読書メモ 「ファシリテーションの教科書」(第1回)

ファシリテーションは準備が命

 

 今回紹介する本は、「ファシリテーションの教科書」(著:グロービス 執筆:吉田素文 出版:東洋経済新報社)です。

 とても学びが多かったので、今回から複数回にわたって、この本を紹介します。

 

 本書は、「ファシリテーションの教科書」と題しているだけあり、非常に体系的かつ要点を押さえて学べます。個人的には、ストーリー仕立てでの具体的な失敗事例が非常にリアルで、この状況をファシリテーションでどう解決できるのだろうと、興味を持って読み進められました。また、当初読んだときは、当たり前に感じる部分もありましたが、実際に自分でファシリテーターをやってみると、当たり前のことができない。実践しつつ読み進めると、学びが大きいように思います。是非、書籍もお読みください。

 

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 第1回目は、「ファシリテーションは準備が命

 ファシリテーションは、「仕込み」と「さばき」が肝心ですが、まずは本番前にファシリテーターが行うべき仕込み、つまり準備について紹介します。

 

1.ファシリテーションって何?

 「ファシリテーション」とは、私なりの言葉で言うと「会議において議論を活発にし、会議後の行動につなげるための、コミュニケーションスキル」です。

 

 会議と言うと、子供の頃の「学級会」や、会社での「役員会」などいろいろありますが、どんな会議でしたでしょうか?

 「学級会」で、全く意見が出ない、意見が出始めたと思ったらみんなが好き勝手なことを言ってまとまらない、なんとか学級委員がまとめようとすると「勝手に決めるな」と言われ、はたまた決まった後から文句を言うやつが現れる。

 「役員会」では、とにかくシャンシャンに終わりがちで、進行役はひたすら時間通りに議事を進めることだけが心配で、役員どうしの意見交換ではなく役員の意見に事務局が答える形となり、最後は一番偉い人の意見で決まる。

 

 「学級会」や「役員会」はそれほど頻度が多くないかもしれませんが、日々の「打ち合わせ」も会議と言えるでしょう。

 「打ち合わせ」でも、なんの打ち合わせなのか分からない、だんだん議題からずれていく、長い時間打ち合わせたのに何も進捗がないし決まらない、もしくは決まったのに会議後何の動きもない、なんてことがあります。

 

 ファシリテーションを学ぶと、こういった失敗を無くすことができるのですが、私にとっては、この日々の打ち合わせ、特に自分のチーム内でのアイディア出しの打ち合わせ、それに続く上司陣と私の意思決定のための打ち合わせ、そして、その打ち合わせを踏まえて確実な行動の促しに、非常に生かせるのではないかと思いました。

 

 さて、この本によると、ファシリテーションとは、以下の目的を達成するための、コミュニケーションスキルです。

  • 会議の参加者や関係者の知恵を引き出す(=衆知を集める)
  • やる気を引き出し(=モチベーションを高め)て、行動を促す

  • 深い納得に裏付けられた合意を実現する

さらに、

  • 部下の能力を高める

こともできます。

 

 もしファシリテーションによってこれらの目的が果たせるならば、先述の失敗談のようなことはなくなるでしょう。

 また、ファシリテーションはコミュニケーションスキルですが、これらの目的はまさにリーダー(管理職)が果すべき役割でもあります。

 

 そして、これらの目的の先にあるのは、「考える組織をつくる」ことにあります。

 なぜなら、顧客の多様化と変化が速い中、市場の機会を素早くとらえて、それぞれの現場で勝率を上げ続ける必要があるからです。

 

 そのためには考える組織であることが必要です。

 そして、考えることができない組織では、上も下もこんな不満が漏れ出します。

経営陣「言われたことはしっかりやるが、自分で考えない指示待ち社員が多い!」

社員「上が何を考えているか分からない。過去の成功体験にとらわれて考え方を変えようとしないのではないか?」

 

 ファシリテーションにより、知恵とやる気を引き出し、納得して行動できるようにすることが求められています。

 

2.「仕込み」と「さばき」

 ファシリテーションとは、先述の目的を達成するためのコミュニケーションスキルですが、具体的には「仕込み」と「さばき」という2つのスキルがあります。

 

  • 仕込み」とは、「到達点に向け、議論すべき論点を押さえ、あるべき議論の姿を設計する」ためのスキルで、主に会議の前に行う準備の段階で用います。
  • さばき」とは、「参加者の発言を引き出し、理解・共有し、議論を方向づけ、結論付ける」ためのスキルで、主に会議の場において用います。

 

 今回は、この「仕込み」の部分を取り上げます。

 

3.「仕込み」の全体像

 下の図は「仕込み」の全体像をしめしたものですが、「仕込み」においてやらなければならないことをお話しする前に、まずは合意形成のステップを紹介します。 

 

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 上図の通り、合意形成は以下の4つのステップで進んでいきます。

  1. 場の目的の共有・合意:何の話をなぜここでするのか?
  2. アクションの理由の共有・合意:なぜそうする?
  3. アクションの選択・合意:どうする?
  4. 実行プラン・コミットの確認・共有:どうやってやる?

