ジョハリの窓

 皆さんも「ジョハリの窓」と言われる図をどこかで見たことがあるかもしれません。このモデルの考え方は、チーム内での学びやチームワーク向上に生かすことができます。

 

1.ジョハリの窓とは

 「ジョハリの窓」は、下図で示されるように、「人は他人との関係の中でどのように気づきを得るのか」を示したものです。

 

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 このモデルは、正式には「対人関係における気づきの図式モデル(A graphic model of awareness in interpersonal relations)」と言いますが、1950年代後半に、大学院生だったジョセフ・ラフトと精神科医だったハリー・インガムが考案したもので、この二人の名前をとって(ジョー+ハリー)、「ジョハリの窓」と呼ばれています。

 

  • 「1.開放」の領域は、自分も他人も、お互いに知っていることや見えていることです。
  • 「2.盲点」の領域は、他人は知っているけど、自分は知らないという、自分にとって盲点となっていることです。
  • 「3.秘密」の領域は、自分は知っているけど、他人は知らないという、自分が秘密にしていることです。
  • 「4.未知」の領域は、自分も他人もお互いに知らないし気づいていないという、未知のことです。

 

2.このモデルの目的

  このモデルは、もともと人が対人関係の中で自分自身のことをどのように学んでいくのかを説明するために作られた理論です。

 

 そして、学びとは、自分が今までしらなかったことを知ること(=「1.解放」の領域が右方向に広がっていくこと)、逆の言い方をすると、自分が知らない領域が狭まっていく(=「2.盲点」の領域が小さくなっていくこと)です。

 ここでのポイントは、「1.解放」も「2.盲点」も「他人が知っている」ということです。つまり、他人からフィードバックをもらうことで、自分が知らなかった自分の姿が見えるようになるのです。

 

 例えば、課長である自分は部下に優しく接しているつもりだったのに、ある時部下から「課長は言い方が冷たいです」と指摘されてしまうといったことです。

 

 「学び」を得るためには、人からフィードバックをもらえるようにしておくことと、そのフィードバックを受け入れることが必要です。

 

 先の例の課長は、部下が課長に対して指摘をしやすい環境を作れていたという点で素晴らしいですし、この部下からの指摘、つまりフィードバックを受け入れることができれば、自分を変えることができ、この部下との関係は良好なものとなっていくでしょう。

 

 さらにここで部下に焦点を当てると、部下は部下自身は気づいていたけど、課長に今まで言えなかった、「(課長は)言い方が冷たいです」ということを意を決して言っています。

 これは、部下にとって、部下(自分)は知っているけど課長(他人)は知らないという「3.秘密」の領域に該当していたことを、「1.解放」の領域に持ってきて、部下(自分)も課長(他人)も共有したということになります。

 

 以上の流れをまとめると、他人が今まで自分について知っていた秘密を開放してフィードバックしてくれるから、自分は自分が知らなかったことに気づけ、成長できるのです。

 

 

3.チーム内での学びやチームワーク向上に生かす

  人は誰もがいろいろなことを「認識」し、それに基づいて行動していますが、この「認識」という行為には、誰もが逃れられない『Bias(傾向、偏り、偏見)』が生じます。

組織行動論 メモ2 『誰もが正しく認識できていない可能性がある』 - うめさんブログ

 

 ジョハリの窓のモデルの考え方に基づくと、お互いに気づきを与える人間関係を築くことにより、このお互いに持っている偏見や誤解を解くことができるようになります。

 

 そして、その始まりは、自己開示です。ジョハリの窓に沿っていえば、「1.解放」の領域を広げ、「3.秘密」の領域を狭めることになります。

 

 自己開示と言うと、自分が心の中に抱えている大きな秘密を人に話すというような深刻なイメージを持たれるかもしれませんが、別の言い方をすれば、いわば自己紹介です。

 例えば、「私は愛知県出身なんですよ」と言うことを相手に伝えたら、「えっ、そうなんですか。僕は隣の静岡県出身なんですよ。」となって、話が盛り上がり、少しお互いのことが分かるようになるかもしれません。

 

 以前は、この自己開示は、うまく呑み会の場を使って行われていたように思います。少しお酒の力も借りつつ、ちょっと自分のことを話してみる、気になっていたことを相手に伝えてみる。

 例えば、上司は、仕事に対する自分の考えをエピソードを交えて語ってみる。それにより部下は、上司の指示の背景にある上司の意図が少し分かるようになる。

 逆に、上司は、部下の興味や関心のあることを聞いて、部下がどう考えどういったことがやりたいのかが少し分かるようになる。

 

 ただ、最近は、この「飲みニケーション」には抵抗がある人もいるでしょう。代わりに、私は、チームのメンバーが代わる度に、業務時間内に時間をとって、自己紹介ミーティングをやることにしています。(もちろん、今の会社は飲むのが好きな人が多いので、出欠自由の呑み会もやりますが。)

 

 自己紹介でどこまでしゃべるかはもちろん強要せず、また、まずは上司である自分から話します。自分は仕事の話もプライベートの話もしますが、その時に、今までかかわった仕事や、出身地や趣味など質問がでやすい情報を入れたりします。

 次に、前からチームにいたメンバーが順に自己紹介をし、最後に新しくきたメンバーに自己紹介をしてもらいます。

 よく新しく来たメンバーだけが自己紹介をすることがありますが、これでは今までいたメンバーだけが新しいメンバーの情報を得ることとなるので、一方通行となってしまいます。

 この自己紹介ミーティングですが、一人3分ほどで自己紹介するとすると、10人いても30分で終わります。時間通り終わっても良いですし、結構盛り上がるので、盛り上がったら少し延長しても良いかもしれません。

 

 ちなみに、この自己紹介ミーティングは、チームが機能するまでのステップにおける、最初の段階である「形成期」を素早く通り抜けるという意味も持っています。

組織行動論 メモ6 『チームが機能するまでの各段階』 - うめさんブログ

 

 ジョハリの窓を活用して、チーム内での学びやチームワーク向上させていきたいです。

 
参考:
McShane, Steven Lattimore (2015). Organizational Behavior: Emerging Knowledge, Global Reality, 7th edition.
「組織開発の探究」著:中原淳、中村和彦