読書メモ 「会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか」Harvard Business Review

 働き方や残業について議論をしていると、どうしてもこの問いにぶつかります。

 「会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか」

 

 ということで、少し前のHarvard Business Reviewを参考に「ビジョン」「ミッション」「バリュー」について整理してみました。

 

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※今回私のブログでは、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」という従来ある基本的な考えを整理しただけですが、このHarvard Business Review 2019年3月号は、この3つの基本的な考え方に加えて、「purpose」という概念を特集しています。今躍進している21世紀型企業は、この概念を用いて、組織の外との協働を進めている点が成功の鍵のようです。是非本書もお読みください。

 

1.働き方改革とビジョン・ミッション・バリュー

 

 働き方改革や残業問題について議論していると、どうしても「会社は何のために存在するのか 私たちはなぜここで働くのか」という問いにぶつかります。

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 なぜなら、どう働くかは手段でしかないからです。その先に目指すものが明確になってこそ、それを達成するためにどういう働き方をするかが明らかになってきます。

 よって、まず経営陣は、以下の問いに答える必要があることは、このブログでも繰り返し述べてきました。

  • 会社は何のために存在するのか? 実現したいと考えている理想は何か?
  • その理想を実現するために、会社は何をすべきか?
  • 会社がすべきことを達成するために、社員はどうあるべきか? 会社はどのような社員を求めているのか?

 

2.ビジョン・ミッション・バリュー

 先ほどの3つの質問は、それぞれ「ビジョン」「ミッション」「バリュー」を問うているわけですが、定義を述べる前に、この図を見ていただいた方が早いでしょう。

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出典:https://vision-cash.com/keiei/vision-mission-values/

 

 では、定義を見ていきたいと思いますが、色々な視点からの定義を集めた方がイメージしやすいと思い、今回のブログでは、Harvard Business Review 2019年3月号以外の文献も参考に、色々な定義や例を集めてみました。

※以下、(カッコの中)は参考文献番号を表しています。

 

2-1.ビジョン [Vision]

 

定義

  • 組織が目指す理想の状態(参考文献a-1)
  • 会社がこの先数年の間にどんな組織になりたいかを述べたもの(a-2)
  • 実現を目指す、将来のありたい姿(b)

 

解説

  • 「人を動かす」ことを目的としている(a-1)
  • 組織内で経営目標などの形で共有し、目標達成のインセンティブを高める【20世紀型組織】(a-1)
  • ミッションを実現したときの社会像を示すことで、組織内だけでなく、組織の外にいる人も動かす【21世紀型組織】(a-1)

 

  • あらゆる通信世界において主導的な存在となる[エリクソン](a-2)
  • 日本の工芸を元気にする![中川政七商店](a-3)
  • 業界No1になる!(b)
  • 働きやすい社会をつくる(b)
  • イソップ寓話「3人のレンガ職人」(c)https://www.total-engagement.jp/808/

 

ビジョンの策定にあたってのヒント

  • ぎりぎり手の届くところが良い。それを超えると張りぼての印象を与える。例えば、ネジのメーカーが「世界平和」を掲げてもピンとこない。(a-3)
  • 私たちは「こうありたい」「こうしていくのだ」という意思を込めた「動詞」でなければならない。(a-3)
  • 関係者の「テンションが上がるもの」でなければならない。(a-3)
  • スタッフには機会を見て、何度も何度も話をする。組織の中にすら届かないものが外に届くことはない。(c)
  • Must:やらなければならないこと」と「Will:やりたいこと」と「Can:やれること」という3つの円が重なってビジョンが生まれる。(a-3)
  • 問いが「社会・組織レベル」に偏ると、話し合いが「自分ごと」にならなくなっていく。(d)
  • 他方で、問いが「個人レベル」に偏りすぎると、今度は社会にとっての新奇なアイデアや、組織にとっての課題解決につながりにくくなる。(d)
  • 「ビジョン」を考える場合においては、以下のように、複数のまなざしを組み合わせて軌道を描くことが重要(d)

   自分ごと化するために、個人の(過去の)「経験」を問い、

               ↓

   個人の(将来の)「妄想」を促して視点を未来に向けた上で、

               ↓

   組織としての「ビジョン」を練りあげていく。

 

 

2-2.ミッション [Mission]

 

定義

  • 組織の存在意義(参考文献a-1)
  • 会社が関わる(そして関わらない)ビジネスを、現在と将来において説明するもの(a-2)
  • 企業が果たすべき使命(b)

 

解説

  • 「求心力を高める」ことを目的としている。(a-1)
  • 理想[to be]と現状[as is]をつなげるベクトル(a-1)
  • 日常のオペレーションではほとんど意識されない、所与のもの【20世紀型組織】(a-1)
  • 組織が創業者を超えた存在へと成長するために不可欠な、正当性を担保する不動点【21世紀型企業】(a-1)
  • 自分たちは社会に何を働きかけたいのか[パーパス型ミッション](a-1)
  • 自分たちは社会の中でどうありたいのか[アイデンティティ型ミッション](a-1) 

