今回は、部下の方々に教えてもらったことを振り返ってみました。
自分が、マネジメント、そして人や組織に興味を持ったきっかけは、自分より知識も経験も豊富な部下を持ったことから始まりました。
愛鷹山麓から富士山を望む Mar. 2017
1.管理職(マネージャー)経験
私の会社では、人事異動により、支店-支社-本社を平均2年経たずに異動しつつ、色々なポストを経験していきます。
この異動サイクルの中で、私は、入社7年目に支店の中間管理職を、9年目に支社の中間管理職を、そして15年目には支店の上級管理職を経験させてもらいました。
2.優秀な部下
約2年ごとに異動し、しかも違う分野を担当することが多かった私は、なかなか一つの専門に詳しくなることができず、自分が管理職となる時は、いつも部下の方々の方が、自分よりも知識も経験も上、ということばかりでした。(そして、年齢が上のことも多かったです。)
初めて管理職になったときのことは今でもよく覚えていて、
知識がなくて、打ち合わせの内容がよく分からない、、、
相談を受けても、判断できない、、、
という状況でした。
もちろん勉強はしますし、遅くまで働きました。
それでも部下の方々は10年以上その道でやってきた方々。追いつけません。
そして、
自分がボトルネックになっている実感が湧く、、、
自分がいない方が仕事が回るのでは、、、
と思うようになりました。
3-1.まずは話を聴くこと、教えてもらうこと
といっても、チームには貢献しなくてはなりません。
幸いにも、よく分かっていない管理職であったのに、辛抱強く見守ってくれる部下の方々ばかりでしたので、まずは部下の方々の話をよく聴くことから始めました。そして、教えて頂きました。
教えて頂く中では、たくさんの質問をしました。
その際、基本的な単語が分からないといった知識不足を背景とした質問もたくさんしましたが、それ以上に判断に必要な材料を集めるための質問をしました。
基本の質問はこの2つです。
「なぜそうなるのか、教えてくれますか?(why?)」
「そうすると、次はどうなりそうですか?(so what?)」
この2つの質問は、いわゆる論理思考やロジカルシンキングと言われる手法における基本の問いです。
これらの質問を部下の方々に投げかけ、答えて頂くことで、自分の頭の中で論理展開をチェックしていきます。
すると、根拠が不足している点や抜けおちていた論点、新しいアイディアに、私自身だけでなく、部下自身が気づく場合もあります。
例えば、ベテランの方ほど「(自分の経験から)こうなるだろう」という思い込みがあり、多くの場合それが当たっているのですが、今までとは前提や状況が違っていたりすると、そうはならない場合があります。
また、改めて「なぜ?」と聞かれると、「あれっ、何でだっけ?」となり、それを調べることで、その業務をやることのそもそもの意義といった本質的なことに触れるきっかけとなったり、別の事例にも応用が利くような背景知識や共通点を発見するきっかけとなったりします。
さらに、「次はどうなりそう?」という質問から、今やっている仕事の先にある目的や、他の部署との繋がり、または新しい別のやり方が見つかったりします。
知見がないからこそ新しい視点で論理展開を眺めることができ、それが私のような管理職の一つの役割ではないかと思えました。
もちろんたいていの場合は部下の提案で問題ありませんでした。
それでも、根拠やその後の展開を改めて明らかにして共有することで、上司である私も部下も、自信と安心感をもって業務を進めていくことができます。
ちなみに、これらの問いは、「なぜだ!」「で、どうするんだ!」というように、詰問するようにも使えます。
しかし、そんなことをしたら部下から報告や相談をしてもらえなくなりますし、自分の方が知見が足りない場合は結局自分が発した問いに対する回答も出せず、部下は「じゃぁ、上司にあげなくていいや。」となってしまい、管理職としての務めが果たせなくなってしまいますので、注意が必要です。
3-2.自分しかできないこと(中間管理職として)
論理展開を明らかにする会話を積み重ねることで、だんだんと、仕事の肝が見えてくるようになります。