 

 この合意形成のステップを踏まえたうえで、「仕込み」においてやるべきことは以下の3つです。

  1. 議論の「出発点」と「到達点」を明確にする。
  2. 参加者の状況を把握する。
  3. 議論すべき論点を広く洗い出し、絞り、深める。

  

3-1.議論の「出発点」と「到達点」を明確にする

 まず、やるべきことの1つ目について。

 合意形成は、一度の会議でできてしまうこともありますが、多くの場合、何度も会議を重ねていくことになります。

 すると、この『「出発点」と「到達点」を明確にする』というのは、一連の会議全体としての出発点と到達点を明らかにするとともに、それぞれの会議においても、合意形成の4ステップを踏まえて、出発点と到達点を明らかにする必要があります。

 

 たとえば、第1回目の会議であれば、まずは、第1ステップの場の目的の共有・合意をしなければなりません。

 しかし、もし参加者全員にとって、場の目的が自明であり、共有・合意できているのであれば、この第1ステップは簡単な確認程度にして、次の第2ステップに進むこととし、第1回目の会議の到達点を、第2ステップを完結させるところに位置付けても良いでしょう。

 また、第2回目の会議であれば、再度第1ステップから行う必要はなく、第3ステップを出発点として、第4ステップまで進むことを到達点としてもよいでしょう。

 

 よくある失敗としては、もっと前の段階に「出発点」を置くべきなのに、「ここまではわかっているはず」と考えて、本来議論・合意すべきことを飛ばして先の議論を始めてしまうことです。

 

 特に、会議を開催しようと思っている人や議題の発案者は、会議以前からそのことをずっと考えており、勉強もしており、早く解決したいと考えているので、ほとんどの参加者がまだその議題について問題意識すら感じていない状況で、いきなり「解決策と実行プラン」を議論し始めてしまうことがあります。

  そうすると、参加者から、「なぜそんなことをやる必要があるのか、そもそも分からない」とか「独善的に結論を押し付けようとしている」といった声が上がり、提案内容の良し悪しとは関係なく、反発を招くこととなります。

 

 ですから、自分が想定しているより少し前のステップを出発点に設定するとよいでしょう。

 

 また、「到達点」を明確にする必要があります。

 明確にするとは、「その議論がおわった時点で、参加者がどのような状態になっているれば良いのか」を考えることです。

  これを考えることで、議論に必要な参加者や、議論に必要な時間、納得するための「間(ま)」を見積もることができ、議論に確保できる時間と比較し、どのように議論を進めて行けば良いかを判断することができるようになります。

 

 この「出発点」と「到達点」の設定に当たっては、

「いきなりこの話を始めて参加者に違和感はないか?」「この議論が終わったときに、何が、どのようになっていることが必要か?」

の2つの問いを何度も自問すると良いでしょう。

  

3-2.参加者の状況を把握する

 次に、やるべきことの2つ目について。

 参加者の状況を把握するとは、以下の3つのことを把握することです。

  • 認識レベル:議論するテーマについて、何を知っていて、何を知らないのか?
  • 意見・態度:どこに賛成・反対しているのか? なぜ賛成・反対なのか?
  • 思考・行動の特性:議論に貢献してくれるか、邪魔するか? 参加者同士の関係は?

 

 ここで私が注目したいのは、「認識レベル」を把握することです。

 会議に先立ち、参加者がどんな反応をするかを想定したりするとき、つい2つ目の「意見・態度」である、参加者が賛成なのか反対なのかに関心がいってしまいます。

 しかし、反対の理由が、「よく知らないから」「そもそもの必要性がよく分かっていないから」「そんな重要なことなら上司の判断を仰がないといけないから」「自分が関係しているとは思っておらず途中まで聞いていなかったから」など、認識レベルに起因することが多くあります。

 

 ですから、認識レベルをそろえるために、以下のことをまずちゃんと説明し、共有することが必要です。

  • テーマ・議題の内容
  • 議題の目的
  • 議題の背景
  • 議題の重要性
  • 議題に関する一般的な知識・経験
  • 議題に関する具体的な事例などの情報・状況イメージ

 

4.私の事例

  さて、ちょうどこのファシリテーションを学ぼうと思った矢先に、残業をどう減らしたらよいか検討するように、との指示が私にあったため、チーム内で毎週1回(合計4回)、残業問題について議論する機会を得ました。