 

  • 金融界の大企業のシニアのマネージャー向けに、パフォーマンス評価に関する高水準のサポートを提供する[金融コンサルタント会社](a-2)
  • お客様に最高品質の商品をお届けする。(b)

 

2-3.バリュー [Value]

 

定義

  • 組織の構成員が共有する価値観(参考文献a-1)
  • 望ましい企業文化を説明するもの(a-2)
  • 組織の共通の価値観(b)

 

解説

  • 「組織文化をつくる」ことを目的としている。(a-1)
  • 組織の中にいる人材を対象に、求める資質や守るべきルールを可視化する際の根拠となる【20世紀型企業】(a-1)
  • ユニークな組織文化の起点であり、人材採用や外部パートナーと協働する際の基準となる【21世紀型組織】(a-1)

 

  • より良い将来を形作る勇気、集合天才の活用、現実主義、責任感、真剣な取り組み[コカ・コーラ](a-3)
  • 常にお客様の発言に耳を傾け、お客様と最高の関係を築いて、卓越したレベルのサービスと顧客満足の提供に役立てる[TNTエクスプレス](a-3)
  • お客様を大事にする。(b)
  • 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな 企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす[トヨタ自動車](c)

 

3.なぜ働き方が定まらないのか

 

 ここからは私の気づいたことを述べていきたいと思います。

 

 働き方改革や残業問題について議論したとき、こんな意見が上がりました。

 『何のためにやっているのか分からない仕事は苦痛』

 

 自分自身も昔から『何のためにやるのか?』が気になる質で、新入社員の時に資料の完成度をあげたくて『この資料を何に使うのか?』を偉い人に聞いて『いいから言ったとおりにやれ』と言われたことは、今でも覚えています。

 

 この『何のためにやるのか?(Why)』という問いは、一つの業務についての問いであるだけでなく、最終的には組織における一連の業務のつながりを経て、『なぜこの組織は存在するのか?』『何のためにこの組織はあるのか?』という「ミッション」につながることになります。

 

 しかしながら、仕事においては『なぜするのか?(Why)』ということよりも『何をするのか?(What)』を考えてしまうことが多々あります。

 

 あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、あっ部長に言われてたことがあったな、本社からも依頼が来てたな、、、などと、とにかく目の前の仕事をこなすことにいっぱいとなることもあります。

 

 個人だけでなく、企業や行政であっても、とにかく何もかもが失われた戦後や、人口がどんどん増えていった高度経済成長期であれば、電化製品が足りない、車が足りない、医療機関が足りない、道路が足りないと、とにかく不足していることが明確で、ひたすらそれに対応していけばよかったでしょう。

 

 何か不足しているものが明確な場合は、「Why」というところまで深く考える必要はなく、つまり「ミッション」を考えなくても組織はまわっていったでしょう。

 さらに、欧米に追いつけ追い越せという表現があったように、不足しているものが満たされている理想の状態が明らかであれば、Whyの先にあるゴールである「ビジョン」すら考える必要はないでしょう。

 組織文化においても、とにかく不足しているものを供給していけばよいのであれば、ひたすら効率性だけを求めてやっていけばよかったのでしょう。

 

 ところが、社会や個人の価値観が多様化し、また変化のスピードが増し、さらに成熟した21世紀においては、20世紀の間に組織の中に沁み込ませたことが、いつのまにか独りよがりになってしまい、組織の外の人から「なぜそれをやるのか?」と問われだしているように感じます。

 さらに、「なぜそれをやるのか?」を組織の中でじっくり考えると同時に、組織の外に対しても発信し、共感してくれる人を集め、力を貸してもらい、協働・協創していかなければ、存在を認めてもらえなくなったのではないでしょうか。

 

 今一度、組織の外にも目を向け、「会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか」を考え、そのうえでどう働くかを考えていきたいです。

 

 

参考文献)

文献 a)

Harvard Business Review 2019年3月号「Purpose パーパス」 ダイヤモンド社より

ーa-1)組織の「存在意義」をデザインする 佐宗邦威

ーa-2)ビジョン、ミッション、バリューとはどう違うのか グラハム・ケリー

ーa-3)私たちは「こうありたい」を追求し続ける 中川政七

 

文献 b)

ビジョンとは。ミッションとは。バリューとは。経営理念とは。わかりやすく解説

片山 祐姫   2018年3月11日

https://vision-cash.com/keiei/vision-mission-values/

 

文献 c)

イソップ寓話 3人のレンガ職人

https://www.total-engagement.jp/808/

 

文献 d)

ワークショップにおける問いの「軌道」のデザイン 安斎勇樹

https://note.mu/yuki_anzai/n/n44463c84d6d3

 

文献 e)

トヨタ自動車 行動指針

https://www.toyota.co.jp/pages/contents/jpn/company/vision/code_of_conduct/code_of_conduct.pdf