Project Cost Management (コスト管理)

 巨額な投資である公共事業に限らず、すべてのプロジェクトにおいて、コスト管理は必須です。コストは先行投資であり、収入はプロジェクトの完成後に生じるため、必要な利益が上がるようコストをコントロールしなければなりません。
 
 公共事業について言えば、以前の上司の方に「on time on budget」(予定通りの予算で予定通りの工期)という言葉を教えていただきました。私自身の理解では「税⾦を財源とする予算を適正に執⾏するため、また⺠間企業による計画的な投資を促すことによるストック効果の発現※1や利益率の⾼い⼯事の実現のため、予定通りの予算で予定通りの⼯期の達成が必要」だというものです。
 
 ※1:道路が予定通り開通することが分かれば、それに合わせてホテルの新設や工場の進出などの民間投資も予定通り行われやすくなるというもの。
 
 とかくコストは膨らみがちです。長期間にわたる公共事業でもそのような批判を受け続けています。また、ITプロジェクトについても、2011年のハーバードビジネスレビューに掲載された研究によると、1,500のプロジェクトを調べたところ、平均的に当初予算より27%ものコスト増が生じていたそうです。
 プロジェクトにおいて、実際に使ったコストの把握は必須として、どの程度プロジェクトが進んだのかという進捗状況の把握、さらには作業効率のチェックも重要です。
 それには、この「Project Cost Mangement」が有効です。
 
1.流れ
「Project Cost Management」は以下のような流れとなります。
1)Plan Cost Management
2)Estimate Costs
3)Determine the Budget
4)Control Costs
 
1)Plan Cost Management では、どういった単位(例:人数、日数、m3)で、どの程度の精密さで(例:百万の位で四捨五入)、どの程度の正確さ(例:誤差±10%)でコストを積み上げていくのか、またどのような手順でコストを承認、修正していくのか、さらにどのようにコストを把握するのかを定めます。
 
2)Estimate Costs では、以前のプロジェクトや似たようなプロジェクトのコストを用いる「Top-down estimates」、作業一つ一つに必要なコストを積み上げる「Bottom-up estimates」、複数のプロジェクトから得られたデータをもとにした相関関係を用いてコストを予測する「Parametric modeling」等を用います。
 私の経験では、データ蓄積によって「Parametric modeling」を改善する余地があるのではないかと思っています。
 
3)Determine the Budget では、積み上げたコストに留保分を加えて全体予算を決め、さらに時系列でどのようにコストが変動するかという「Cost Baseline」を作成します。
 
 私としては、プロジェクトを円滑に進めるため、留保分(Reserve)の適切な積み上げが極めて重要だと思っています。留保分には2種類あります。
  • Contingency Reserves (=known unknows):起こるかもしれないリスクとして認識されている(=known)未知の(=unknown)事態。例えば、トンネル工事をしていると、思った以上に地盤が柔らかすぎて補強したりしながらでないとトンネルが掘れないことが発生することが知られており、この補強する分のコストがかさむ可能性があります。また、資材の高騰なども起こるかもしれないリスクであり、それへの備えもこれに含まれます。
  • Management Reserves(=unknown unknowns):起こることが認識されていない(=unknown)未知の事態。例えば、山崩れが起きて工事に手戻りが生じる。また、国際問題が発生して資材の調達先を変更しなければならないなどです。
 
 次の図がこれらの留保分を組み入れた予算構成です。

f:id:umesanx:20190213141504j:plain

 Contingency Reservesはそれぞれの作業に伴うリスクを考慮して積み上げるので、それぞれの作業の必要コストを積み上げたWork Package (=作業一覧) Control Estimatesに加えます。それらをControl Accountとして、コストのコントロールに努めます。それにMagagement Reservesを加えたものが予算となります。
 
 ここでポイントは、Contingency Reservesはリスクとして認識されているわけなので、なるべくリスクが顕在化しコスト増が発生しないように、努めなければならない(努めることができる)という点です。例えば、先のトンネルの例では、地質調査を多めにやって地質を詳細に把握し少しでもリスクを小さくしておくことが必要です。一方のManagement Reservesはそもそも何が起こるか分からないためのものなので、コントロールはできません。
 
 この2つの留保分の算出にあたっては、やはり過去からのデータの蓄積が重要です。Contingency reservesについては、個別のリスクごとにどの程度コストが上振れ下振れするのかを知っておく必要があります。Management Reservesについては、Contingency Reservesを除いたうえで、なお不確定な要素によりどの程度プロジェクト全体のコストが触れる可能性があるのかを見積もっておく必要があります。
 
4)Control Costs では、EVM(Earned Value Management)が有効です。こちらの詳細については、このページに詳しく掲載されているので、この手法が優れているなと私が感じている点のみ以下に述べます。

EVMで進ちょく管理も予測も実現 (1/2) - ITmedia エンタープライズ

 

 例えば、1kmの舗装を1億円かけて10か月で終えるプロジェクト。3か月経過した時点で、250m舗装が終わっており、それに3000万円かかっていたとします。すると、仮にかかった費用だけを見ていると、3か月で3000万円使っているので、予定通り進んでいるように思えます。ところが、出来高をみると、250mしか進んでいないので、当然プロジェクトは遅れているわけです。
 
 そして、EVMの考えを使って、この250mをコストに換算し、進捗状況をコストの尺度で表してみます。もともとの計画では、1m当たり10万円で完成させる予定だったわけなので、250mは2500万(=250m×10万/1m)に換算できます。予定では3か月経過時点では3000万円分完了しているはずだったので、先ほど算出した2500万との差であるー500万(=2500万円ー3000万円)は、500万円分だけ作業が遅れていることを示します。また、0.83(=2500万円÷3000万円)という数字は、もともと3000万円分完了する予定に対して、0.83(83%)の進捗率であるという事を表します。
 
 同じプロジェクトで数字を変えて、もう一例。完了した作業のコスト効率に焦点を当てます。1kmの舗装を1億円かけて10か月で終えるとプロジェクト。3か月経過した時点で、250m舗装が終わっており、それに2000万円かかっていたとします。作業が遅れていることは一目瞭然ですが、次の数字を用います。先ほど説明したように250mは2500万円分に相当しますが、実際には2000万円しかかかっていません。この差分である500万(=2500万円ー2000万円)は、500万円分コストが浮いていることを示しています。そして、1.25(=2500万円÷2000万円)は、当初よりも25%分、当初のコスト効率を上回っていることを示しています。説明を省きますが、このコスト効率という考えを使うと、作業完了時点でいくらかかることになるかも算出できます。
 
 この留保分とEVMを使って、うまくコストをコントロールしたいです。
 
参照:
Project Management Institute. (2017). A guide to the project management body of knowledge (PMBOK guide) (Sixth ed.). Newtown Square, Pennsylvania: Project Management Institute, Inc.
 
Schwalbe, K. (2015). Information technology project management (Eighth ed.)