コーチングが機能しない場合

 先週お世話になっているオンライン勉強会の中で、コーチングを紹介する機会を頂きました。
 その準備を進める中でネットで調べたり友人と話をしたりして、いろいろとコーチングが誤解されているなと感じたので、「コーチングが機能しない場合もある」ということを整理してみました。

 

f:id:umesanx:20200621224910j:plain

図:コーチングピラミッド(銀座コーチングスクールのテキストより 一部改)

 

 
 私が初めて「コーチング」という言葉を知ったのは5年ほど前ですが、最近改めて「コーチング」という言葉をよく聞くような気がします。
 外資系企業ではマネージャー以上にあがるにはコーチングスキルは必須と伺っていますし、企業の研修にも取り入れられています。
 さらに、人材育成の必要性が増していることや、「1 on 1ミーティング」(1対1の面談を頻繁にやること)を有名企業が導入したことの影響もあるように感じます。

 

 さて、コーチングはコミュニケーションスキルです。
↓関連する過去のブログ

コーチングって何? - うめさんブログ


 具体的には、「認める」「聴く」「質問する」「フィードバックする」といったスキルを用います。
 「スキル」ですから、例えばスキーのように、練習すれば誰もがある程度までは確実にできるようになります。

 逆に言えば、練習しなければ、できるようになりません。本だけ読んでもできるようになりません。スキーも一緒ですよね。

 

 ところが、スキルを身につけたとしても、コーチングが機能しない場合があります

  以下、上司である人がコーチングの「スキル」を身につけ、部下と対話するケースを取り上げます。

 

1.信頼関係がない
 信頼関係がないとコーチングは機能しません。
 
 例えば、コーチングでは、将来に目を向け、「5年後にどのような自分になっていたいですか?」といった質問をしますが、これを普段怒鳴ってばかりいる上司に質問されたとき、どれだけの人が答えるでしょうか?

 

 「1 on 1ミーティング」に限らず、四半期の始めや最後に行う面談において、その面談が上手くいくかどうかは、面談中の上司側のスキル以前に、上司と部下の間に信頼関係ができているかに左右されます。

 

 

2.相手の可能性を信じていない
 コーチングでは、コーチは相手の可能性を信じて話を聴きます。(相手の可能性を信じることを「コーチングマインド」と言います。)


 「今は悩んでいるかもしれないが、必ず自分自身で解決策を見つけることができ、自ら掲げた目標を達成できるだろう」という気持ちで話を聴きます。
 
 ところが、上司という立場にある方々にとって、この相手の可能性を信じるというのはとても難しいです。なぜなら、優秀な人が上司になっているからです。
 上司から見れば、部下は未熟なところがたくさんあります。上司自らがやった方が早い、と思うこともあるでしょう。
 ついつい、「自分が教えてやらなければ」と思ってしまうでしょうし、教えた方が早いこともあります。

 

 ここで少しややこしいのが、人材育成の観点から、上司が質問をして部下の気づきを促すというものです。
 私はこれは「コーチングである」こともあるし、「ティーチングになってしまっている」こともあると思っています。


 上司がすでに知っている解決策に向けて、部下に質問を投げかけつつ誘導する、というのはコーチングではありません。
 「質問する」というスキルを使っていますが、上司が知っていることを教えているにすぎません。
 
 これはこれで効果的な「ティーチング」の方法だとは思いますが、こういう方法を取ってしまうのは、相手の可能性を信じきれていないからであり、このやり方を「コーチング」だと思ってしまうのは非常に危険です。


 なぜなら、いずれ部下は誘導されていることに気づきますし、誘導された解決策は、結局部下自身が気づいたものではないため、部下にはやらされ感が出てしまうからです。

 

 仕事においては全てを「コーチング」で行うことは無理です。
 単純に部下の知識が足りていない場合や、緊急時などは、「ティーチングでやるぞ!」と言うことをしっかり意識して「ティーチング」をすればよいと思います。

 

 そして、上司の中にも答えがなく、(その時点の)部下の中にも明確に答えが見えていない将来のことなどについては、「コーチング」を用いて、対話を通じて、部下が目指したい目標を見つけることを手助けすると良いと思います。

 

 

3.自分に自信がない(自己基盤が確立していない)
 コーチングをやろうという人で、余りこういう人はいらっしゃらないとは思いますが、自分に自信を持っていない人がコーチングをしようと思っても機能しません。

 

 自分に自信があるとは、自尊心を持っている、さらに言えば、ありのままの自分を受け入れられているということです。
 ありのままとは、何が自分にはできて何ができないのかを理解し、できていない部分も含めて自分であることを認めているということです。

 逆に言うと、例えば、有名な大学を出たから、大企業に勤めているからという理由でもって自分に自信を持っているというのは、その比較軸が崩れた時、自らも崩れてしまいます。

 

 ありのままの自分を受け入れられているから、相手のことも認められるようになります。

 

 「自分に自信を持てるようにするにはどうしたら良いか?

 私がコーチングを習った先生の答えは次の2つでした。

  1. 小さなことで良いから自分でやろうと決めたことを継続すること
  2. 小さなことで良いから自分で立てた目標を達成することを何度も経験すること

 


最後に。
 この「信頼関係」「相手の可能性を信じる心(コーチングマインド)」「自己基盤」は、私がコーチングを習った際に、最初に相当の時間をかけて教わったことです。


 恥ずかしながら、受講中は「早くスキルを教えて欲しいなぁ」などと思っていました。

 

 自分自身、どれ一つとってもまだまだです。焦らず少しずつ自分自身を磨いていきたいと思います。

 

 次回は、この3つのうちの信頼関係構築のためには、なんとスキルに戻って「認める」「聴く」という2つのスキルが有効、と言うお話をしたいと思います。