察する力をどう伸ばすのか?

 前回のブログで「テレワークで試されるコミュニケーション力」について取り上げました。

テレワークで試されるコミュニケーション力 - うめさんブログ

 

 最も伝えたかったメッセージは、

コミュニケーションをとっている時以外の姿が見えないからこそ、コミュニケーションをとるわずかな機会に察する力が求められる」

ということと

今までの職場においてすら(つまりオフラインですら)コミュニケーションが取れなかった人が、今後のオンラインでのコミュニケーションがうまく取れるとは思えない

ということでした。

 

 この中の「察する力」について友人からいくつかコメントを頂きました。ありがとうございます。

 

 そして、先週以降ずっと考えていたのは、「察するとは具体的に何をしたらよいのか?」「察する力はどうやって伸ばしたらよいのか?」ということでした。

 

f:id:umesanx:20200426184051p:plain

出典:Gerd Altmann氏作 Pixabayより

 

1.ヒューマンスキル

 察する力というのは、対人関係を構築するスキルの一つです。

 そして、対人関係を構築するスキルと言うと、1955年にハーバード大学のロバート・カッツ教授が提唱したカッツモデルの中で提示された「ヒューマンスキル」が有名です。

(カッツモデルの説明は省略します。)

 

 このヒューマンスキルには7つの能力が含まれています。

  • コミュニケーション力

  • ヒアリング力

  • 交渉力

  • プレゼンテーション力

  • 動機づける力

  • 前向きにスキルを磨き続ける能力(向上心)

  • 組織を引っ張る能力(リーダーシップ)

 

 そして、三谷宏治先生は、これら7つのスキルは基礎的な3つの力

  • 聴く(話を聴く、質問する)

  • 話す(相手に伝える)

  • 見る(行動や組織を観察する)

に集約されると述べています。

 

 私が取り上げた「察する力」は、洞察力や観察力ともいえるもので、この3つの中の「見る」に該当します。(※「観る」の方が個人的なイメージには合うなあと思います。)

 

 例えば、前回の例で言うと、上司や部下の個々の仕事の状況や行動、心情、表情、さらには上司と部下や部下同士の関係と言ったものを見るというものです。

 

 

2.どうやって伸ばすか?

 ところが、この「見る力」を伸ばすのはなかなか難しいです。

 

 前回のブログで私が書いた「上司の忙しさを見て判断する」というのも、具体的に上司のどこを見るのか、もしくは見たことをどう解釈するのかなどは、事例を挙げることはできるかもしれませんが、すべてを挙げることは難しいですし、見ようとしている対象(この場合は上司)の個人差もあるでしょう。

(※従業員が多国籍となっているglobalな会社では、文化的な違いも踏まえて解釈する必要が出てくるため、さらに難しいかと思います。)

 

 そこで、まずは「聴く力」から伸ばしていったら良いのではないかと思います。

 

 なぜなら「聴く」という行為の中に、相手を「察する」ことも含まれているからです。

(もちろん「話す」という行為の中にも、相手を「察する」ことも含まれていますが、自分が伝えたいことを考えつつ、相手のことも考える必要のある「話す」ということに比べて、相手のことだけを考えるようにして「聴く」ことの方が「察する」力を伸ばすのに、より適切なのではないかと考えました。

 

 

3.聴く

 私が学んだコーチングではこの「聴く」ということを非常に大切にしており、いくつかのテクニックもありますが、私自身が思う最も大切なことは、「相手の立場に立って黙って聞く」というものです。

 

 もちろん、話を聴いているということを相手に示し、そのことによって話しやすい雰囲気を作る「相手の目を見る」や「うなづく」「相手の言ったことを繰り返す」といったこともできた方が良いです。

 また、相手が話している内容を確認するために「質問する」や「相手の言ったことを要約したり言い換える」といったこともできた方が良いです。

 

 ただ、人はどうしても、相手が話している間に次に自分の言うことを考え始めてしまい、自分の経験を話し出したり、相手の主張を評価したり、反論したり、アドバイスをしたくなってしまいます。

 

 そうではなく、相手が話している間は、相手が何を言おうとしているのか、どういう気持ちなのかを把握するために、話されている言葉を理解することに集中するだけでなく、相手の表情や声のトーンなども汲み取る(つまり、察する)ことをしつつ、相手の立場で聴くことが大切です。

 

 さらに、相手の話を聴いている自分にはバイアスがかかっている(=人の認識にはバイアスがかかる)ということも、知識として知っておくと良いでしょう。

↓関連する過去のブログ

組織行動論 メモ2 『誰もが正しく認識できていない可能性がある』 - うめさんブログ

 

 この「聴く」ということを徹底することで、「見る力」(=察する力)も養われていくと思います。

 

 

4.部下の話を「聴く」

 上司として管理職の立場にある方は、部下の話を聴くことがとても多いかと思います。

 

 ところが上司は、忙しく、知識も経験もあり、決断し、解決しなければならないため、つい部下が話している途中で口をはさんでしまいがちです。

 自分もこの「黙って聞く」というのが極めて苦手で、心がけてはいるのですが、忘れることが多く、まだまだ修行が必要です。

 

 もし「黙って聴く」ということができていなければ、最初は、「部下の話が一段落するまでは黙っておこう」とか「3分は黙っていよう」とか「部下と同時に話し始めてしまったら必ず部下に譲る」とか、自分なりの行動目標を決めると良いでしょう。

 

 

 ところがこの「聴く力」があがってくると、話しかけてくる部下も増えるでしょうし、部下の話も長くなるかもしれません。すると、ただでさえ忙しかったのに、さらに忙しくなります。

 そんな時は、「何のために部下の話を聴く必要があるのか?」を今一度考えていただきたいです。

(自分は部下の話を聴くことは必須だと思っていますが、敢えて私の考えは述べないでおきます。3分ほどで良いので、是非考えてみてください。)

 

 よくある悪い例だけ挙げておくと、「報告しろ!」とうるさく言う上司に限って、報告を聞いていなかったりします。

 そして、報告を聞いてくれない、もしくは報告したことで怒られる、ということを部下が学習していまうと、部下はますます報告しなくなります。

 

 いやいやちゃんと聴きたいと思っているのだけど忙しい、という方は、以下を試してみてはいかがでしょうか?

(単なるテクニックなので、自分が忙しいという理由はあるにせよ、相手のことを思いやるという立場にたって使ってください。)

 

 話を聴く冒頭で「じっくり聴く」のか「時間を区切って聴く」のかを決めるというものです。

 「時間を区切って聴く」場合には、自分のスケジュールや部下が話そうとしている内容や必要な時間を踏まえて、最初に「〇分間は話を聴くよ」と伝えるだけです。

 

 そうすることで、部下もちゃんと時間を取ってくれたことを認識しますし、その時間内で伝えるよう工夫してくれるでしょう。また、聴く方もその時間はちゃんと聴くことに集中できます。

 

 ただし、毎回毎回時間を区切っていると、「話をちゃんと聴いてくれない」となりますので、混みいった話の場合や、話が途中になってしまった場合は、改めてスケジュールを確保するというのを忘れないようにすると良いでしょう。

  

 「聴く力」を通じて「見る力」もつけ、チームワークを高めていきたいですね。

 

 

参考: 2019.9., 三谷宏治, 新しい経営学, 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン