読書メモ① 「新しい経営学」三谷宏治 『リソースよりもオペレーションが先』

 今回取り上げる「新しい経営学」、大学院で経営学を学ぶ前に読んでおきたかったです。

 MBAを取るぞ、ファイナンスを勉強するぞ、という前に、この本で、経営学で学ぶ各科目間のつながりを理解し、ビジネスの全体像をつかめるようにしておくと良いかと思います。

 経営学を学んだことのない人でも読めますし、仕事でなんらかの事業に関わっている人ならば、自分の担当だけでなく他の担当部局とのつながりが理解できるようになります。

 

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1.本の特色

 私も大学院で、ファイナンスとか組織論とかマーケティングとかリーダーシップ論とかを習いましたが、それぞれ詳しくやった割に、各科目間のつながりが理解できず、最終学期に受けた戦略論の講義で苦労しました。

 

 この本では、経営学の6つの分野(経営戦略、マーケティング、アカウンティング、ファイナンス、人・組織、オペレーション)を再構成し、一つの事業をちゃんと回せるようにするために必要な、以下の4つの要素に分類しています。

 

  1. ターゲット[顧客]:誰に対して
  2. バリュー[提供価値]:どんな価値を
  3. ケイパビリティ[オペレーション/リソース]:どうやって提供し
  4. 収益モデル[プロフィット/利益]:どう採算をとるか

 

 これらの一つ一つを理論と歴史、そしてたくさんの具体例(越後屋、任天堂、コーヒーなど)でもって説明されています。

 そして、その中で強調されているのは、「この4つの要素がしっかり組み合わされることで競合他者に安易にまねされることないビジネスモデルが出来上がる」というものです。

 

 私もついついマーケティングを学んだ直後は、「よし、やっぱり、セグメンテーション(S)・ターゲティング(T)・ポジショニング(P)が一番大事だな」と思い込み、企業分析などでこの点だけに集中し、あたかもこのSTPだけが重要で、ある企業の成功は全てSTPによるものだ、と思い込んだりしてしまいました。しかし、当然STPがちゃんと出来ていても、それを提供できなくては意味がないですし、ましてや利益が上がらなければビジネスとして成り立ちません。

 

 この本は、そういった狭い視点に陥らないように、4つの要素の関連性を常に意識させてくるつくりになっています。

 

 

2.ケイパビリティ[どうやって価値を提供するか]

 さて、私は「組織」や「人」に関心があるので、4つの要素の中の「ケイパビリティ」を取り上げたいと思います。

 

  まず「ケイパビリティ」とは、価値を顧客に提供するために必要となる、「オペレーション」と「リソース」のことを指します。

 

 1つ目の「オペレーション」とは、どうやって商品やサービスをつくり、運び、売るかといった運用方法や仕組みのことで、製造方法や物流、販売方法、組織構造などです。

 そして、「オペレーション」はさらに、流れを表す「プロセス」とそのプロセスを管理する「組織」に分けることができます。

 

 2つ目の「リソース」とは、ヒト・モノ・カネ(と情報、知財)と言われる、働く人や設備、原材料、そして資金などです。

 

 これらの「オペレーション」と「リソース」の両方がそろって初めて顧客に価値を提供できるわけですが、この本では

『リソースよりもオペレーションが先』

と述べています。 

 

 なぜなら、先に「リソース」から考えると、今手元にあるヒト・モノ・カネでなんとかしようという発想となるからです。さらに、この発想では、よりリソースを持った競合他社に簡単にまねされる危険があるからです。

 

 そうではなく、まずはあるべきオペレーションを考え、それを実現するためのリソースを導き出す必要があります。そして、リソースが足りないなら、鍛え上げるか調達するしかないのです。

 

 ハーバード・ビジネス・スクールで起業家養成コースを立ち上げたハワード・スティーブンスは以下のように述べています。

 「起業家精神とは、今自分が握っているリソースを超えて機会を追求することだ」

 Entrepreneurship is the pursuit of opportunity without regard to resources currently controlled.

 

 

3.組織とは

  「オペレーション」を構成する「組織」については、「硬い組織」「柔らかい組織」があります。

 硬いというのは、役割や所属、上下関係、指揮命令系統がはっきりしていることで、柔らかいとはそれらが曖昧なことを指します。

 そして、硬い組織は同じことの繰り返しに強く柔らかい組織は変化への対応にたけています

 

 そしていずれの組織にしても、以下の4つの側面を持っています。

  1. 機能
  2. 構造(メンバーシップ、階層構造、ポジション)
  3. 意思決定とコミュニケーション
  4. 行動ルール

 

 これら4つを組み合わせることで組織は個人の能力を超えた問題に対処できます。

 

 ケイパビリティは、「(オペレーションの中の)プロセス→(オペレーションの中の)組織→リソース」の順で考えると、戦略的で整合の取れたものが構築できるというもの覚えておきたいです。

 

 最後に、硬い組織も柔らかい組織も、どちらが正解と言うことはありません。

 最初に述べたように、「ターゲット」に「バリュー」を届け、「収益モデル」を満足する(=利益を上げる)組織を構築する必要があります。

 本書では、例として、イラク戦争後の治安維持のために派遣された米軍を例に、硬い組織と柔らかい組織が紹介されていますが、同じ軍隊でも対処すべき問題が異なると組織も変えなければならないということが分かります。(是非本書で詳細をお読みください。)

 

 

(ここからは私の考えです。また、次回ブログではこの「組織」の続きとして「人」を取り上げます。)

 

4.気づき

 本書において繰り返し出てくる4つの要素は、どの部局に所属していようと理解し、そして意識しなければならないと感じました。

 

 例えば、品質部門の人が品質基準を満足すること、そしてより良い品質を求めるのは当然やらなければならないですが、顧客の中に品質がどの程度の価値をもって捉えられているかや、どうその品質を価値として顧客に届けるのかは考えなければなりません。

