新人研修の役割

 新人研修の季節ですね。自分も受けてますが(^^;

 コロナウイルスの対応で新人を一か所に集めることができなくなり、新人研修をどうしたらよいか人事担当者の方も頭を悩ましていることと思います。

 そこで、今一度、新人研修の目的をおさらいしてみました。

 

 今回は、中原淳先生の「経営学習論」からの引用です。

(注:ただし、引用にあたって私の方で言葉を簡単にしていたり、自分の意見を足しているので、正確には原書をご確認ください。)

 

 こちらの図書は今まで私が紹介してきた中原先生の図書とは違い専門家向け、もしくは大学で少し習ったことがある方向けとなっています。

 一言で言うと、職場での学習に関わる各種研究成果を体系的に集約したものです。

 私も読んでいて、「あれっ、言葉や表現が難しいな。ちょっと論文ぽいな。」と思いつつ読み進めましたが、その分内容の濃いものとなっています。

 各種研究成果の歴史の変遷や理論の違い、最新の研究で分かっていること・分かっていないことを知ることができるので、職場における学習関係の本を読むときのガイドラインにもなるかと思います。

 

f:id:umesanx:20200411121320j:plain

 

 

1.組織社会化

 新人研修は、組織の一員となるための研修ですが、この組織の一員となることを、「組織社会化」と言います。組織と言う社会に入ることです。

 

 ちゃんとした定義を言うと、少し難しいのですが、次のようになります。

「組織構成員として参加を達成するため、新規参入者が新しい職務・役割、職場集団や組織文化についての知識を獲得し、組織適応を達成する過程」

 

 この定義において、留意すべきポイントは以下の3つです。

 

1)組織社会化を達成するには「個人による学習」が必要だということ

2)組織社会化の目的は、「組織が期待する役割・職務・業務を実行することができようになること」と「組織に適応できるようになること

3)組織社会化は、プロセスであるということ。

 

  例えば、今回のブログでは新人研修を取り上げますが、新人研修だけでなく、入社前のHP等での職場紹介やインターンシップから、新人研修が終わって配属された後のOJT(オン ザ ジョブ トレーニング)も含む一連のプロセスということです。

 

 ですから、入社前に聞いていた会社の雰囲気と入社後の実際の会社の雰囲気があまりにかけ離れていたり、新人研修で習ったことが配属後に活用できないということが起きると、新入社員は会社と言う組織の一員になることができず、遅かれ早かれ辞めてしまうことになります。

 

 

2.新人研修

 組織社会化のプロセスにおいて、「新人研修」は極めて重要な位置づけを占めます。

 前述の通り組織社会化という一連のプロセスの一コマなわけですが、会社員となったという大きな変化の節目に行うものであること、また会社側(恐らく人事部局)が研修スケジュールや内容などをしっかりコントロールできるものであることから、確実に一定の教育効果が見込まれるからです。

 参入前に会社のことを伝えるためのHPやインターンシップはありますが、インターネット上の情報をすべて会社側でコントロールできるわけではありませんし、新人研修後に新人を各職場へ配属した後のOJTについても、そのOJTの質をあるレベルに維持するのはなかなか困難だからです。(OJTについては次回取り上げようと思います。)

 

 新人研修の目的は、1で述べた組織社会化の目的と同じですが、では、新人研修の効果は何でしょうか?

 

新人研修の効果

1)研修の厳しさによる効果

2)研修の不変性による効果

 

 ちょっと言葉が難しいですね。解説していきます。

 

「1)研修の厳しさによる効果」とは、以下の5つから構成されています。

①タブラ・ラサ(白紙)効果

 いわゆる「学生気分から抜け出させる」というもので、新人たちの今までの価値観を一度壊し、社会人・社員としての新たな価値観・行動規範を習得させることです。

 

②ヨコとの連帯感醸成

 研修内容が厳しいものであるからこそ、同期とのあいだの社会的つながりが強固になることをいいます。

 