 色々と試行錯誤しつつ進めてみましたので、ここまで説明した「仕込み」の一部分について、私が最近経験したこの事例でお話ししたいと思います。

 

 まず、このテーマは私にとっては関心の高いテーマである※ため、「いきなりこの話を始めて参加者に違和感はないか?」という点と、「自分の意見を押し付けようとしていないか?」という点を大切にして、準備を進めることにしました。

  ※最近の働き方改革を見ていて思うこと - うめさんブログ

   読書メモ 「残業学」 中原淳+パーソル総合研究所 - うめさんブログ

  

 まず、会議をやろうとチームに声がけする前に、認識レベルをそろえるための各項目を簡単な文章にしていきました。

 つまり、何を議論するのかという「テーマ・議題の内容」、なぜ働き方を議論する必要があるのかという「議論の目的」、「議論の背景」となる残業時間等のデータ、「議題の重要性」となる残業による疾病等、「議題に関する一般的な知識」としての労働基準法の改正内容など。

 

 特に議論の目的については、「残業を減らす」ではなく、「これからの働き方を考える」としました。なぜなら、残業を減らすことは手段であって、目的ではないからです。また、残業削減は少し食傷気味であまり楽しい話ではないので、未来のワクワクした話ができる「これからの働き方」というキーワードを持ってくることにしました。

 「これからの働き方」自体も手段なわけですが、いきなり「我々は何をすべきか?」から議論を始めると、議論が発散していく可能性があったので、この部分は以下の第2回会議の「理想の働き方」の中で「どんな仕事をしたいか?」という問いで触れることにしました。

 

 次に、合意形成の4つのステップを踏まえ、各会議における「出発点」と「到達点」を明確にしました。

 例えば、

 第1回:現状把握

 第2回:理想の働き方

 第3回:原因分析

 (→ここまでで一旦幹部に報告し、議論し、認識をすり合わせる)

 第4回:解決策の立案

 (→再度幹部に報告し、議論し、実行プランを担保)

 

 さらに、それぞれの会議においてメンバーと議論したいことを事前に質問の形で投げかけておきました。

 

例えば、、、

現状把握

  • 残業が多かった月を振り返って、どんな業務をしていたか?
  • 今どんな働き方をしているか?

理想の働き方

  • どんな仕事をしたいか?
  • どんな働き方をしたいか?

などです。

 

 こういった準備をして臨みましたが、やはりまだまだ私のファシリテーションスキルがいまいちで、何度か戻ったりしながら進めました。

 

 例えば、最初はなかなか議論が活発にならなかったので、第2回目の冒頭に改めて認識のすり合わせを行いました。

具体的には、残業を減らすことについて、以下の4つを聴いてみました。

  1. やるべきか?
  2. やりたいか?
  3. できると思うか?
  4. 理解しているか?

 複数回答可として手をあげてもらうことで、いろいろと認識の差があることが分かりました。

 例えば、「やるべきか?」についてはほとんどが賛成なのに対して、「できると思うか?」についてはほとんどのメンバーが否定的で、この部分をどう担保してやるかを念頭に置いて、原因分析や解決策の立案を進めなければいけないなと感じました。

 

 なお、認識をすり合わせるとは、認識を一緒にするということではないと、私は考えています。つまり、『私もあなたと同じように思います』ということではなく、『私は、あなたが言っていることが理解できます』ということだと思います。

 

 次回は、「仕込み」においてやるべきである「3.議論すべき論点を広く洗い出し、絞り、深める」について、紹介したいと思います。

 

 

おまけ

 この「ファシリテーション」を学んでいて、「クリティカルシンキング」や「コーチング」に通ずるものが非常に多いなと思いました。

 

 例えば、『ファシリテーターには、「問題解決」「構造的な話の理解」ができる思考力、そして「人の可能性を信じ、意欲、能力、知恵を引き出す」という基本姿勢が不可欠』とありましたが、この前半部分はまさに「クリティカルシンキング」であり、後半部分はまさに「コーチング」でした。

 

 さらに、この本において、『会議がうまくいかないという問題の本質は、「伝え、説得し、動かす」ことを主眼としたコミュニケーションスタイルに起因しており、これを「引き出し、決めさせ、自ら動くことを助ける」というスタイルに転換することが必要であり、それこそが「ファシリテーションの本質」なのです』(※文章のつながりを分かりやすくするため一部改)と述べてありましたが、まさに「コーチング」が目指すコミュニケーションのやり方です。

 

 (少し話がずれますが)私の経験上、著しく会議の自由度や意義を損ねているのは、「もうこの案で通すしかない」という、「伝え、説得し、動かす」というスタイルしかない側と、「俺の言う通りやれ」という、「引き出し、決めさせ、動くことを助ける」というスタイルを理解しない側とが相まって、非常に苦痛な場になってしまっていることにあると感じています。