経験を活かそう

 同じような経験をさせてきたはずなのに、伸びる部下と伸びない部下がいる。
 そんな時、上司であるあなたはどうしますか?

 

1.伸びる部下と伸び悩む部下
 自分が初めて管理職になったとき、やらなければならない仕事の一つに「人材育成」という項目が加わりました。
 それではということで、いろいろと経験をさせるべく様々な仕事をやってもらいました。
 ところが、1年経って振り返ってみた時に、『この優秀な部下は自分がいなくても成長したのではないか』と思う一方で、『この部下は確かに成長したけれど、もっと成長させることができたのではないか?』とも思いました。

 その違いはどこにあったのでしょうか。

 

2-1.経験学習サイクル
 「人は経験から学ぶ」ということは、誰もが経験的に!?分かっていると思いますが、そのプロセスを明らかにしたのが、デイビッド・コルブが提唱した「経験学習サイクル」(下図)です。

  

f:id:umesanx:20200517185556j:plain

 

↓関連する過去のブログ

人は経験から学ぶのではない - うめさんブログ

 

 まず仕事の中で実際に①経験してみる。
 そして、経験した出来事や事実について、様々な視点から成功や失敗の原因を②振り返る
 次に、振り返りから明らかになった今後の仕事においても適用可能な③教訓を引き出す
 最後に、その教訓を別の仕事の場において④試してみることで、また新たな気づきが得られるという①のサイクルへとつながっていきます。

 

2-2.例:スーパーの店員
 このサイクルの例を挙げましょう。

 

 あるスーパーでお弁当の仕入れを担当しているAさん。

 たくさんのお客さんが来てくれたのに弁当が足りなかったり、逆に大量の弁当を仕入れたのにお客さんが少なく大幅に余ってしまったりというミスをしていました。(①経験)

 そこで、発注ミスの原因を探ってみたら、弁当が足りなくなったのはスーパーの近くで運動会が行われていた時であったことや、前週の販売個数のみをたよりに発注していたこと、などに気づきました。(②振り返り)

 このことからAさんは、「前週の販売個数だけでなく、スーパーの近くでお弁当が必要とされるようなイベントが行われる日を事前に把握しなければならない」という教訓を得ました。(③教訓を引き出す)

 それから少したって、近くの中学校で学芸会が行われることを把握したAさんは、昨年の販売個数を参考にいつもの倍の弁当を仕入れたところ、大幅な売れ残りも欠品も発生しませんでした。(④試してみる)

 

3.経験学習サイクルのポイント

 以上の経験学習サイクルにおいてのポイントは2つあります。

  1. 仕事経験だけでは人は成長しないこと(振り返ることが重要)
  2. 能力やスキルを受動的に学ぶのではなく、自らの力で仕事に役立つ持論(つまり教訓)を引き出す必要があること

 

 サッカーの試合が終わったあとのインタビューで、サッカー選手が
 『いくつか自分なりに考えていたことが有効であったということも分かりましたし、次の試合に向けての課題も見つかりました。』
 というようなコメントをしているのを見たことがあります。

 

 これこそ「振り返り」であり「教訓の引き出し」と言えるでしょう。

 

4.上司は何ができるか

 経験したのに成長できないのは、このサイクルがどこかで切れるからです。
 ①から②の間が切れてしまったり、②から③、もしくは③から④が切れたりというふうにです。

 

 そこで、このサイクルを回すようにサポートしてあげるのが上司の役割ですが、まず①から②へのつながりをサポートする、つまり「振り返りを促す」ということをやって頂きたいです。

 なぜなら、成長できない部下は、この振り返りが自分ではできていないことが多いからです。

 

 営業の日報や週報のように何か様式を作ってあげても良いですし、月曜などに行う週一回のミーティングの中で先週の業務からの気づきを聞いても良いですし、1対1で話をしても良いでしょう。

 

 上司の側から振り返りの場を作り、どうやって振り返っていったらよいのかという具体のやり方をサポートしてあげる必要があります。

 

 そしてポイントは、先ほどのサッカー選手のコメントにあったように、悪い点(失敗事例)だけを振り返るのではなく、良かった点(成功事例)も振り返ることです。


 振り返りと言うと「反省」という言葉があるように、悪い点ばかりを責めることになりがちです。

 しかし、良かった点を振り返ることで、部下にとっては、成功の再現性を高めると言うことに加え、自信をつける前向きな気持ちで振り返り方を学ぶことができるという利点があります。

 一方の、上司にとっても、悪い点ばかりを聞くよりも、良かった点を聞く方が簡単です。

 悪い点を振り返るのは、ともすると詰問口調になってしまったり、一方的に怒るだけになってしまったり、アドバイスをしてしまったりと、部下自身で気づくということを阻害しがちだからです。

 

 『考える労力を惜しむと、前に進むことを止めてしまうことになります。』

 と、かのイチロー選手も言っていました。

 

 良かった点の振り返りをすることから、部下自身が考えることをサポートしてみてはいかがでしょうか?

 


参考:
上林憲雄、厨子直之、森田雅也, 2018.1, 経験から学ぶ人的資源管理, 有斐閣ブックス
松尾睦、2019.10, 部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ, ダイヤモンド社
イチローの名言・格言https://iyashitour.com/archives/19139/2