仕事の肝とは、何のための業務か?論点は何か?どういう判断基準で動くべきか?リスクは何か?といったことです。
そうすると、ようやく本来の管理職としてやるべきことができるようになります。
やるべきこととは、プロジェクトマネジメントの考えに沿って述べると、主に以下の項目を管理することです。
※プロジェクトマネジメント、ガイドライン(PMBOK)によると、10項目(分野)ありますが、その中から重要だと思われるもののみ選んでいます。
↓関連する過去のブログ
『プロジェクトマネージャーとしての知識』 - うめさんブログ
- スコープ(目標・成果物)の設定
- コスト管理
- スケジュール管理
つまり、目標を定め、決められたコストの中で、期日までに、求められた成果をあげるということです。
中間管理職の役目としては、自分よりもさらに上の幹部や機関が定めた成果を達成しなければなりません。
ところが、ここでまた問題が生じます。それは、成果達成のために、時に無理をしなければならない場合があると言うことです。
そんなとき、部下よりも知見が豊富な上司であれば、「よし、若い時自分もさんざんやったから、俺も手伝うよ」と言えるのですが、自分の場合、経験がなく手が動かせませんでした。
そのため、事前にやれることとして、前述の「スコープ(目標・成果物)」「コスト」「スケジュール」の管理をしっかり行い、なるべく手戻りなく、最小労力で成果が挙げられるよう努めますが、それにも限界があります。
そこでもう一つやれることが、チームの雰囲気を良くすることでした。
怒鳴らない、理不尽なことを言わない、といったことは当たり前ですが、朝の挨拶や、部下への声がけやお礼、上司の側からの情報共有、「なんのためにその仕事をやっているのか」という仕事の意義づけや、気分をほぐすための打ち合わせの前の簡単な雑談など、を心がけるようにしました。
同じ業務量でも、心理的に頑張れる職場と頑張れない職場があります。心理的に安心して頑張れる職場を作りたいと思っていました。
3-3.本当に自分しかできないこと(上級管理職として)
中間管理職を3ポスト経験させてもらい、またしばらくして、今度は上級管理職、つまりトップである支店長として組織を率いる機会を頂きました。
すると、また違った景色が見えてきました。
中間管理職の時とは、やるべきこと、自分しかできないことが変わったのです。
もちろん中間管理職の時のように「スコープ(目標)」「コスト」「スケジュール」を管理することは必要です。
ただ、これらは、私だけが管理しているのではなく、自分の部下である副支店長や中間管理職である各課長もそれぞれの立場で管理してくれています。特に、数字で目に見えるものは、日々の変化も追えるので、そうそう見落とすと言うことはありません。
となると、上級管理職は目で見えないものを管理する必要があります。
同じくプロジェクトマネジメントの考えに沿って述べると、私が考える上級管理職がやるべき、上級管理職しかできない項目は以下の通りです。
- ステークホルダー(関係者)の調整
- 人的資源管理
そして、プロジェクトマネジメントにはないですが、以下も必須です。
- ビジョンとミッション(※あえて言うなら、スコープの先でしょうか。)
- 組織文化(バリュー)(※あえて言うなら、人的資源管理の土台でしょうか。)
まず、ステークホルダー(関係者)との調整。
関係者とは、定義としてはプロジェクトに関わる全ての方を指しますが、なんと言っても外部の重要な関係者との調整が大切です。
そして、それらの方々は、自分が優秀だからというわけではなく、組織のトップであるという肩書きと権限をもっているから、会って頂けるわけです。
もちろん調整のための資料作りなどは部下に手伝ってもらいますが、関係者に直接会い、報告したり、交渉したり、説得したりは、自分が責任を持って成果を出さなくてはなりません。
次に人的資源管理です。
人的資源管理には採用や異動、人事制度設計など多々ありますが、支店として取り組むべきは「人材育成」でした。
なぜなら、支店は最もお客様に近い現場だからです。
この人材育成、実は中間管理職の時は、自分のことで手一杯でなかなか手が回りませんでした。
そのため、「優秀な部下は、自分が手をかけなくても、勝手に伸びていく」。その一方で「伸び悩んでいた部下は、少ししか伸ばせてやれなかった」という結果でした。
そこで改めて、若手、若手の育成担当者、そして初めて管理職になった方々を対象に、色々な図書を参考にしつつ、人材育成に取り組んでみました。
大学院で組織論や研修理論を学んだ今から振り返れば、改善の余地は色々とありますが、多くの方に協力して頂き、「若手を育てよう」「仕事を通じて学ぼう」という雰囲気を作ることができたのは良かったと思います。
次に、「ビジョンとミッション」です。
上級管理職になると、複数のプロジェクトをみることとなります。プロジェクトはそれぞれ目的が異なりますし、進捗状況も異なりますし、日々様々な問題が起きます。
そのため、全てを隅々まで管理することは不可能です。
そんなときには、チーム全体が向かっていくビジョンやミッションが必要です。自分の場合は「自分たちの子どもが住みやすい地域にしよう、自分たちが年老いたときに住みたい地域をつくろう」というものでした。
このビジョンが良いかどうかは別にして、自分の言葉でチームに示す必要があります。
次に「組織文化」です。
中間管理職としてチームの雰囲気を良くすることが必要と書きましたが、チームの雰囲気は、組織全体の価値観、つまり組織文化の影響を受けます。
組織文化とは、組織の中で共有されている価値観ですが、良くも悪くもその価値観に最も強い影響を与えるのが組織のトップです。
どういう価値観の組織を作っていきたいのかを示す必要があります。
私の場合は「楽しく働く」ために、批判ではなく対案、何のためにその仕事をしているのか考える、仕事はみんなで、下手なイノベーションより上手なイミテーション(出典:佐々木常夫氏の言葉)、ちょっと試してみよう、強みを伸ばそう、と言うようなことを着任時に挨拶し、文書にもして配布しました。
もちろん言葉で示したら、すぐにその組織文化が形成されるわけではなく、繰り返し伝え、日々の業務の中で実践することで培われていくものですし、また部下の方々からいろいろなフィードバックをもらって変化させていく必要もあります。
自分の経験では、定着するのに1年ぐらいはかかりますし、1年も経つとまた人が入れ替わるので、再度定着を図る必要がありました。
ビジョンやミッションが達成できるよう、チームのメンバー一人一人の日々の行動のよりどころとなるような組織文化が形成できるのが理想です。
↓関連する過去のブログ
読書メモ 「会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか」Harvard Business Review - うめさんブログ
以上の中の「関係者調整」を除く、「人材育成」「ビジョンとミッション」「組織文化」は、部下とのコミュニケーションを通じて作り上げていくものです。
結局、最初の部下の話を聴くことに戻るわけです。
自分の思いを言葉や態度で示し部下に伝え、またそれ以上に、部下の思いを言葉や態度から読み取ったりしていかなければなりません。部下からのフィードバックこそが、自分にとっての気づきの源泉となります。
プロジェクトマネジメントのガイドライン(PMBOK)にも、「マネージャーの仕事の9割はコミュニケーションである」と書かれています。
部下との対話に一定時間以上をかけることが必要です。
4.最後に
偉そうに色々と書きましたが、管理職(マネージャー/リーダー)としてこれらのことを私がちゃんとできていたとは言えません。
失敗したと思うこともありますし、今ならもっと上手にやれたのにと思うこともあります。部下の方の中には、私のやり方に不満があった方もいらっしゃるでしょうし、私が気づかなかったこともたくさんあるでしょう。
ただ、私の方には、部下の方々に恵まれ、色々と教えて頂いたという思いがしっかりと残っています。
また、比較的早い段階で管理職を経験させてもらったこと、さらに(支店や支社での)管理職の立場と(本社での)部下の立場を交互に経験できたことは、マネジメントを考える上で非常に貴重な経験でした。
この思いと経験は、今後も仕事をする中で、大切にしていきたいと思います。