 また、営業部門であっても、多く売ればいいのだろ、というのではなく、自分の売っている商品やサービスがどう収益に結びついているのか、そして自分の会社がどのような収益モデルから成り立っているのかを知っていなければなりません。

(閑話休題:上手な収益モデルほどどこで儲かっているのか分からない、もしくは顧客に意識させないようになっています。例:googleのサービス[検索、地図、写真など])

 

 「そんなこと(=4つの要素の連携を考えること)は当たり前ではないか」と思われるかもしれませんが、こと人事については、今あるリソースで何とかすることを求められることが多いように感じています。

 

 後ろ向きな例で恐縮ですが、何か社内で問題が起こったので、一斉に研修を行わなければならないといったことや、不祥事に対する人事的な処分を決めなければならない。どこどこ部署の人員を増やしてほしいと言われれば、では代わりにどこの部署の人員を減らそうかという調整をしなければなりません。また、ただ単に最近のトレンドに流されて、組織の名称だけとりあえず変えようとする経営幹部もいます。最近はやりの働き方改革においても、オペレーションを見直すのではなく、ただ単に見かけの残業時間だけを減らすことを求められたりします。

 

 そうではなく、例えば、今はとにかく利益よりも売り上げを増やすことが必要な時期なので、そのために営業部局の人をただ増やせばよいのか、それとも必要なスキルを身につけさせるのか。

 または、コストをカット(≒生産性を向上)するためにオペレーションを見直すことが必要な時期なので、そのためにアウトソースした方が良いのか、組織をフラットにした方が良いのか、さらには社内の雰囲気を変えることを優先した方が良いのか。

 このようなことを考えなければなりません。

 

 「リソースよりもオペレーションが先」

 「ターゲット、バリュー、ケイパビリティ、収益モデルを常に意識し、連携させる」

 この2つは忘れないようにしたいと思います。 

 

↓関連する過去のブログ

組織の6つの要素 - うめさんブログ

人事制度と会社の戦略 - うめさんブログ 

 

参考:

2019.9., 三谷宏治, 新しい経営学, 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

読書メモ 「思考・論理・分析」波頭亮

 「論理思考」や「クリティカルシンキング」はビジネスの基本スキルだと言われています。自分も入社したころ、この手の本を読み、その後10数年ほど仕事で使ったりしていたつもりでした。

 しかし、この本をオンライン勉強会でつながった講師の方や仲間の方々と一緒にここ1か月ほど読み意見交換したことで、自分自身の理解が中途半端であったこと、それゆえにちゃんと実践できていなかったことが分かっただけでなく、「論理思考はみんなでやろう」という自分なりの気づきを得られました。

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1.本の紹介

 この本、とてもマニアックです。

 

 例えば、「論理思考」と普段一言で言ってしまう言葉について、「論理」と「思考」に分け、それぞれの単語についてなんと1章かけて「思考とは(第1章)」「論理とは(第2章)」が述べられています。そして、それに「分析」を加えた、シンプルな3章構成となっています。

 

 それぞれの章の中で、以下のことが述べられており、事例を用いて、一つ一つ定義や活用方法、留意点まで解説されています。

  • 思考とは?
  • 思考から得られるメッセージは2種類しかない!
  • 分かるとはどういうことか
  • 正しく分けるにはどうすればよいか?(ディメンジョン、クライテリア、MECE)
  • 思考の属人性とは?
  • 論理とは?
  • 推論とは?
  • 推論の価値を決める要因は?(「距離(意味内容の新しさ)」と「確からしさ」)
  • 演繹法の構造や活用する際の留意点
  • 帰納法の構造や活用する際の留意点
  • 演繹法と帰納法の関係
  • 分析とは?
  • 分析の3要件
  • 分析の4つのステップ
  • 情報とは?
  • イシューアナリシスとは?
  • 心理的バイアス

 

 一つ一つの詳しい解説や具体例は是非本書を読んで頂きたいですし、MECEやイシューなどはすでにご存じの方もいらっしゃるでしょうし、ネットでも検索できるので、割愛します。

 

(ここからは自分の考えです。)

 

2.気づき「論理思考を深めるにはみんなでやろう」

 

2-1 論理思考は練習しづらい

 「論理思考」は、マナーやコミュニケーション、時間管理や書類整理などのスキルと同列の初歩的なビジネススキルとして挙げられることが多く、事実新人や若手職員の研修メニューに取り入れられることが多いです。

 また、個人的なスキル、つまり個々人がそれぞれに身につけておくべきスキルとみなされています。

 

 事実、私も会社に入ったばかりの頃、「クリティカルシンキング」に関する本をいくつか読みましたし、それは自分自身のためでした。

 例えば、自分が担当している業務の課題を明らかにするため、自分の提案の質を高めるため、議論の中で負けないようにするため、上司を説得するため、といったことのためです。

 

 そして10数年仕事の中でなんとなく使ってきましたが、一方で、本当に「正しく考え、正しく分かっているのか」は疑問でした。

 

 そのため、再度「論理思考」を磨いていこうと思った今、論理思考は非常に練習しづらいと感じました。

 なぜなら、仮に、「論理とは何か」ということを本で学び頭で理解し、そして論理的に思考するための「方法論」を身につけたとしても、実践できるかどうかという問題は残りますし、実践できたとしてそこから導き出されたものが最上のものであるかは分かりません。

 色々な議論の切り口があるでしょうし、様々な時間やコストと言った内的制約や目的や期限と言った外的制約もありますし、そもそもの議論のスタート地点となる、イシュー(=今ここで答えを出すべき問い)の設定にあたっては、思考し、論理を組み立て、分析する人の属人的判断によらざるを得ないからです。

 

 さらに、本書に記載されていた通り、論理思考を徹底的にやるのは非常に大変です。

 

