Training & Development その2 効果的な研修を作るための手順

 前回は、人材育成とは何か、人材育成を支える3つの柱について書きました。

Training & Development その1 人材育成とは - うめさんブログ

 今回は、その柱の一つである研修について、効果的な研修を作るための手順を紹介します。
 
 「さぁ、人材育成のために研修をやるぞ」となると、真っ先に「誰に何を教えるか」を検討し始めてしまいますが、ちゃんと研修を作るための手順があります。もちろん「誰に何を教えるか」もその中に含まれていますが、研修をやることが目的ではないですよね。ちゃんと研修で学んだことが身について、仕事ができるようになり、それが会社の目的(業績アップ等)に結びつかなくてはなりません
 
 今回紹介するのは、Instructional System Design (ISD)という、効果的な研修を作るための手順です。
 

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 図のように、7つのステップを踏んで、研修を構築していきます。繰り返しになりますが、「ちゃんと研修で学んだことが身について、仕事ができるようになり、それが会社の目的(業績アップ等)に結びつく」ようにするためです。一つ一つの手順は後ほど説明しますが、この手順を踏むことが効果的であると考えるのは、以下の仮定に基づくからです。

 
  1. 研修を受けた人が、研修が意図したゴールや目的を達成した場合のみ、その研修が効果的であったと言える。
  2. 研修を始める前に、計測可能な研修の目的を定めておかなければならない。
  3. 研修方法の検討や選定、研修内容の把握、研修の改善点の提案のためには、評価プロセスが重要である。
 
 特に、1や2はよくよく考えておかなければなりません。研修によりちゃんと知識やスキルが身につかなければなりませんし、何をもって身につけたといえるのかを判断するのかを定めておかなければ、研修が効果的であったのかどうかわかりません。せっかく日々の仕事を一時お休みして、お金と時間をかけて研修を行ったのに、効果がなかったなんてことになっては目も当てられません。
 
 では、そのようなことがないよう、効果的な研修を作るための手順を見ていきましょう。
 
1.Conducting Needs Assessment
 研修の必要性を検討します。
 今後の会社の成長に必要なスキルは何か、今の従業員に足りない知識は何か、誰に研修を受けさせたら良いか、どの仕事が重要でその仕事をするために必要なスキルは何か、などを明らかにします。
 
2.Ensuring Employees' Readiness for Training
 研修を受ける人が、研修を受ける準備が整っているかどうか、整っていなければ整えるにはどうするかを検討します。
 例えば、簿記(上級)の研修を受ける研修員が、今まで簿記を全く習ったことのない初心者では、しょうがないでしょう。研修を効果的にするために、ここまで(例えば、簿記(中級))は身につけておけるよう事前学習を促すこともありえます。また、研修に意欲的に取り組めるようにするための方策もここで検討します。
 
3.Creating a Learning Environment
 学ぶための「環境」を整えます。研修内容の検討も当然含まれますが、「環境」とはもっと広い意味があります。目的の明確化や、練習問題の提供、フィードバック、研修員同士で会話ができる場の構築なども含まれます。
 
4.Ensuring Transfer of Training
 研修が実際の仕事に活かせるようにするにはどうするか検討します。
 私自身はここが最も重要だと考えています。例えば、研修で学んだことがイントラで復習できるようにする。上司が研修で学んだ知識を使う仕事を提供してあげる等です。
 私の経験ではこんなことがありました。研修に派遣するにあたっては必ず上司の許可をとるわけですが、その時点から上司は、研修に派遣した部下が研修から戻ってきたら、学んだことを仕事で生かす場をどうつくってあげるかを考えておかなければなりません。なぜなら、使わない知識やスキルは忘れ去られてしまうからです。ところが、研修内容が担当している仕事と全く関連のない部下を派遣しようとしたり、研修の内容を全く把握していなかったりすることがあります。そういう方に限って、「研修なんかなんの意味もない」「忙しいから研修なんかに出してられるか」と言うことが多かったような気がします。
 
5.Developing an Evaluation Plan
 研修の成果を評価する方法を検討します。
 
6.Selecting Training Method
 研修に用いる手法を検討します。
 例えば、伝統的な研修方法としては、教室に数十人集めて講義をするという方法があります。最近では、インターネットで学ぶ、e-ラーニングもたくさん使われています。学ぶ内容や研修を受ける人の状況や人数に応じて、効果的な方法を選択します。
 
7.Monitoring and Evaluating the Program
 研修が終わったら、実際に研修の内容を評価し、改善点があれば次の研修に反映します。
 
 これだけのステップを踏めば、確かに効果的な研修が作れそうですが、このInstructional System Design(ISD)と呼ばれる手順は、現実的な側面からみると、以下のような欠点があります。
  • 実際に企業で行われる研修の検討プロセスでは、ISDのような丁寧で、順序だったものとなることはなく、もっと簡略化して行われている。
  • あまりにもコストと時間がかかる。
  • 最終ステップが評価となっているが、実際には各ステップの中でも評価をし、それをフィードバックする方がより良い研修を構築することができる。
 
 確かにこのISDの手順に示されているステップを一つ一つやっている余裕はないかもしれません。しかしながら、研修方法のみ(ステップ3.の一部)に注力するあまり、研修の目的を深く考えなかったり、研修員に事前準備の機会をつくってやらなかったり、さらに研修後のフォローもしないということが往々にして起こるということの反省として、この手順があります。
 
 すべてのステップを全力でやる必要はなく、必要に応じて濃淡をつければよいと思いますが、どのステップも飛ばさないようにはした方が良いでしょう。
 また、既存の研修を見直す時に、何を学ばせるかに意識がいってしまい、研修の中の一講座を入れ替えるのみということをしてしまいがちですが、改めてこのすべてのステップを振り返り、ちゃんと研修で学んだことを職場で活用する機会が設けられているか(ステップ6.)などもチェックすると良いでしょう。
 
 せっかくの研修、意義のあるものにしたいですね。
 
出典:
Noe, R. A. (2017). Employee training and development (Seventh ed.). New York, NY: McGraw-Hill Education.