最近の働き方改革を見ていて思うこと

 組織行動論や人的資源管理を学んだ視点から、最近の働き方改革を見ていて思うことをまとめてみました。
 
 なかなか文章がまとめられず、でも考えをまとめるためには、一度文章にしてみなければ、と書いてみました。皆様のお知恵(ご意見)を拝借できればとてもうれしいです。m(_ _)m
 

 
 さて、まず自分は働き方改革に賛成です。仕事も家族との時間も両方楽しみたいし、その方がもっと良いアイディアが生まれると思うからです。
 自分自身も会社で働き方改革に取り組んだこともあり、また、組織行動論や人的資源管理といったマネジメントについても少し勉強しました。その上で、最近の働き方改革に関する本や新聞記事、雑誌、ネットでの投稿を見ていると、働き方改革を進めるにはいろいろと工夫がいるだろうなぁと思っています。
 
1.手段と目的
 働き方改革は、どういう風に働くかということを変えていこうとするものなので、当然「手段」です。働き方を変えることは「目的」ではありません。働き方改革が「手段」である以上、それによって達成したい「目的」が必要です。その目的は会社によって違うでしょうし、目的が違えば、手段として行う働き方改革の中身も異なるはずです。
 どうも働き方改革を「目的」と捉えて取り組んでいる組織が多いように感じます。働き方改革によって実現したい「目的」が無ければ、例えば形だけフレックスタイムを導入したとしても、うまく機能しないでしょう。
 
2.共有できる目的
 働き方改革を進めなければならない理由として、今後日本でさらに進む人口減少により若手の従業員が獲得しづらくなるということや、中堅社員の多くに親の介護などが生じてくるといったことが挙げられることがあります。
 また、競争が激しくなってくる中で、人件費を削減するために残業を許容できないといったことも挙げられます。さらに価値観が多様化してきており、仕事一辺倒ではなく、個人のもしくは家族との時間を大切にする人が増えているからといったことも挙げられています。
 
 しかし、これらは、企業として社会に受け入れてもらえるような目的(つまり、社会に価値を提供するというような目的)ではないですし、経営陣と従業員の両方が納得できる目的ではありません
 例えば、ある経営陣は、働き方改革と称して、人件費削減のために残業ゼロを掲げ、「残業するな」と従業員に命令するかもしれません。しかし、従業員の立場からすれば、上司から命令されている仕事があるから残業をしなければならないわけですし、仕事のやり方も変えずにただ「残業するな」とだけ言われるのであれば、「まずは従業員の人数を増やしてくれ」と言いたいでしょう。
 一方、従業員の中のある個人にとっては、親の介護などはとても負担の大きいものですが、経営陣としては、それに対して働き方改革と称して、時短勤務等を実施することによる経営上の具体のメリットがなければ、形式的な対応しかしてくれないでしょう。
 
 よく取り上げられるGoogleなどの最先端のIT企業の働き方改革は、「多様性のある優秀な人材を集めることで、アイディアを生み出しやすくし、そこからどこよりも優れた新たなサービスを生み出そう」という目的が明確であり、社会も経営陣も従業員も共有できているからだと思います。
 補足:ちなみにGoogleのMissionは「Google 独自の検索エンジンによって世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすること」です。
 
 こういった目的は、企業の経営理念(Vision)や使命(Mission)と同一となることもあるでしょうし、もう少し働き方改革という手段をイメージしやすいようなかみ砕いた目的となることもあるでしょう。
 いずれにせよ、この目的が明確であれば、業務プロセスの見直しの際に、例えば経営理念や使命にそぐわない業務を無くしていこうと考えたり、また顧客にあまり価値を提供できていない業務を改善していこうとかという判断ができます。目的が明確でなければ、思い付きのような業務改善しか上がってこず、また大胆な業務プロセスの変更もできません。
 
3.経営陣の役割と従業員側の覚悟
 働き方改革においては、経営陣の役割が極めて大きいです。なぜなら、前述の通り、働き方改革という手段を実施するための目的を定めるのは経営陣だからです。まずは、経営陣がその会社の目的を明確にし、その目的に照らして、「働き方改革は絶対必要だ!働き方に改革によって得られる成果は大きい!」と確信を持てなければ、「働き方改革」は進みません。
 さらに、働き方改革は、組織文化を変えていく必要があります。組織文化とは、「こうすることが正しいもしくは悪いといったことを判断するための組織の誰もが意識している価値観」のことで、組織の経営陣の考え方がその会社の組織文化に強く反映されます。

組織行動論 メモ9 『組織文化』 - うめさんブログ

組織行動論 メモ10 『組織改革の阻害要因』 - うめさんブログ

  例えば、がむしゃらにやることがよいとされている社風なのか、新しいことにチャレンジしていくことが褒められる社風なのか、上意下達で一糸乱れないことに価値が置かれている社風なのか。

 このようにいろいろな企業文化がありますが、総じて日本の企業では「長時間働くことが美徳」とされているように感じます。確かに、高度経済成長期は「長く働けばそれだけ儲かった」でしょうし、どんな業務であれ長い時間をかければ「(多少は)成果が良くなる」でしょう。しかし、グローバリゼーションが進んでいる現在は、すでに状況が異なっておりそれだけでは競争相手に勝てないのですが、いまだに「長く働くことが美徳」と考えている経営陣は多いでしょう。
 働き方改革を進めることを決めたのであれば、組織文化を変えるために、経営陣は率先して、働き方改革の必要性と成果を自分の言葉で従業員に何度も説明し、自らの行動で示さなくてはなりません。

