「聴く」ためのマイルールを作ろう

 先週は、信頼関係を築くためには「認める」というスキルが有効ですという話をしました。

 今週は、もう一つの「聴く」というスキルについてです。

 

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コーチングが機能しない場合 - うめさんブログ

認める - うめさんブログ

 

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White Sands National Park, July, 2017

 

 誰しも自分の話を聴いてもらいたいと思っています。

 そして、自分の話を良く聴いてくれる人に安心感を抱くようになり、それが信頼へとつながります

 

 この「聴く」ということについては、「傾聴」とか「アクティブリスニング」とか言う言葉もだいぶ広まってきましたので、基本的なスキルは皆さんご存じだと思います。

 

 例えば、私が習った銀座コーチングスクールでは、以下の4つの具体的な方法を紹介していました。

  • 話す速度や声のトーン、しぐさや姿勢を相手に合わせる「ペーシング
  • 話を促すための「接続詞」(例『それで?』『それから?』)
  • 相手が話すのを待つ「沈黙
  • 相手が話した内容を確認するための「要約や言い換え」(例 『それって、こういうこと?』)

 

 スキルとしてはこれだけです。

 ところが、なかなか「聴く」ということが徹底できません

 

 よく「会話」は「キャッチボール」にたとえられますが、相手のボールをよく見ていなかったり、ボールを受け取る前からどうやって返球しようか考えてしまったり、向こうが投げようとしているのに自分から新しいボールを投げてしまったりしてしまいます。

 

 かく言う、私も「聴く」のが苦手です。

 

 原因は3つあって、「せっかちだから」「話すのが好きだから」、そして「問題解決を始めてしまうから」というものです。

 

 3つ目の「問題解決を始めてしまう」とは、次のようなことです。

 

 例えば、「毎日の食器洗いが大変だ」という話をしている妻に対して、「食洗器を買えばいいんじゃない」と返してしまうというようなことです。

 「大変だよね」と話を聴くことが大事なのに、そして、妻は解決策を尋ねているわけではないのに、勝手に解決しようとする。ダメですね。

 

 そこで、「聴く」スキルを徹底するために、おすすめしたいのは、自分だけのルール「マイルール」を作るというものです。

 一度自分がどういうときに話が聴けなくなるのかを振り返ってみて、「傾聴」や「アクティブリスニング」のスキルとして言われていることの中で、自分が特にできていないことをピックアップし、その対策をルールにするのです。

 

 私の「マイルール」は以下の通りです。

  • 〇分間は黙って話を聴く、と決めておく

  • 同時に話そうとしてしまったら、まずは譲る

  • 相手が沈黙してもすぐに自分から話しはじめずに、相手の反応を10秒待つ

  • 時間がない時は、最初に「〇分は話を聴く時間があります」と伝える

 

 そして、最近はzoomなどのオンラインTV会議システムを使うことが増えてきたので、ちょっとルールを足しました。

  • TV会議中に他の作業をしないようTV会議システム以外のメーラーやチャットを閉じ、携帯も手の届かないところに置く。

  • (画面越しだと動きや表情が見づらいので)大きくうなづいたり、👍などのサインを表示したり、手で大きく○を作ったり、目に見える反応を返す

 

 このマイルールでは「時間的な制約」※注 を設けていますが、まずは相手の話を優先すること、その話を理解するための環境を整えることを重視しています。

 (注:このマイルールでは、せっかちである自分の性格を踏まえつつ、日常的な会話や忙しい仕事上での「聴く」ということを想定しているため「時間的な制約」を設けていますが、コーチングの際は時間的な制約は設けません。コーチングの時間は全てクライアントのものです。)

 

 いかがでしょうか?

 みなさんなりのおすすめのマイルールがあったら、ぜひ教えてください。

 

 

2020/7/8追記

 友人より以下のマイルールを教えてもらいました。

  • 部下の話を聴くときは、必ず体を相手に向ける

 

 これいいですよね。パソコンを操作しながら聴く人がたまにいますが、失礼かどうかという問題もあるとともに、話をちゃんと理解できないですし、信頼感を損ねてしまいます。

 

 このルールを教えていただいたとき、以前お世話になった一人の上司の方を思い出しました。

 その上司の方に「〇〇さん、今ちょっとよろしいでしょうか?」と声をかけると、すぐにパソコンを閉じ、椅子をくるっと回して体を向けてくれました。

 こんなことをしてくれる上司は今までいなかったので、ある時、「お忙しいのに、なぜすぐ話をきいてくれるのでしょうか?」と伺ったら、「上司が声をかけたら部下はすぐ飛んできてくるでしょ。それと同じことを上司もやるべきだと思っている」とのことでした。

 見習いたいなぁと強く思ったのを覚えています。

 

 

参考:

銀座コーチングスクール クラスA テキスト

 

認める

 先週は、スキルだけあってもコーチングは機能しないという話をしました。

 スキル以前に、信頼関係やコーチングマインド(相手の可能性を信じる心)、自己基盤が必要です。

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コーチングが機能しない場合 - うめさんブログ

 

 では、信頼関係を築くにはどうすればよいかというと、コーチングのスキルの中の「認める」と「聴く」というスキルが有効です。

 スキル以前の話をしていたのに、スキルが出てきてしまうのは、信頼関係を構築したうえでコーチングをする際にこれのスキルを使うのはもちろん有効ですが、この2つのスキルは信頼関係を築くのにも使えるからです。