 例えば、イシューアナリシスについて本書で述べられていたように「イシュー設定以外は徹底的に客観的かつロジカルに行うべし」となると、相当頭を振り絞る必要があり、また情報収集・分析作業が発生します。

 

 また、せっかく一生懸命論理思考を駆使して自分の提案の質を高めたのに、大した議論もせず、結局上司の言う案に決まったりする場合もあります。

 

 逆に、社内に知り合いが増えてくると、信用取引ができるようになり、ある程度論理的に見えるような議論さえすれば、「なんとなくいいんじゃない」ということで自分の案が通ってしまうこともあります。

 

 当然こういった論理的であることが徹底されていない意思決定により、成功したり失敗したりという結果が生まれるわけですが、会社全体が徹底的にロジカルになっていない限り、失敗したとしても原因が分かりません

 

2-2 「論理思考は個人ではなく、チームでやろう!」

 それでもやはり、仕事において練習するのが最も効率的かつ効果的だと思います。

 

 大きなイシューではなく、小さなイシューについて、通勤途中の頭の中でちょっと考えてみたり、資料作成の前にまとまった時間を取ってじっくり考えてみて、イシューツリーを作り、そこから自分の提案や分析を組み立て、その提案や分析結果をチームのメンバーに見てもらうのが良いと思います。

 

 チームのメンバーからフィードバックをもらうというのがポイントです。

 

 論理思考は初歩的な個人スキルとみなされているという話をしました。確かに、チームのメンバーに見てもらう前段として、ある程度の論理思考ができていることが必要です。

 しかし、論理思考は、初歩的なスキルとするには難しすぎ、また個人で使うのではなく、相手の意見をしっかり理解するときにこそ役立つのではないかと思います。

 

 相手がどういう情報や知識を根拠としているのか。それらをどう組み合わせて、何を言おうとしているのか。どういったことに注目し、重きを置いているのか。

 

 論理思考を身につけていれば、上司や同僚からフィードバックをもらい、それに対して自分の考えを論理的に述べて、またフィードバックをもらうということを繰り返すことで、前述の論理思考に必要な要素を集めていくことができます。

 

 「上司は全然わかってくれない」「上司の言っていることが分からない」「同僚がケチばっかり付ける」「みんな対案もなしに反対意見ばかり言う」と怒ったり、がっくりする前に、論理思考を使って一度はチームのメンバーからのフィードバックを受け止めることが必要です。

 例えば、

 「上司は全然わかってくれない」

 ⇒自分の論理展開に飛躍があったのでは?

 「上司の言っていることが分からない」

 ⇒上司はどんな情報と知識をもとに話しているのだろう?

 「同僚がケチばかりつける」

 ⇒なにか大事な論点が抜けているのでは?(MECEになっていない?)

 「みんな対案もなしに反対意見ばかり言う」

 ⇒そもそも自分とみんなとで議論の前提がずれているのでは?

 

 もちろんチーム内で論理思考を学ぶとともに、フィードバックの内容や仕方をある程度合意しておく必要がありますし、さらには心理的に意見が言いやすい人間関係を作っておくことが前提となりますが、チーム全体で論理思考をしていくことで、より確からしく、より新しいアイディアが生み出されると思います。

 

 最後に、本書では、論理思考に影響を与えるものとして「属人性の罠」や「心理的バイアス」についても述べられていましたが、個人的には、これらを知っておくことは大切ですが、それ以前の問題として論理思考が徹底されていないことが多いと感じます。

 仕事においては、「まぁ、みんなそれぞれ考えが違うよね。だから、偉い人の案でいいんじゃない。」として、思考を止めてしまうのではなく、その意見の違いを生み出しているものについて思考を巡らせていくことが必要です。

 

 自分の論理思考を磨きつつ、論理思考にチーム全体で取り組み、思考を深めていきたいです。

 

参考:

2019.10.30(18刷), 波頭亮, 思考・論理・分析 「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践, 産業能率大学出版部

 

会議でしか生まれないもの

 働き方改革の中でやり玉に挙げられる会議

 

 確かに、長いのになんだかよく分からないまま終わってしまう会議とか、逆に、説明も一方的で、質問もなぜか出席者同士ではなく、事務局の間での予定調和な質問のやり取りをし、シャンシャンと終ってしまう会議とかありますよね。

 会議ってどうしたら良いのかなぁ、ということで今まで読んだ本の中から会議に関するものを取り上げてみました。

 

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Halong bay, Vietnam, 2019.12

 

1.会議でしか生まれないもの

 会議とは、「対面の場で、同時に、コミュニケーションを行うもの」です。

 中村和彦先生は、著書「入門 組織開発」の中で、そのように述べたうえで、この同時性コミュニケーションを行うことでしか生まれないものとして、以下の3つを挙げています。

 ①創造的思考

 ②チーム学習

 ③将来のビジョンや目標の合意

 

 ①創造的思考、つまりアイディアは、多くの人とともに自由な雰囲気の中で対話することを通して生まれることが多々あります。

 ②チーム学習は、会議という場を通して、議題となっている仕事上の内容や課題について学ぶとともに、会議の進め方やお互いのコミュニケーションの仕方を学ぶというものです。多くの人(チーム)が会議という場にそろうことで、会議という場が学習の場になります。

 ③将来のビジョンや目標の合意とは、会議の場で共通の目標について話し合い、自分たちで目標を決定することで、内発的動機づけが高まるというものです。

↓関連する過去のブログ

日本の組織の課題 - うめさんブログ

 

2.意義のある会議とは?