  

 一方、さらに、働き方改革を受け入れる側の従業員にも覚悟が求められます。それは働き方改革の目的は会社それぞれ異なりますが、共通して含んでいるのは「より質の高い成果」や「高い効率性」「斬新なアイディア」などを実現しようとするものです。
 ということは、長時間働くことでなんとか成果を上げ、また残業代という対価をもらうということに慣れている従業員にとっては、かなり辛いことになります。先ほど最先端のIT企業は「多様性のある優秀な人材を集め」ようとしていると言いましたが、多様性を担保することだけを目指しているわけではなく、あくまで優秀な人たちによる多様性の確保を望んでいると思われます。言い換えれば、優秀な人は働き方が自由になるが、優秀でない人材はいままでの泥臭い働き方を否定されることになるわけです。なんとなく働き方改革を怪しいと思っている人は、敏感にこの漠然とした不安を感じとっているのかもしれません。
 「働き方改革」を進めるにあたっては、こういった覚悟が求められることを説明するとともに、このような不安に対しても対応策を示さなければなりません。そのためには、前述の「目的」とともに、後述の「制度」と「IT」が必要です。
 
5.制度面での支え
 目的が明確化され、経営陣が率先して動き始め、従業員も頭では理解し始めたら、ようやく手段としての働き方改革が動き出します。業務プロセスの見直しなどはその業務に詳しい各部署が行うべきものですが、全部署をサポートする人事部などの役割が重要です。
 例えば、業務の見直しにより必要とされる仕事が変わったり、その仕事の遂行に必要な人数が変わったりしたら、配置変換が必要です。また、より効率の高い仕事をした人が報われるように報酬体系の変更も必要です。研修により、働き方改革の目的の浸透をサポートする必要もあります。
 そして最も重要なのが、明確化された「目的」を達成するために新たな制度を整え、適切に運用することです。そして、その制度が適切に利用してもらえるような環境を整えなければなりません。
 例えば、「時短勤務」を導入したのならば、導入の意図の周知、早く帰った人の業務をスムーズに引き継げるような仕組み、その業務を請け負った人の負荷が増大しないような仕組みが必要です。このためには、次で述べるITの活用が、ちょっとした省力化をすぐに感じられるよいツールであると思います。
 
 なお、個別の話になりますが、残業については、改善を行う前に、一度厳密に運用する必要があります。厳密にとは、部下本人の意思ではなく、上司からの命令であること。真に残業しなければならない業務であること。その業務をこなすのに最小限の時間のみ認めること。残業代はすべて支払うこと。制度運用を厳密にしないまま、ただ単に残業時間を記録し、その増減とにらめっこしていても、減らすことはできません。
 
6.ITの活用
 ITの進歩は素晴らしいものがあります。特に情報共有や情報の蓄積・検索については、ITのない生活や仕事は考えられません。
 個人的な話になりますが、私の職場は、行政であることから、ITによる効率化よりも、インターネットによる情報漏洩等の脅威に重きが置かれ、おそらくかなりIT化が進んでいない、むしろ何か安全対策のためのシステムが導入されると業務が煩雑になるという変わった職場であるように思います。また、それなりに業務処理能力の高い人がそろっているので、エクセルなどの既存のソフトウェアを駆使しつつ、力業で業務をこなせてしまっています。
 
 話を戻します。
 
 さて、ここまでの働き方改革に関する考察では、主に上から、つまり目的といったことから議論をスタートし徐々にやるべきことを決めていくべきというトップダウン型での改革の重要性を指摘してきました。
 が、実際には、ちょっとしたITの導入により現場の従業員が「あっ、なんか少し楽になったかも」と思えるような改善、つまりボトムアップ型の改革も同時にできた方が、働き方改革は早く進むように思います。根本的な解決のためには、業務プロセスの見直しは必須ですが、ちょっとした会議予約などがパソコンでできるようになるだけで、従業員の協力度合いはずっと違ってくると思います。
 
 今は多種多様なクラウドサービスや、グループウェアがどんどん生まれてきています。便利だと言われているサービスについて、試しに導入してみるといったことが必要です。単純にパソコンのスペックを上げるだけでも、業務は改善するでしょう。そのためには、社内のIT部門の地位向上と人員増、そして予算増が必要です。日々の運用に心を砕き、苦情処理に精神を削られ、セキュリティ対策で冷や汗ばかりをかいていただくだけでなく、業務の生産性向上やアイディア創出のためにどうITを活用するかにも知恵を絞っていただく必要があります。
 そして、導入に当たっては、人事部門と連携し、十分に活用してもらえるよう、ITの苦手な人(おもに中堅以上)へのサポートのための研修も十分に行う必要があります。例えば、スケジュール共有ソフトが導入されたのに、スケジュールの入力方法がわからないために、肝心の幹部の予定欄が空欄になっている、なんてことでは意味がありません。 
 
7.参考(働き方改革の背景にあるもの)
 ここまで働き方改革が叫ばれるのはなぜでしょうか?少子高齢化などの社会的な制約条件が大きくなってきたからでしょうか?働く人の意識が変わってきたからでしょうか?
 私は、「なんとなく今の働き方を続けていても先がないのではないか」と経営陣も従業員も思い始めたらからなのではないかと思います。そしてそれは、20世紀に成功した「20世紀型企業」から、21世紀に成功している「21世紀型企業」への変革を遂げようとしているのではないかと思っています。
ではでは。
 
参照: