読書メモ 「ファシリテーションの教科書」(第2回)

ファシリテーションは準備が命(つづき)

 

 ファシリテーションの2回目。今回は、会議で「原因分析」をする時に役立つやり方の紹介です。

 

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 前回は、会議の前に準備しておくべき「仕込み(=到達点に向け、議論すべき論点を押さえ、あるべき議論の姿を設計すること)」を取り上げ、

読書メモ 「ファシリテーションの教科書」(第1回) - うめさんブログ

下図の「合意形成の4つのステップ」と、「仕込みにおいてやるべき3つのこと」を紹介しました。

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仕込みにおいてやるべき3つのこと

  • 議論の「出発点」と「到達点」を明確にする。
  • 参加者の状況を把握する。
  • 議論すべき論点を広く洗い出し、絞り、深める。

 

 今回は、第2ステップの「アクションの理由の共有・合意」仕込みにおいてやるべきことの3つ目の「議論すべき論点を広く洗い出し、絞り、深める」を取り上げます。

 

1.原因分析ではいきなり「なぜ(Why)」から入ってはいけない

 

 この第2ステップは、言い換えれば「原因分析」を行います。

 原因分析と言うと、すぐに何が原因かという「Why」から考え始めてしまいがちですが、そのための仕込みとして、ファシリテーターは、会議の事前に、以下の手順を行っておきます。(事前に行う理由は2.で後述)

(注:この手順については、少し私が理解しやすいように変更を加えていますが、趣旨は図書の意図を保てているかと思います。)

  1. 論点の洗い出し:何を議論すべきかを明らかにする
  2. 問題意識の明確化(What):あるべき姿を明らかにする
  3. 問題個所の特定(Where):どこにどういう現象が生じているのかを明らかにする
  4. 真因の追及(Why):なぜそういう現象が生じているのかを明らかにする

 

 なぜ、いきなりWhyから検討し始めてはいけないかと言うと、議論が発散してしまうからです。

 

 例えば、「最近うちの会社で退職者が増えている」という問題があるとして、いきなりWhyから入ると、「仕事がつまらない」「上司との関係がうまくいかない」「給料に不満がある」「会社の先行きが不安」、、、とそれこそ限りなく原因の候補が出てきてしまいます

 そこで、「なぜ辞めるのか」というWhyの前に、どこにどういう現象が生じているのかというWhereを考え、「どんな人が辞めるのか」「どのような部署の人が辞めるのか」「どういったタイミングで辞めるのか」という傾向を明らかにしなければなりません。

 これによって、「技術系のベテラン社員が、管理職になった後に辞める傾向が続いている」「若手営業社員の退職が昨年から急激に増えている」という傾向が明らかになったとすると、同じ退職者が増えているという問題についても、相当原因は異なることがわかるでしょう。

 

 さらに言えば、退職者が増えていることが問題なのかかどうかということも、What、つまり問題意識の明確化(=あるべき姿)から考える必要があります。

 例えば、その会社の業務が、プロジェクトごとに必要な人員を内外から調達することを前提に成り立っているのであれば、人が辞めることは問題ではありません。一方、できるだけ長期的に働いてもらいたいというポリシーと人事制度の下で、退職者が増えているのであれば問題です。

 

 さて、順序が逆になってしまいましたが、「1.論点の洗い出し」においては、ファシリテーターは、広げる→絞り込む→深めるという手順を踏んでいくことが、事前に自分で考える際にも、実際の会議の場においても有効です。

 

 「広げる」とは、論点として思いつくものをとにかく列挙していくということです。考えられるものをもれなくダブリなくという(MECE)などのフレームワークを使っても良いでしょう。

 

 広げた後は、議論すべき論点に絞り込んでいきます。

 ここでは、議論すべきでない論点を除外するのはもちろんですが、議論すべき論点ではあるが、主張に対立がないことを「確認すべき論点」と今ある情報では議論ができないので今後議論することとする「置いておく論点」も明らかにしておきます。

 「みんな同じ意見だろう」と思い込んで確認しないでおくと、後で実は意見がバラバラだったとか、データが無いために架空の議論が延々とつづいてしまうということを避けることができます。

 

 「深める」とは、抽象度の高い大きな論点を具体化・細分化していくことです。ロジックツリーなどを用いても良いでしょう。

 

2.なぜ準備でここまでやるのか

 

 ここまで述べた原因分析の細かな手順を会議の事前に行うのは、相当な手間がかかります。「原因分析などは会議の場でみんなでわいわいやった方がいいのではないか」と思うかもしれません。

 確かに、会議の参加者であれば、その場でWhatやWhereやWhyを考えても良いでしょうが、議論を活発かつ有効なものにする使命を帯びているファシリテーターはそうはいきません。

 

 なぜなら、ファシリテーターは、会議の場において、実に多くのことを同時にこなさなければならないからです。

 例えば、参加者の発言を聴きながら、「今の発言は前の発言と議論がかみ合っているだろうか」「今の議論をこのまま続けるべきだろうか」「本当はもっと別の論点を議論すべきではないのか」を考えなくてはなりません。

 同時に、話をしている人以外の参加者の状態にも気を配らなければなりません。「他の参加者は今の話を理解しているのか」「意見を述べたそうにしている人はいないか」「この発言に対してどのように感じているのか」などです。

 

 ですから、原因分析の手順を事前に行って、会議の場で展開されそうな議論のイメージを作り、さらにあるべき議論の姿を、ファシリテーター自身の頭の中に作っておく必要があるのです。作っておけば、「今の発言はこの論点に該当するな」とか、「まだこの論点が議論されていないな」とかが比較的素早く判断していけるからです。

 

 仕込みという準備が大切です。

 

3.留意点

 さて、これだけの事前準備をしているが故に、実際の会議の場において、ファシリテーター自身が議論の阻害要因になってしまうことがあります。

 それを防ぐための留意点は以下の通りです。

  • 自分の望む結論へ誘導してはいけない。
  • 参加者の意見を興味を持ってちゃんと聴く。

 事前に考えているからと言って、またファシリテーターとしてやることがたくさんあるからと言って、適当に聴かない。適当に聴いているのが参加者に伝わると、参加者からの信頼を失います。

  • 原因を人の能力や意識のせいにしない。

 「○○部局はいつもやる気がない」とか「あいつは能力が足りないんだよ」といったことに原因にしてしまうと、議論が深まらず、さらに、その後の改善策のアクションに持っていきようがなくなります。

 また、原因分析はともすれば犯人探しになってしまい、人や能力のせいにする発言が続くと、自分も犯人にされるのではないかという参加者の心的な抵抗を増やすことになり、原因分析が進まなくなります。

  • すぐにwhyに進まず、なるべくwhereに留まる。

 

4.私の事例

※自分は今「残業をどう減らすか」という議論を週一でやっています

 

 さて、私は、この事前準備をやらずにいきなり会議の場で原因分析をやったところ、この図書に書いてあった通り、失敗しました。

 大小さまざまな論点が入り乱れ重要な論点が分からなくなったり、議論すべき論点が漏れてしまったり、人のせいになってしまい原因分析が深まらず、議論をどう進めようかと考えているうちに発言者の意見を聴き漏らしたり、と散々でした。

 論点整理にはちょっと自信があったのですが、今までやっていたのはあくまで自分ひとり紙の上でじっくり考えるというものでしたので、様々な意見が飛び交う会議の場で瞬時にかつ高いレベルで行うのは無理でした。

 

 そこで、次の会議までの間に、失敗した会議の議事録をもとに、自分が使い慣れているマインドマップという手法を使って、4つの手順を追ってみました。

 まず、論点を再整理し、再整理した論点を次の会議の冒頭で紹介し、前回の議論を振り返るとともに、抜けていた論点や深まっていない論点がないかを再度議論しました。

 さらに、whereやwhyの手順をたどっていけるような質問をいくつか事前に考えておきました。もちろん、議論を誘導しないような表現を用いてです。

例えば、

 「組織の外からの依頼と中からの依頼はどちらが多いか? 〇:〇ぐらいか?」

 「定型的な/非定型的な業務は何があるか?」

 「コントロールできる/できない業務は何があるか?」

 (→上記の2つを聞いたのち、これらを軸にしてマトリックスを書き、それぞれの担当業務をマトリックス上に位置付け)

 「依頼する側の視点に立ってみて、なぜ急な依頼となってしまうと思われるか?」

 「依頼を受ける側に、残業を引き起こしてしまう要因はないか?」

 「あったらいいなと思ったツールは何かあるか?」

 「一番の要因は何だと思うか?」

 

おまけ:

 今回の「ファシリテーション(の原因分析)」においても「コーチング」や「クリティカルシンキング」との共通点をいくつか発見しました。

 

 例えば、広げる→絞る→深めるは、まさにコーチングで用いるテクニックですし、参加者の意見を「聴く」のをおろそかにすると信頼関係が崩れるというのもコーチングで学んだことと同じでした。

 さらに、実際の会議の場においては、コーチングの「視点を変える質問」が役に立ちました。例えば、whereで状況を明らかにする際に数字で答えてもらったり(例:組織の外部からと内部からの依頼は、何対何ぐらいですか?)、whatで理想の状態を明らかにする際には、「制約が無かったらどうするか」と尋ねたり、whyのところで「上司の視点に立って考えると、、、」といった尋ね方が出来ました。

 

 また、何が論点(イシュー)なのかや、どういう枠組みで論点が組みあがっているのか、whyの検討において仮説をたてていくなどは、まさに「クリティカルシンキング」でした。

 関連する知識をフル動員して、より良い会議にしていきたいです。