 

2-1.生産性の高い会議のやり方

 伊賀泰代さんは、著書「生産性」の中で、会議の生産性を高めるにあたり、「会議の時間を短くすることは本質ではなく、会議の質を高めるべき」と述べています。

 

 そのためにはまず、「会議の達成目標(つまり、議題)を明確にする」ことが必要です。

 

 議題を会議の事前に通知しておくということは、比較的実施されていると思いますが、「○○について」という議題をよく見かけます。

 会議の達成目標を明確にするためには、もっと具体的にする必要があります。

 

 例えば、

「来月の○○販売三周年記念イベントについて」

⇒「来月の○○販売三周年記念イベントのメインの出し物の素案出し

「先月発売された○○の販売実績の報告」

⇒「先月発売された○○の販売目標未達の理由の共有と今後のてこ入れ策の決定

(確かに、報告だけ受けても、「それで?(So what?)」となってしまいますよね。)

 

 また、会議の時間の中で最も生産性が低いのは、「資料を用意した人がその資料を説明するのに使う時間」であるため、「数分の時間を取って全員が資料に目を通した方が良い」です。

 (この資料を読むというやり方は、Amazonの会議のやり方としても知られています。そしてAmazonの会議は、それ以外の点もユニークです。

参考: https://news.livedoor.com/article/detail/15433188/

 

 さらに、会議では「組織としての意思決定」がなされることが必須だとしています。なぜなら、どんなに良い議論をしても結論が出なければ、その会議の生産性はゼロとなってしまうからです。

 

 この会議において決めるべきことが決まらない主な理由としては、以下の4つがあります。

 ①意思決定者が会議を欠席した

 ②意思決定のロジックが明確でなかった

 ③データや資料がそろっていなかった

 ④会議の主催者/司会者が「結論を出す」ことにリーダーシップを発揮しなかった

 

 このうちの、①は事前準備において防ぐことができ、④は個別に主催者/司会者を指導することで防げますが、問題は②と③です。

 「②意思決定のロジック」とは、どういう条件が整ったらどういう判断をするかというものです。

 このロジックが定まっていなければ、いくら情報を集めても何も決まりません。

 例えば、会議の場で、その事実が明らかになっても何ら意思決定に寄与しないような細かな事柄から質問し時間を浪費する出席者がいますが、そういう人には、それらの情報が明らかになったらどういうロジックで意思決定をしようとしているのかを尋ねる必要があります。

 

 次に、「③データや資料がそろっていなかった」というのも、「②意思決定のロジック」を明確にしておくことで、集めるべき資料を明確にでき延々と資料集めをすることを防げ、何より、必要な情報がそろったら、あらかじめ決めておいた「意思決定のロジック」に従って、自動的に結論を出すことができます。

 

2-2.会議の無駄をなくす要素

 この結論を出すということの大切さを、調査によって明らかにしたのが、中原淳先生の「残業学」のコラムにありました。

↓関連する過去のブログ

読書メモ 「残業学」 中原淳+パーソル総合研究所 - うめさんブログ

 

 中原先生は、「パーソル総合研究所・中原淳 長時間労働に関する実態調査」を用いて、重回帰分析を行い、会議の無駄削減に最も寄与する要素として以下の2つを明らかにしました。

 ①会議の所要時間に制限が設けられている

 ②会議終了時に、司会者が決定事項と次に行うことを明確にしている

 

 ここで面白いのは、会議を効率化するやり方として世間で言われている、事前準備や目的の明確化などの「始まり方」は、ほとんど関係がなかったこと。

 さらに、「限られた人だけがしゃべる」といった「議論の偏り」も、統計的には影響がみられなかったことです。

 

(さらに詳細はこちらをどうぞ:https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201812130003.html

 

 (補足:自分の考え)

 この2-1における「会議の達成目標(つまり、議題)を明確にするべき」というご指摘と、2-2の「事前準備や目的の明確化などの始まり方は、ほとんど関係がなかった」という調査結果をどう解釈したら良いでしょうか?

 

 一つは、議題が明確化されているといっても、その明確化度合いには差があるということではないかと思います。私自身の経験では、議題がない会議と言うのはあまりありませんが、2-1の例「先月発売された○○の販売目標未達の理由の共有と今後のてこ入れ策の決定」のレベルまで具体化された議題は見たことがありません。

 

 さらに、2-1の後半で述べられていたように、「どんなに良い議論をしても結論が出なければ、その会議の生産性はゼロとなってしまう」ということを、2-2の研究成果は示しているのだと思います。

 

3.まとめ

以上をまとめると、、、

  • 会議という場での同時性コミュニケーションでしか生まれないものがある

 ⇒これを裏返すと、同時性コミュニケーションが要らないものは会議する必要がない

  • 議題は何を決めなければならないかが分かるほど明確に
  • 会議の場では資料を説明させず、各自読む(注:読んで分かる資料にしておく必要がある。)
  • 会議の場において情報が足りなくても、意思決定のロジックを決める
  • 最初に決めた時間内に何が何でも結論を出す

 

自分も日々の会議や打ち合わせで気をつけたいです。

 

参考:

中村和彦, 2015.5, 入門 組織開発 生き生きと働ける職場をつくる, 光文社

伊賀泰代, 2016.12, 生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの, ダイヤモンド社

中原淳, パーソル総合研究所, 2018.12, 残業学, 光文社新書

パーソル総合研究所・中原淳, 2017-8, 「長時間労働に関する実態調査(第一回・第二回共通)」

 

日本の組織の課題

 今回も、中村和彦先生の「入門 組織開発」から、日本の組織の課題を取り上げます。

 中村先生は、本書の中で日本の組織の課題として以下の4つを指摘しています。

 ①活き活きとできない社員

 ②利益偏重主義

 ③個業化する仕事の仕方

 ④多様性の増大

 

 今回は自分の経験に照らしても深刻だなと感じた「①活き活きとできない社員」を取り上げ、何が社員のモチベーションや主体性を損ねているかを考えます。

 (本書では、①~④の詳しい説明や、そしてこれらの課題への対処としての組織開発の理念や具体の方法が紹介されています。是非本書もお読みください。)

 

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 Iceland, Feb. 2019

 

 さて、みなさんの職場で働く社員の方々は、活き活きと働いているでしょうか?それともストレスを感じながらくたびれた感じで働いているでしょうか?

