私のモットーは「強みを生かす」です。
この思いのもと、今は人材育成の仕事をしていますが、この思いの原点は前職での経験です。
1.役に立たない課長
私は入社7年目で支店の課長になりました。優秀だったからというわけではなく、7年目からマネジメントを学ぶというのが会社の育成方針だったからです。
それまでは本社で係長として仕事をしていましたが、基本的には上司の指示をこなすというものでした。
それがいきなり支店、そして現場の課長となりました。
当然、現場のこともマネジメントのことも知らないことばかりです。
一方、部下の方々は知識も経験もそして年齢も上の方ばかりです。
困りました。どれだけ遅くまで仕事をしても、知らないことが次々と出てくる。そして判断できない。
部下の方々が非常に仕事もでき、人格もすばらしく、多々私をサポートしてくれるだけに、自分がチームの役に立っていない、自分が仕事のボトルネックになっていると感じました。
そんな折、社外の人にプロジェクトの説明をしなければならない機会があり、やはりある程度のポストの人でないと失礼だからと言うことで、私が説明することになりました。
もちろん資料は部下が作ってくれ、事前にいろいろと部下に素人のような質問を投げては教えてもらうという形で準備を進めました。
そして説明当日。
社外の方にプロジェクトの内容を説明しつつ、途中先方からの質問にも答えつつ、なんとか1時間ほどで話し終わりました。
説明が終わって帰ろうとして椅子から立ち上がったとき、社外の方から「いや、こんなに分かりやすく説明頂けたのは初めてでしたよ。今までの説明は難しいことが多かったので、助かりました。」と言われました。
自分は『そんなに分かりやすかったかな? 着任したばかりだからほめてくれてるのかな?』なんて思いつつも、ちょっと嬉しく思いました。
そして帰り道、今度は部下から「説明上手いですね。流れもスムーズでしたし、例えとかも分かりやすかったです。やっぱり仕事覚えるの早いですねぇ。」と言われました。
『あれっ、もしかして自分はチームに貢献できたのだろうか!?』と思えた瞬間でした。
部下は仕事を覚えたと言ってくれましたが、実際のところ細かい話は全然分かっていませんでした。
それでも、自分の知識がなかったことが逆に、素人である社外の方と同じ目線でプロジェクトを見ることができ、その目線で説明ができたのが良かったようです。
思えば、自分は昔から説明することは好きでした。
また、自分は昔から、全体像を把握するのが得意でした。例えば、本を読んでいても全体構成が気になって、目次を見つつ全体の中のどこを自分は読んでいるのかとか、この章が全体の中で果たしている役割は何かというのを考えていました。
さらに、本社にいた際、いわゆるロジカルシンキングのような指導をたくさん受けていました。なぜこういう結論に至るのか、この施策をするとどうなるのか等、多々ご指導いただきました。
つまり、「素人目線でチェックし、全体像を押さえつつ、ロジカルに判断すること」なら自分は得意だし、チームの役に立てると確信しました。
もちろん専門のことや現場のことは引き続き覚えていきました。そういった専門的な事実やデータ、現場で起きていることが、プロジェクトの根幹ですから。
でもやっぱり部下には追い付けないのです。知識や経験の厚みが違いますし、自分は課長としてマネジメント業務もしなくてはならないので、差は開く一方です。
それでも、「素人目線でチェックし、全体像を押さえつつ、ロジカルに判断すること」ができるという自分の強みは、非常に役に立ちました。
部下の方々と専門的な議論をしている際に、「もし○○について問われたらどうするの?」「○○の論点が抜けてない?」と見落としていた論点を投げかけることができるようになりました。
部下から報告を受けた時も、「これってもともと何のためにやっていたのでしたっけ?」とか「このA案でいくとしたら、その後どうなりますか?」と質問することで、気づきを与えられるようになりました。
そして、課長と言うポストの利点として、情報がたくさん集まってくるというものがありますが、この利点と私の強みの相性は極めて良かったです。
なぜなら、たくさんの事例を知ることで、「あれ? 似たような案件なのに、違う基準で判断しているのはなぜだろう?」などと考えられるようになり、様々な視点でのチェックや判断の根拠に触れることができるからです。
このため一層自分の強みが磨かれたような気がします。
2.こだわりの強い部下
自分の強みが分かってくると、がぜん人の強みにも興味が湧きました。
そんな折、非常にこだわりの強い部下の方と仕事をしたことがあります。
ある分野については極めて優秀で、かつ、自分なりのこだわりがあり、その手の仕事ならば人一倍楽しそうに最後まできっちりやるが、余り根拠を示してくれずどんどん進めてしまいがちな方でした。(ちなみに、やり方や判断はほとんど合っていました。)
逆に、その分野以外の仕事をお願いすると、あからさまに「嫌だなぁ」という顔をする方でした。
そこで、「強みを生かす」という方針のもと、業務分担を変更し、この方のやりたい仕事を業務として任せることにしました。
そして、課長として業務をチェックする必要があるので、例の自分の強みを使って、素人目線で質問して教えてもらうというスタイルをとりました。まぁ、事実知らないことだらけなのは本当でした。
最初は「そんなことも知らないんですか?」という目で見られましたが、色々と話を伺ううちに、「昔こういう経験をした」とか「これについては自分の経験とこの文献に照らすと、この方法がいいんです」とか、たくさん話してくれるようになりました。
話をしてもらえるようになれば、もう一つの私の強みである、全体像を押さえつつ、ロジカルにチェックすることができるようになり、お互いの力でより良い仕事の成果を出すことに貢献できるようになったように感じました。
この強みに合わせて業務内容を変えることは、成果も出せるし、楽しく働けるのではないか、と思った出来事でした。
もちろん業務内容は変えづらいことが多いです。今回のケースでは、業務内容の変更を受け入れてくれた、その他の部下の方々の理解があってこその部分もあります。
それでも、「他人の強みを見つけ、それを生かす道を考える」ことは、管理職ならば何度も考えトライしなければならないと思います。
3.強みで弱みを克服する
最後はまた自分の話を。
自分の強みが分かってくると、同時に、弱みも分かってきます。
例えば、自分はやや「創造力」が足りません。どうしても妥当な案、つまりオーソドックスな案を選んでしまいがちなのです。
世の中の変化が早く、イノベーションが求められる昨今において、どの企業も「創造力」を持つ人材を探しています。そんな中「創造力」が無いのは結構まずいです。
そこで、私は「創造力」を自分の中に求めるのではなく、チームの力を借りることにしました。
例えば、会議においては、その分野における自分の知識のなさをきっかけにして、専門的な知識を持つ各メンバーから意見やアイディアが出しやすい雰囲気を作ります。
そして出てきたアイディアに、いろいろと素人目線で質問し、各メンバーのアイディアを膨らませたり、組み合わせたりしていきます。
最後に、論理的に考えて、最も良い案をみんなで探していくという方法を取ることにしました。
結果として、アイディアは私が出したものではありません。それでも、その議論の過程において、私も一定の貢献ができたこととなります。
あとは、管理職として、「成功したら部下の手柄、失敗したら自分の責任」というところだけ忘れないようにしておけば、「創造力」のあるチームと言えるのではないでしょうか。
これからも「強みを生かす」というモットーで誰かのお役に立てればと思います。
おまけ
以下、いままで「強み」について書いたブログの一覧です。
私の経験だけでなく、理論的なことも含まれていますので、ご参考まで。
強みを知ろう(ストレングスファインダー) - うめさんブログ
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