 (閑話休題:私個人としては新人研修の時、研修後にほぼ毎日グラウンドでサッカーをやったことが今でも忘れられず、とても連帯感の醸成に役立った印象が、、、人事の方すいません。)  

 

③タテへの信頼感醸成

 研修において、時には不条理とも思える指示や命令を出すトレーナーに対して、新人は当初はネガティブな感情を持つものの、それが次第に「サポートしてくれている。鍛えてくれている。」という感情に変わり、信頼感が生まれることです。

 

④自己効力感の醸成

 厳しい研修を乗り越えたからこそ、「自分はできる」という自己効力感が生まれます。

  

 この④は①と結びついていて、つまり「意識が変わる」だけでなく「行動が変わる」ところまで新人を導く必要があります。

 

⑤組織コミットメントの醸成

 ①~④が満たされると、必然的に組織に対するコミットメント、つまり組織への愛着が醸成されてきます。

 

 さて、①から⑤において、「研修が厳しいからこそ」という表現や研修が「厳しい」ものであることを前提に書いている部分がありますが、この「厳しさ」をはき違えることのないようにしていただきたいと、私は強く思います。

 もう今の世の中あまり無いと思いたいですが、理不尽なこと、体力的に無理なことをやれば良いということではありません。

 

 新人を振るい落とすことが目的ではありません。新人が会社の一員として伸びていくことを後押しするものでなくてはなりません。

 

 山でキャンプをしたりするのも、タブラ・ラサ効果を生み出すための工夫と言えますが、やるのであれば、新人各人の個人特性の把握や万全の安全管理、強固な目的意識、トレーナーの指導が必要です。

 

 

「2)研修の不変性による効果」とは、毎年同じような研修をすることで、その研修を受けた社員の間での共通の話題となり、コミュニケーションツールとして使えたり、同じ研修をくぐり抜けた仲間として組織の一員と認めてもらえるといったことです。

 

 

3.オンラインでの新人研修

 コロナウイルスの脅威が増してきている中、ここ数か月ほど、各会社の人事の方々は、どう新人研修を行うのか頭を悩ませたことと思います。

 

 従来のようにどこかの一か所に新入社員を集めることができれば、毎日スーツや作業着を着る、時間を守る、同期とともに様々なマナー研修を受ける、課題に取り組む、先輩社員の立ち居振る舞いを見る、トレーナーからリアルタイムで叱責を受ける、会社の歴史や経営戦略や目標を学ぶことで、①~⑤をある程度達成することができたからです。

 

 それをオンラインにした時、どれだけ①~⑤を達成することができるのか、工夫が必要です。

 

 私としては、物理的に距離が離れていることにより、心理的な距離も離れていくことをまずは食い止めたいと思います。

 

 つまり、②と③を今まで以上に大切にする必要があります。

 

 メールで一斉に指示をして課題を出して終わりではなく、zoomやskypeで一方的に講義をして終わり、ということではなく、なるべく少人数(6人ぐらいまで)のグループを作り、トレーナー(人事部局や育成スタッフ)も入ったうえで、zoomなどの顔が見える(つまり、表情が分かる)ツールを使って、顔を合わせて雑談をする、自己紹介をする、一緒に学ぶ・課題をする・プレゼンをする、学んだことを振り返る、オンライン呑み会をするといったことで、双方向のコミュニケーションを確保することが大切かと思います。

 

 と同時に、②と③を土台として、⑤へつながるよう、何のために会社に入ったのかという新人個人の思いと、何のために会社があるのかという会社のVision・Mission・Valuesが一致できるよう、いろいろな形で新人の思いをくみ取るとともに、新人に会社の思いを実感させる必要があります。

 

 コロナウイルスで先が見通せない時だからこそ、新人には、会社という組織が向かっていくべき先を、明るい未来を語る必要があると思います。

 

 

参考)

中原 淳  (著), 2012/9/1, 「経営学習論 人材育成を科学する」