 そして、どちらの職場で働きたいでしょうか?

 

 当然、社員一人一人が活き活きと働き、それによって明るく元気な雰囲気が醸成されている職場で働きたいでしょう。

 

1.モチベーション

 活き活きと働くには、モチベーションが高くなければなりませんが、このモチベーション(動機)はどこから来るのでしょうか?

 心理学では、このモチベーションを、モチベーションを引き起こす要因によって、「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2つに分けています。

 

 「外発的動機づけ」とは、報酬や罰則などの外的な要因により動機づけが高まる場合を指します。

 

 一方の「内発的動機づけ」とは、外的な要因がなくとも、例えば仕事自体が楽しかったり、お客様に貢献できることに価値を見出したり、自分のスキルが上がっていったりといったことで動機づけが高まる場合を指します。

 

 ただし、いずれの動機づけも欠点があり、「外発的動機づけ」においては、上司の評価が外的な要因となっている場合、社員は自ら主体的に考えて行動するよりも、上司の意向をくみ取って上司の指示通りに動くような状態、すなわち受け身の状態になっていくという点です。

 一方の「内発的動機づけ」においては、人によって何に動機づけられるかは異なり、またこの動機づけを高めるためには、仕事の意味を理解し納得することが必要で、そのためには即効性のある対策はありません

 

2.X理論とY理論

 社員への仕事の動機づけの仕方によって、社員は受動的にも主体的にも動くわけですが、この部下の主体性に影響を与えるマネジメントの考え方として、「X理論」「Y理論」というものがあります。

 ちなみに、神戸大学の金井壽宏先生は、「理論」というよりもマネージャー(上司)が自らの経験から得た「持論」と訳した方が日本語の語感に合うとおっしゃっていますが、私も同感です。

 

 さて、「X理論」という持論を持つマネージャーは、「人は生まれつき仕事が嫌いだから、人(部下)には命令と監督が必要で、目標に達しない場合は罰則を与えるべきだ」と考えます。

 

 一方、「Y理論」という持論を持つマネージャーは、「人は自ら実現したい目標のためには、自己統制を発揮し、(個人と企業の目標が一致すれば)、人(部下)は自らの能力を高め、創意工夫をし、自発的に行動する」と考えます。

 

 (閑話休題:「X理論」は性悪説、「Y理論」は性善説とも言えるかもしれません。ちなみに、X(エックス)は×(バツ)に似ているので性悪説と私は記憶しています(^^;)

 

3.なぜ活き活きと働けないのか?

 ここで最初の「活き活きとできない社員」という今の日本企業における課題に戻ると、今の経営幹部の層はX理論を持つ人が多く、それが若い社員の主体性をはぐくむことを阻んでいるということです。

 

 この年代の人たちがくぐり抜けてきた時代は、今よりもずっと環境の変化が小さく、製品やサービスの寿命が長く、効率的に大量生産を行うことが求められた時代でした。そんな時代には、一つの目標に向かって、部下は指示に従って行動するという、上意下達のマネジメントが適していました。

 

 しかし、今は、環境の変化が激しく、製品やサービスの寿命が短く、顧客の価値観が多様化し、加えてグローバルな競合が激しい時代です。このような時代には、環境の変化や顧客のニーズに対応できるように、それらの変化に最も間近にいる現場の社員が主体的に考え行動することが求められています。

 

 そして、主体性を持ってもらうために、例えば、マネージャーに管理職研修などでコーチングを学ばせたりしていますが、「X理論」というマネジメント観を持ち続けながら、コミュニケーションのスキルとしてのコーチングを用いたとしても、部下に見透かされるのがオチです。

 補足:コーチングでは、「コーチングマインド」と言う「クライアント(上記の場合は、部下)の可能性を信じる」ということが非常に重要です。

 

(ここからは自分の考えです。)

 

4.気づき

 本書では、上述の課題を述べたうえで、組織開発によってどう解決していくかが続くのですが、ここまでのX理論・Y理論、そしてモチベーションなどについて、自分の気づいたことを述べたいと思います。

 

・X理論・Y理論

 まず、私の持論は、Y理論「人は自発的に行動する」です。そして、マネージャー(管理職)の役割は、部下が自発的に活動できるような環境を整えることだと思っています。

 

 これは、おそらく自分自身が主体性をもって動きたいという思いがあるとともに、自分が上司であったほとんどの場合において、部下の方々の方が自分よりも知識も経験も豊富であったことによるかと思います。

(一方で、自分が見た、X理論の管理職の多くは、部下よりも確実に知識も経験も豊富で、実績を上げてきた方が多かったように思います。)

 

 しかしながら、より正確には、私はY理論を基本としつつ、場合によってはX理論も使い分けていたように思います。

 例えば、自分が詳しい案件であって、かつ、事態は緊迫しており一刻も早く手を打たなければならないときは、部下にはまずは自分の指示した通りに動くことを求めました。

 また、どうしてもごく一部には主体的に動くのが苦手な人がいて、指示を出さなければならないこともありました。

 

 自分がどちらの理論であるかを把握したうえで、状況や部下に応じて使い分けられるようになると良いのではと思います。

 

・モチベーション

 私自身にとって、大事な価値観の一つは「主体性」です。自分でやることややり方を決めたいです。

 

 もちろん、仕事の上ではどこまで主体性を発揮できるかは場合によります。

 上司からの指示を受けて何をするかが決まることが多いですし、自分がどんな役割を果たすのかもチームの中で決まりますし、ある程度決められた手順に従ってやらなければならないこともあります。また、自分の方から上司に相談することも当然あります。

 

 そうであっても、何のためにやるか分からない仕事をやったり、チームの中で自由に提案できなかったり、一挙手一投足までやり方を細かく言われる状況では、そのやり方が最も効率的かつ効果的であったとしても、とてもやる気が起こりません。

 

