今回紹介するのは、「問題解決」(著:高田貴久、岩澤智之)という名著です。
この本、自分は仕事を始めたばかりの20年前に読んでおきたかったです。
そして、一緒に仕事をする仲間全員がこの「問題解決」の基本的な手法を共通言語として使えるようになったら、今よりずっと良い仕事ができるように思います。
さて、何か問題が起こると、その問題を解決しなければならないわけですが、問題を解決しようとして、「よしっ、この対策をしよう!」と思い付きで対策を打ってはダメなのは分かると思いますが、「なぜこの問題が起きたのだろう?」と原因を考えるのもダメなのです。その前にするべきことがあります。
本著から、以下の分かりやすい例(一部改)を紹介します。
1.体調不良という問題
友人から「体調が悪いんだけど、どうしたらいい?」と言われたら、あなたならどうしますか?
①How
『薬飲んだら? よく効く薬知ってるよ。』
『栄養があって消化がいいもの食べたら?』
『早く寝るといいよ。』
『医者に行くといいよ。』
これらの回答は、体調が悪いという問題に対して、「どのようにするか」という対策を打つことを提案しています。
これを「How」と呼びます。
②Why
『最近夜ちゃんと眠れてる?』
『昨日飲みすぎたんじゃないの?』
これらの回答は、問題の原因を探るものであり、なるほどいきなり対策を打つよりは効果的に見えます。
これを「Why」と呼びます。
③Where
『どこが悪いの?』
『頭が痛いの?』
『お腹の調子はどう?』
『熱はある?』
これらの回答は、体調が悪いという事象に対して、具体的にどこの調子が悪いのかという、どこに問題があるかを特定しようとしているものです。
これを「where」と呼びます。
2.問題解決の手順
さて、もし友人の体調の悪い原因が、軽い脳出血であった場合、どうなるでしょうか?
①Howで提示した対策の中にあった、薬を飲んでも食事をとっても意味がないでしょうし、寝てしまっては手遅れになるかもしれません。
医者に行くというのは良い対策ですが、そのほかの対策をしているうちに、医者に行くのが遅れてしまうかもしれませんし、適切な診療科にかかるまでに時間がかかるかもしれません。
次に②Whyを聞いて、それをもとに対策を打ったとします。
例えば、『夜眠れている?』に対して『眠れていない』と答えがきたら、じゃぁ『今晩は早く寝よう』という対策を提案したとすると、前述のhowと同じで、意味がありません。
『眠れている』と答えたら、この原因については検討しなくてよくなったわけで、意味はありますが、別の原因を探す必要があります。
「why」を考えることはいきなり「how」をやるより意味がありそうですが、「why」を考える前にやるべきことがありそうです。
③Whereはどうでしょうか。
『どこが悪いの?』『頭が痛いの?』『お腹の調子はどう?』『熱はある?』というのは、体調が悪いという現象を、体の部分ごとに区分けして、どこに問題があるのかを探っていっています。
ここで『頭が痛い』という回答が得られ、さらにどのように頭が痛いのか、いつから頭が痛いのか、どんな時に痛むのかと言ったことをしっかり聴き出すことができれば、そこからそういった現象に結びつくであろう原因に絞って「why」を考えることで、より的確な原因を見つけることができ、それにより最も効果のあるhow、つまり対策を導くことができるでしょう。
「where」を考える、つまり問題の所在を明らかにすることの重要性は、「how」や「why」から考えてしまうと、全く問題解決に至らない場合があるということです。
前述の『薬を飲む』という「how」は役に立ちませんし、「why」から考えた『早く寝る』という「how」も役に立ちません。
慌ててhowやwhyに飛びつかず、どれだけwhereの段階に留まれるか、つまり問題の所在を明らかにできるか、がポイントです。
※補足 上記はあくまでhow-why-whereを理解するための例なので、あなたが頭の病気に関する専門的知識を持っているかどうかは考慮に入れていません。ただし、あなたが専門的な知識を持った医者でないとしても、『どこが悪いのか』を丁寧に聞いてあげることは、本人が問題を認識するために有意義なはずです。
3.whereの訳
このwhereにとどまるというのは、いわゆる「現状分析」にあたります。
まずは「現状分析」をし、そのうえで「原因分析」をし、「対策」を検討するという極めて当たり前な流れです。
ところが、私の経験上、この「現状分析」と「原因分析」、つまり「where」と「why」を混同しがちでした。
以前紹介した書籍「ファシリテーションの教科書」でも、「whyに飛ばず、whereに留まることが問題解決の肝」と述べられていましたが、私はなかなか理解できませんでした。
どうもそれはwhereの訳し方にあったように思います。
私はこのwhereを『どこに問題があるか?』『どこが悪いのか?』と訳してしまっていたのですが、この訳し方だと、前述の体調が悪いという事例で言うと、『寝不足が問題だ』とか『昨晩早く寝なかったのが悪い』という回答がでてきてしまい、すぐにwhyと混同してしまいます。
それで自分なりの新たな訳としては、『どこで何が起きているのか?』としました。
この問いによって、あくまでも事象として起きていることに集中し、そして事象を細かく分解し、事実だけを追っていく。
(先の事例では、体の部分ごとに調子を確認していく、もしくはいつ痛みが出るかと言う時間ごとに確認していく、ということになります。)
さらに言えば、普段と同じことが起きている部分を特定しても意味がないので、『どこで特異なことが起きているのか?』という訳し方もできます。
4.さいごに
この「where」に留まることは、効率的に効果的な対策を打つことに必要なことなのですが、「How」だけで動いても「Why」だけで動いても、偶然効果的な対策を打つことができることもあります。
しかし、問題は「リソース」です。
「how」だけで動いたり「why」だけで動いたりすると、非常に多くのリソース、つまり時間、お金、人員が必要となります。
問題を目の前にして、何か対策を打たなければならないと焦って、最初に思いついたhowから始めてしまったり、思いついたhowをすべて実行しようとしたりしていると、どんどん忙しくなります。そして、忙しくなればなるほど、whyやwhereを考える時間が無くなり、さらにhowが増えていくという、悪循環に陥ります。
時間は限られているかもしれませんが、限られているからこそ、whereにとどまり、『どこで何が起きているのか?』を明らかにする必要があります。
ここで紹介した例(※私の方で一部改)は、本著の最初のわずか2ページほどで述べられていたものです。
本著では、問題解決の具体の流れを丁寧な言葉と分かりやすい図で解説されており、またその解説に加えて、売り上げが落ちてきている架空のメーカーの奮闘をストーリー仕立てで紹介するなど、非常に分かりやすくも実用的で内容の濃い図書となっています。是非、本著もお読みください。
参考:
「問題解決――あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術」 2014/3/6
高田貴久 (著), 岩澤智之 (著)
「ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」 2014/10/31, グロービス (著), 吉田 素文(執筆)