ジョハリの窓とコーチング

 前回は、「人は対人関係の中でどのように気づきを得るのか」を示した『ジョハリの窓』を紹介しましたが、このモデルの考え方を用いると、「コーチングとは何か」も見えてきます。

 

※ジョハリの窓とは何かについては前回のブログをご参照ください。

ジョハリの窓 - うめさんブログ

 

 

1.(前回の復習)ジョハリの窓とは

 

 「ジョハリの窓」は、下図で示されるように、「人は対人関係の中でどのように気づきを得るのか」を示したものです。

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  1. 「開放」の領域は、自分も他人も、お互いに知っていることや見えていることです。
  2. 「盲点」の領域は、他人は知っているけど、自分は知らないという、自分にとって盲点となっていることです。
  3. 「秘密」の領域は、自分は知っているけど、他人は知らないという、自分が秘密にしていることです。
  4. 「未知」の領域は、自分も他人もお互いに知らないし気づいていないという、未知のことです。

 

2.ジョハリの窓とコーチング

 

 コーチングでは、コーチは、クライアント(相談者)の話を聴いたり、クライアントに質問をしたりして、気づきを与えることを目的としていますが、気づきを与えるとはどういうことかを「ジョハリの窓」で説明していきます。

 

※コーチングとは何かについてはこちらをご参照ください。

コーチングって何? - うめさんブログ

 

  前述の図における「自分」を「クライアント」(相談者/コーチングを受ける側)に、「他人」を「コーチ」(コーチングをする側)に置き換えてみると、以下の図となります。

 

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 「1.確認」の領域は、コーチもクライアントも両方知っていることなので、お互いに確認程度で十分です。

 これは、すでにクライアントとコーチがコーチングを何回かやった状態を想定していて、今までのコーチングの中でコーチがクライアント(相談者)からすでに聞いていたことを確認するという意味です。

 

 「2.ティーチング or 誘導」の領域は、クライアントは知らないけど、コーチは知っているということになります。そして、ティーチングとは、まさに学校の先生がやっているように、先生が知っていることを、何も知らない生徒に教えてあげるというものです。

 しかし、コーチングは、あくまでクライアント自身の中に答えがあると信じ、クライアント自身が気づくのを助けることを目的としていますので、このティーチングは行いません。

 また、ティーチングのように直接答えは言っていないものの、コーチがクライアントを誘導してしまう場合があります。

 

 例えば、企業経営者であるクライアントが「売り上げをあげるために、まず営業マンの人材育成をしたいのだが、何から始めたらよいか」と悩んでいるときに、次のようなやり取りがあったとします。(出典:目からウロコのコーチング 播磨早苗 一部改)

 

コーチ『会社の主役は誰だと思いますか?』

クライアント「今までは社長である自分だと思っていましたが、売り上げを上げるためにはやはり従業員なのではないかと思います。」

コーチ『従業員一人一人に自分自身が主役であると思ってもらいたいということですね。』

クライアント「そうです。」

コーチ『もし可能なら、従業員一人一人からどのような話を聞いてみたいですか?』

クライアント「彼らがやる気を出すように、目標を聞いてみたいです。」

 

 このやり取りの中には、「人材育成を何から始めたらよいか」というクライアントの悩みに対して、『従業員との個別面談』という解決策に落とし込みたいというコーチ自身の意図が見えてきます。

 

 これは、クライアントがなかなか解決策を思いつけず、コーチがなんとかクライアントの課題を解決してあげようと思うあまり、おもわず誘導してしまったというものです。

 

 このティーチングや誘導がなぜコーチングにおいていけないかと言うと、その理由は2つあります。

  • 1つ目は、コーチの知っていることが限界となってしまうからです。当然当事者としてコーチよりも良く状況を分かっているクライアントの方が、より良い案を出せる可能性があるわけですが、それをつぶしてしまうことになります。
  • 2つ目は、しょせん人から言われた解決策は、自分で思いついた解決策に比べて、やる気が起こらないし、続かないからです。自分自身でこれがいいと思って自ら始めたことはやり遂げられる可能性がずっと高いのです。

 

 「3.信頼関係構築 or 情報収集」の領域は、クライアントは知っているけど、コーチは知らないことです。

 

 コーチングでは、コーチはまずはクライアントの話をしっかり聴くことからはじめます。クライアントのペースに合わせて、話をそのまま聴き、クライアントの存在ややってきたこと、考えていることを認め、質問をはさみながら、クライアントの話を広げ、具体的に掘り下げていきます。

 

 ここで、クライアント自身が話したいことをコーチが聴いているのであれば、クライアントは「あぁ、この人は私の話をちゃんと聞いてくれている。」「私のことを認めてくれている」となり、信頼関係の構築につながります。

 ところが、コーチが知りたいために根掘り葉掘り聞くということになると、コーチのために情報収集を行っていることになってしまいます。初回のコーチングではある程度やむを得ないですし、またクライアントの問題を解決するには最低限クライアントの置かれている状況などを知らなければなりません。

 

 しかし、クライアントの問題を解決しようとするあまり、コーチがいろいろと質問したりしてしまうことがあります。このコーチの視点からの情報収集の度が過ぎると、クライアント側は自分にはわかりきっていることを説明することとなり、クライアントにとっては、得るものがありません。

 

 コーチングはクライアントのためのものであり、コーチのためのものではありません。コーチのための会話にならないよう気を付ける必要があります。

 

 さて、いよいよ「4.コーチング」の領域です。この領域は、クライアントもコーチも知らなかった、もしくは気づかなかったことであり、その名の通り「コーチング」が対話の中で目指したい領域です。

 

 コーチは必ずしもクライアントと同じ領域の専門家であるわけではありませんが、気づきを与えることの専門家です。コーチングに来るクライアントは、自らの頭の中で悩み事について何度も何度も考えてきたわけです。それでも悩みが解消しないのは、同じところをぐるぐると回ってしまっているからです。

 そこで、コーチは、視点を変えるべく、いろいろな質問を投げかけていきます。

  • あえて制約条件を追加してみて「もし今よりも時間が無かったら何をやりますか?」
  • 時間軸を変えて「3年後の自分が今の自分をみたらなんと言うと思いますか?」
  • 人を変えて「もし自分の尊敬する人だったらこんな時どうすると思いますか?」
  • 原点に立ち返って「そもそもどうありたかったのでしたか?」などなど。

 

 このような視点を変える質問をしていきながら、クライアントの視野を広げ、クライアント自身中にあったのに気づいていなかったことを気づかせたり、今までとは違う解決策を思いつく手伝いをするための対話がコーチングです。そして、クライアントが発見した未知の解決策の実行を具体化し、クライアントを励まし、その行動を後押ししていくのです。

 コーチもクライアントも知らない未知の発見、こんな楽しいことはありません。

 

参考:

銀座コーチングスクール クラスAテキスト

目からウロコのコーチング 著:播磨早苗