 このように主体性がない状況ではモチベーションがあがりません。

 

 このモチベーションの大切さについては近年注目が集まっていて、モチベーションクラウド社さんのように、アンケートによって従業員のモチベーションを数値化し、それにもとづいて改善策を提示し、その実現までフォローするというサービスも好評のようです。

 

 そして、モチベーションをどのように測るのか、それをどう活用していくのかについては、学術的に議論が深められつつあるようですが、従業員のモチベーションや何がモチベーションに影響を与えているのかを、継続的に計測していくことは重要だと思います。

 

 以前一度、若手の人材育成の中で、「折れない新人の育て方」という本を参考に、このモチベーションについてアンケートを取ってみたことがあります。

 

 本書では、新人の元気(モチベーション)に影響を与える要因を、以下の5つに分類していました。

1.会社:会社に将来性を感じているかどうか

2.上司:上司が尊敬できるかどうか

3.職場:職場の人とうまくいっているか。職場の人が気にかけたり、期待してくれているか

4.仕事:自分の担当している仕事の意味や意義を感じられるか

5.自分:成長できそうと思えるか。仕事の手ごたえを感じているか

 

 この時は、上記5つの項目について若手に記述式で答えてもらったので、各項目の状況を数値化したり相関を取ったりするようなことはしませんでしたし、組織全体の状態を測るというよりは、新人一人一人にあった育成をするために尋ねたわけですが、上述の通り、会社全体に対するイメージや職場に関するイメージを捉えることができ、非常に有効でした。

 (本書は、5つの要因だけでなく、それを踏まえた具体の若手の離職防止策なども記載されています。是非本書もお読みください。)

 

 組織を変えていくには、まず、主体性というものをしっかり見える化してやることが必要です。

 

 最後に、中村和彦先生が「入門 組織開発」のあとがきにおいて、本書の主張が集約されているといっても過言ではないとおっしゃられていた一文を掲載しておきます。

 

 『X理論の経営層のもとでは人や関係性が疲労する、Y理論をベースに組織の人間的側面のマネジメントに取り組む必要がある』

 

 

参考:

中村和彦, 2015.5, 入門 組織開発 生き生きと働ける職場をつくる, 光文社

船戸孝重, 徳山求大, 2009.4, 折れない新人の育て方 自分で動ける人材をつくる, ダイヤモンド社

 

体系的に本を選んでみた

 新年は何かを学び始めるのにぴったりということで、今年は以下の9冊の本から読み進めることにしました。

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 実は年末に以前から読みたいなぁと思っていた本をピックアップしたら20冊ほどになってしまったので、どうやって優先順位を付けようか悩みました。

 

 そこで、以下のように体系的に選ぶというやり方をしてみました。

 

1.分野を選ぶ

 まず、何を学びたいのかを考えました。

 相変わらず組織論関係の本は読みたいと思っていたので、まず一つ目の分野は「組織」としました。

 また、仕事全般に使える「一般的なビジネススキル」の分野も読むことにしました。

 この2つの分野を基本として本を選ぶことにしました。

 

2.体系的に選ぶ

 次に、組織論関係といっても、あまりに範囲が広いのでどこから手を付けようかと思ったのですが、ちょうど読んでいた本に、組織の6つの要素なるものが書かれていました。

 

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出典:入門 組織開発 著)中村和彦

 そこで、この6つの要素を参考に本を選ぶことにしました。

 

↓関連する過去のブログ

組織の6つの要素 - うめさんブログ

 

3.強みを伸ばす

 ついつい学ぶとなると、自分の弱みを克服するための本ばかりを選んでしまいます。もちろんそれでもかまいませんし、実際私も自分の苦手な部分を補うための本も選びました。

 ただ、弱みとなっているということは、今までも勉強してきたはずなのに身に付かなかったということなので、再度学び始めても途中で挫折する可能性があります。また、苦手な本ばかりを何冊も読むのは苦痛です。

 ならば、自分の強みを伸ばすための本を選んだ方が良いと思い、自分が得意としている分野の本を選んだり、過去楽しく学び今も関心があるけれどちょっと忘れてきたかもという本を選びました。

 

4.「教科書」と「ハウツー本」のバランスをとる

 仕事で使う以上はデータ等に裏付けされた理論が良いと考えているので、最近は大学の先生が書いた教科書的な本を選ぶことが多いです。

 といって、論文を読んだり、分厚い本物の教科書を読むほど専門家ではないです(^^;

 ただ、教科書は値段が高いですし、背景知識も必要ですし、ちょっと無味乾燥なところもあり、眠くなってしまいます。

 そういった時に備えて、ハウツー本も読むことにしました。ハウツー本の利点は、なんといっても、著者の実際の体験談に基づいているので、とても具体的で、実務への活用イメージが湧きやすい点です。

↓関連する過去のブログ

組織行動論 メモ11 『組織行動論の活用方法』 - うめさんブログ

 

5.一緒に学べる仲間がいる本を読む

 本は独りで読んで思索を深めても良いですが、一緒に読む仲間がいると、色々と気づきが得られます

 たまたま、自分と同じ分野に関心のある友人がお薦めしていた本があり、また最近参加した勉強会で取り上げられた本があったので、それらの本を読むことにしました。

 

