善策を知っているコンサルタントから、一番良い方法を教えてもらえば、それをするのに。』

 『忙しいのに、自分たちで一から議論するなんて思っていなかった。』

 

 取り組みを進めている中、モデルとして選ばれた課のメンバーからこんな声が聞こえてきました。

 

 これは、支援を受ける側が、コンサルタントが来ると聞いて①専門家型の支援や②医師-患者型の支援を受けられると思い込んでいたからです。

 

 このことから分かるように、支援者は、プロセス・コンサルテーションという支援の方法をとる理由を十分に説明する必要があります。

  

 もちろんコンサルタントの方々には、業務改善の趣旨や議論のプロセス(やり方)などは説明して頂きましたし、各課のメンバーが自分の業務状況を振り返るための手法のアドバイスや、議論におけるファシリテーターをして頂きましたが、なぜプロセス・コンサルテーションという手法をとるのかの十分な説明はなかったように思います。

 

 業務改善は、先述の「技術的課題」と「適応課題」が折り混ざった問題です。

 

 例えば、経理処理を速くするためにExcelの使い方を改善するというのは「技術的課題」です。しかし、どういう姿勢で仕事に臨むべきなのかといったことや、職場の雰囲気をどう改善するかと言ったことは「適応課題」です。

 

 支援者は、今当事者である人や組織が解決しようとしている業務改善というものが、この「適応課題」であること、そして「適応課題」に対しては回りくどいように感じるかもしれないがプロセス・コンサルテーションが有効であることを、支援を受ける当事者側に理解して頂く必要があります。

 

②組織のトップの務め

 私 『それで、私は何をしたら良いでしょうか?』

 コンサルタント 『何もしなくて良いです。』

 

 これは、この取り組みが始まる直前に、コンサルタントの方と打ち合わせをした際の私とコンサルタントの会話です。

 

 つまり、組織のトップは辛抱強く見守る必要があると言うことです。

 

 もちろん、業務改善を行う必要性やコンサルタントの力を借りる意義を繰り返し支店内に周知することはトップの役割ですが、あとはぐっと黙っている必要があります。

 なぜなら、プロセス・コンサルテーションでは、自分たち自身で取り組んでいくことが重要だからです。それを組織のトップが「こうやるべきだ」と提案してしまうと、当事者達の考えを縛ってしまうことになるからです。(また、業務改善は、最前線の現場にいる人の意見を聴かなければならないので、その意味でも、トップダウンはいけません。)

 

 さらに、各課において議論が活発になってくると、「いろいろとやってみよう」というアイディアが出てきます。

 それに対して「もっとこうした方がよいのでは?」という助言とか、あまつさえ「それは余り意味がないんじゃないか」などという批判をすることも控えなければなりません。

 まずは自分たちで考えることができたと言うことを認めてあげ、自分たちが考えたことが実行されたという実績を作るのに協力し、実行した結果を振り返ることができるよう「やってみてどうだった?」という程度のやさしいフィードバックをしてあげるべきです。

 

 そういう意味で、コンサルタントは「何もしなくて良いです。」と言ったのだと思っています。

  

最後に。

 この業務改善ですが、実際には、上手くいった課と余り上手くいかなかった課がありました。そして、それはどれだけ役職間の垣根を超えてフラットに、そして本音で、かつ前向きに議論ができたかによるように思いました。

 今振り返ると、そのカギを握っていたのは、中間管理職である各課の課長であり、上級管理職であった自分はその課長さんたちともっと対話すべきであったように思います。仕事もでき、部下からも信頼されており、また組織への忠誠も高かった課長さんたちだっただけに、仕事のやり方やあり方に対して一家言お持ちで、多くの「適応課題」を抱えていたのでしょう。

 

 組織開発では、まずキーマンを押さえるべきと言われています。自分の事例では、キーマンは組織のトップであった私だったわけですが、組織を分解していけば、それぞれの部署にもキーマンがいるわけです。

 最も重要なキーマンを押さえたら、その力を借りて(今回の場合は自分の力で)、次々とキーマンを味方につけていく必要があります。

 

 このようにプロセス・コンサルテーション型の支援は大変です。一筋縄ではいかないこともあるでしょう。

 しかし、うまくいきはじめると、メンバーの顔が生き生きとしてきます。また、アイディアがどんどん出てきます。そして、組織全体の雰囲気が良くなります。

 

 プロセス・コンサルテーションという手法をしっかり理解し、有効に使っていきたいです。

 

参考)

2019.10, 中村和彦, マンガでやさしくわかる組織開発, 日本能率協会マネジメントセンター