6.そして選んだのが、、、

 そして選んだのが、最初の図に示した以下の9冊です。

  • 『新しい経営学』・・・組織の6つの要素「戦略」。関心はあるけどちょっと忘れつつあった経営学を復習。ファイナンスやマーケティングなど様々な分野を新たな視点から統合して整理してくれていると評判の本。簡単な教科書。
  • 『経験から学ぶ人的資源管理』・・・組織の6つの要素「制度」。自分の得意分野の復習。教科書。
  • 『経営学習論』・・・組織の6つの要素「人」。とても関心のある分野。一度大学院で学んでいるけど、さらに知識をアップデート。教科書。
  • 『入門 組織開発』・・・組織の6つの要素「関係性」。学びたいと思っていたけれど、まだまだ知識が足りないので、入門編を選択。
  • 『1兆ドルコーチ』・・・組織の6つの要素「関係性」。同じ分野を学ぶ友人のお薦め。ハウツー本と教科書の両面を持つ。
  • 『思考・論理・分析』・・・一般的なビジネススキル。苦手分野の克服。一緒に学ぶ仲間がいる勉強会で取り上げられた本。
  • 『データ分析の力』・・・一般的なビジネススキル。データを見るのは得意だけど、実際に手を動かせるようになるために。友人のお薦め。amazonで割引していた(^^;
  • 『WORK SHIFT』・・・息抜き用。ちょっと働き方の未来を知りたくなったので。
  • 『MEDIA MAKERS』・・・息抜き用。以前読んだけれども、最近メディア媒体をめぐる動きが活発化しているので、復習。

さぁ、楽しく読み進めよう。

 

組織の6つの要素

 今年最初のブログは、やはり「組織」の話から。
 
 組織がうまく機能するには、6つの要素をうまくマネジメントしてやる必要があります。
 

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1.ハードな要素
 
 まず、組織には「ハードな側面」と「ソフトな側面」があります。
 「ハードな側面」とは、形があるものや明文化されたものです。
 例えば、戦略(中期計画など)や組織構造、人事制度、社内規則、職務内容、業務手順です。
 
 一方、「ソフトな側面」とは、人の内面や人同士の関係のことであり、目には見えづらく、また日々刻々と変化するものです。
 例えば、モチベーションやリーダーシップ、コミュニケーションの仕方、人間関係、組織文化・風土などです。
 
 6つの要素のうち、ハードな側面に該当する要素は以下の4つです。
 
①目的・戦略
 「目的・戦略」は、その組織は何のためにあるのか、そして、組織が将来どのようなっているのかを示すものです。
 別の言い方をするとビジョン・ミッション・バリューといわれるものです。
注:バリューについては、その中の「行動規範」のような形で明文化されたもの。明文化されてない「組織文化・風土」は⑥に該当します。

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 具体例としては、中期計画などです。有価証券報告書の中にもさらっとですが書かれています。
 
②構造
 「構造」は、仕事をどのように分け、部門や部署をどのように構成するか、人々をどのように配置し、役割を割り当てるかという組織デザイン(組織設計)のことです。
 
 具体例としては、機能別組織(部門を総務、経理、生産などに分ける)や事業部制組織(部門を製品別に分ける)などがあります。
 ピラミッドのような階層型の組織にするのか、フラットな組織にするのかというのも、構造の捉え方の一つです。
 
③業務の手順・技術
 「業務の手順・技術」は、仕事や業務をどのような手順で行うのか、業務プロセスをどのように改善していくのか、効率化していくためにどのような技術を用いるのか、を示すものです。
 
 具体例としては、手順のマニュアル化や、IT・AIの導入による生産性向上などです。
 
④制度(施策)
 「制度(施策)」とは、人々のモチベーションを高め、キャリア形成のために構築した人事制度や施策のことです。
 
 具体例としては、報酬制度、評価制度、研修制度、メンタルヘルス施策などです。
 
 
2.ソフトな要素
  ソフトな側面に該当する要素は次の2つです。
 
⑤人(タレント)
 「人(タレント)」とは、個人の能力・スキル、リーダーシップ、意識やモチベーション、感情や満足度のことです。
 
⑥関係性
 「関係性」とは、コミュニケーションの仕方やお互いの協働性、チームワークのありようのことです。
 
 この関係性は、組織内の様々なレベルがあり、大きなレベルからいうと、組織全体、部門間、部署間、部署内となります。
 
 
3.6つの要素から組織を見てみよう
 これらの6つの要素の視点から眺めると、ここ20年程の組織変革の流れとしては、「ハードな要素の変革」から「ソフトな要素の変革」へと焦点が移りつつあります。
 
 1990年代のバブル崩壊後、日本の企業は落ち込んだ収益を回復させるために、「戦略」の見直しや、組織「構造」のスリム化、IT化やリエンジニアリングによる「業務手順」の効率化、成果主義の導入などの「制度」の変更を行いました。
 
 これはいわば大規模な外科手術を行ったというものです。
 しかし、外科手術だけで人(組織)は健康になるわけではありません。手術後も、漢方を飲んだり、運動したりして、日頃の体質改善が必要になってきます。
 
 この日頃の体質改善が、ソフトな要素である「人」や「関係性」の変革にあたります。
 日々組織の中で行われているコミュニケーションの仕方や個々人のモチベーションなどの人々の意識や行動を変えていく必要があり、今この部分に焦点が当てられつつあります。
 
(ここからは自分が考えたことです。)
 
 さて、この6つの要素ですが、どの要素が一番大事だとか、ハードよりソフトの方が大事だということはありません。それぞれの要素は関係しており、組織の状態に応じてどの要素を改善していくべきか考える必要があります。
 
 例えば、ある組織の業績が上がらないという課題があった時に、それが戦略の不備によるものなのか、非効率な業務のやり方にあるのか、個々のスタッフの能力不足によるものなのか、職場内のぎすぎすした人間関係にあるのかは、よく見極めなければなりません。
  別の例としては、組織として目指すべき方向がはっきりしなければ、どんな優秀なメンバーが揃っていても業績は上がらないでしょうし、逆に立派な戦略があってもメンバーの能力が十分でなければ、やはり業績は上がらないでしょう。
 
 何か問題が起こった時に、これらの組織の6つの要素の視点からチェックしてみることで、どこに問題があるかがわかるでしょう。
 さらに、対策を講じる時も、1つの要素にのみ焦点を当てるのではなく、関連する要素も一緒に対策を講じることで、より効果的な対策となります。
 
 6つの要素について、それぞれの要素に精通するとともに、うまく組み合わせられるようになりたいです。
 
出典:
中村和彦, 2015.5, 入門 組織開発 生き生きと働ける職場をつくる, 光文社
 

備忘録 クラウドサービスの導入

 残業はいろいろな要因が絡まっているので、対策もいろいろとあるわけですが、ITを導入するのが手っ取り早いと思っています。

 中でも社内のコミュニケーションを円滑にするITツールは、作業の効率化とともに職場の雰囲気も良くしてくれます。そして、ITツールの導入にあたっては、クラウドサービスを利用しない手はないです。

↓関連する過去のブログ

読書メモ 「残業学」 中原淳+パーソル総合研究所 - うめさんブログ

 

1.クラウドサービスの良さ

 「クラウドサービスを導入したい」と社内に提案したところ、「クラウドって何?」と何度か聞かれましたが、定義を言うのではなく、思い切って「Gmailのようなものです」と言って説明していました。

 総務省によると「 クラウドサービスは、従来は利用者が手元のコンピュータで利用していたデータやソフトウェアを、ネットワーク経由で、サービスとして利用者に提供するものです。」となるのですが、今では多くのサービスがクラウドで提供されているので、何か説明を受ける側が知っているサービスを挙げた方が話が早いかもしれません。

 

 そして、「クラウドサービス」の良さは、従来のようにコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどを自身で保有・管理していた場合(「オンプレミス」と言います)と比較することでより理解しやすくなります。(以下の表)

 

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2.クラウドサービスの導入にあたって

 

 さて、ここからはITの素人の私が今回のクラウドサービスの導入にあたって気づいた点を述べていきます。

 

1)セキュリティ

 やはりセキュリティを心配される方が多いです。

 クラウド上にデータを保管する方が自社でデータを保管するよりずっと安全なわけですが、技術的に難しい点も多いため、例えるなら「お金を銀行に預けるなんてとんでもない。家の床下の方が安全。」と思われる方もいらっしゃいます。

 こういった心理面での不安感はなかなか払しょくしづらいので、「政府が出しているガイドライン」がお薦めしている「第3者機関が認定している認証制度」(例:ISO/IEC 27017、CSゴールド、FedRAMP)を持っているクラウドサービスを使うことをもって、安心してもらいました。知識のない自分がクラウドサービスを選ぶにあたっても、そういった基準があった方が安心でした。

 

2)効果とコスト

 ITツールを導入しようとすると、「どれだけ効果があるのか?」と聞かれます。もちろんクラウドサービス業者によってはちゃんと利用者アンケートなどに基づき「〇%業務が効率化されます」と示してくれるところもありましたが、なかなか効果を数字で示すことは難しいです。

 また、自前でシステムを構築するという話になると数百万とか数千万円規模の予算の話ができるのに、なぜかクラウドサービスの毎月数万円という利用料の話になると、「高いなぁ」と指摘されることが多かったです。

 確かに何年も継続して使うということとなると、それなりの金額になるわけですが、その場合、今から利用しようとしているサービスを一体何年使うものなのかを明確にして議論しなければなりません。

 

 結局、クラウドサービスの利用にあたって必要となる「一人当たりの月額利用料」と、「一人・時間当たりの残業代」とを比較して、「1日当たり2.5分残業時間を減らせられれば元が取れます」という説明をしました。

 

3)クラウドサービス業務に合わせるのではなく、クラウドサービス業務を合わせる

 クラウドサービスはいろいろと機能を追加していくことができるので、ついつい自分たちの今の業務フローに合うよう機能を追加してしまいがちです。

 そうするとどんどん費用がかさんでしまいますし、複雑な業務フローが少しでも変わると、またクラウドサービスの機能を入れ替える必要が出てきてしまいます。

 

 そこで逆に、クラウドサービスがうまく利用できるように業務のやり方を変えてしまった方が楽です。

 クラウドサービスを提供している業者さんは、当然いろんな会社のやり方に合うよう基礎的な機能を作り込んでいるはずです。

 その基礎的な機能がうまく使えないということは、自分たちの業務のやり方が何か無駄なことをしている可能性があります。

 まずは基礎的な機能をしっかり理解して、その機能が最大限発揮されるように自分たちの仕事のやり方を変えた方が良いです。

 

4)若手に試してもらう

 せっかく導入したツールも使ってもらわなければ意味がありません。

 そこで最も使ってくれそうな30歳前後の若手にいくつか試してもらいました。使い勝手を試したいと営業さんにお願いすれば、ほとんどのクラウドサービスが1か月ほどは無料で使えます。

 

 今回は結局、「高機能だけど高い」クラウドサービスと「シンプルだけど安い」クラウドサービスを使ってもらったところ、シンプルな方を選ぶこととしました。

 若手なので機能が多い方が良いかなと思っていましたが、「機能が多い分画面が見づらく直感的に操作できない」という意見が多かったので、試行してもらって良かったです。

 試行してくれた若手が、実際の導入にあたっては、活用をリードしてくれることも期待したいです。

 

5)運用ルールが肝

 導入にあたっては、運用ルールも肝です。

 日頃よく使うメールやLINEであっても使い方は様々で、共通の運用ルールがないと混乱が生じます。

 

 そこで、今回は試行した中で気づいた点を踏まえ、まず自分が作った運用ルールをたたきとして運用をスタートし、それを順次修正していくことにしました。

 運用ルール無しでいきなりスタートするのは非常に危険です。

 

 また、営業さんには、何度も「御社のサービスをうまく活用している事例を教えてください」とお願いしました(←ちなみに、これは友人からのアドバイスです)。

 そして導入後も3か月に1度、活用状況をチェックしてもらい、改善策を提示してもらうことにしました。

 

 せっかく苦労して導入したので、最大限活用していきたいです。

 

参考:

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/basic/service/13.html

「クラウドの基本」著:林雅之

政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針(2018.6.7)