 そこで、今回は「認める」というスキルを紹介します。

 

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1.そのまま受け止める

 人は認められると、とても安心します。
 別の言い方をすると、人は受け入れてもらえると、受け入れてくれた人を信頼するようになります。

 

 この「認める」というスキルの目的は、「相手に安心して話をしてもらえる状態を作ること」、つまり信頼関係を築くことです。

 

 そして「認める」とは、「相手が話していることをそのまま受け止める」ということです。
 この「そのまま受け止める」とは、以下の3つのことをせずに話を聴くということです。

  • 評価しない
  • アドバイスをしない
  • 同意しない

 

 「評価しない」とは、「良い」とか「悪い」とか批判したり、人より「優れている」とか「劣っている」とかの判断を加えずに聴くということです。


 「アドバイスしない」とは、困っているから相談に来た相手に対してどういうことか、と思われるかもしれませんが、相手が常にアドバイスを求めているとは限りません。まずはアドバイスをせずに話を受け止めることが先です。


 「同意しない」も、不思議に思われるかもしれませんが、あくまで相手の話していることを、一つの事実(客観的な事実であるかは問いません)として受け止めるということです。

 相手と同じ気持ちになるのではなく、相手がどう考えたりどう思っているのかを理解するようにするということです。

 安易に同意してしまうと、相手と同じ思考になってしまい、視野が狭くなってしまいます。

 あくまで、「この人は、こんな風に考えているのだな」とか「この人は、こんな感情を抱いているのだな」と相手の心に寄り添いつつも中立的に受け止める必要があります。

 

 以上の3つは心構えのようなものなので、この心構えを持ったまま、「認めている」ということを相手に伝える必要がありますが、それはうなづいたりあいづちを打ったり、相手の言葉を繰り返したりといったことをして伝えます。

 

 

2.認めるとは、ほめるだけではない

 相手を「認める」というと、相手の成果を認める、つまり「ほめる」というのが分かりやすいでしょう。

 あなたが上司の立場にいるのであれば、部下が何か成果を上げたら、どんどんほめてください。もちろんとってつけたようなほめ方でなく、心からほめてください。

 

 ただし、ほめるだけですと、「認める」機会があまりにも少なすぎます。
 ほめるとは、例えば、一連の仕事がすべて終わった最終段階において、しかも成功したときしか、できません。

 

 そうではなく、一連の流れの中の取り組み始めた最初や途中段階においても、大いに「認める」ということをしていただきたいです。

 私は、この最初や途中段階において、相手を「認める」には、「ありがとう」という言葉が最も有効だと思っています。
 有効と書くとテクニックのようになってしまいますが、チームで仕事をしていて、部下がチームに貢献するちょっとしたことをしてくれた時、「ありがとう」と感謝を述べるのはとても自然なことだと思います。
 「ありがとう」という言葉で相手のことを「認める」のです。

 

 「ありがとう」よりももっと簡単なのは、「挨拶」です。
 朝の「おはよう」や夕方の「お疲れ様」などの挨拶は、社会人として基本ですよね。
そしてこの挨拶は、まさに相手の存在を「認める」というものです。


 「認める」の反対は「認めない」ではなく「無視」です。
 挨拶をしたのに返してもらえなかったら、無視されたような気になりますよね。是非挨拶をし、挨拶を返してあげてください。

 

 

3.認めるとは心の動き

 今回は信頼関係を築くために「認める」というスキルを紹介しました。
そして、「認める」とはどうすることかという具体のやり方、つまりスキルも紹介しました。

 

 しかし、認めるとは心の動きです。
 心の伴わない「認める」というスキルは、早晩見破られてしまいますし、むしろ信頼関係を損なうこととなります。

 

 この「認める」というスキルは、コーチングの中で最初に習う「スキル」ですが、心の持ちようだけに、私自身最も難しいと感じています。

 

 そこで私はいつも相手の「強み」を探すようにしています。「この人は何が得意なんだろうな」と考えます。
 もちろん「強み」を探したりせず、そのまま相手を受け止めるのが、ここで紹介した「認める」と言うことなのですが、私にはちょっと難しいです。まずは良いところを探すということをやってみても良いかもしれません。

 そしてこの「強み」を見つけられると、相手の可能性を信じる心である「コーチングマインド」も生まれやすくなります。

 

 相手に敬意を払いつつも、相手に飲み込まれない中立的な心持ちで、相手のことをそのままうけとめられるようになりたいです。

 

写真:Sven LachmannによるPixabayからの画像

コーチングが機能しない場合

 先週お世話になっているオンライン勉強会の中で、コーチングを紹介する機会を頂きました。
 その準備を進める中でネットで調べたり友人と話をしたりして、いろいろとコーチングが誤解されているなと感じたので、「コーチングが機能しない場合もある」ということを整理してみました。

 

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図:コーチングピラミッド(銀座コーチングスクールのテキストより 一部改)

 

 
 私が初めて「コーチング」という言葉を知ったのは5年ほど前ですが、最近改めて「コーチング」という言葉をよく聞くような気がします。
 外資系企業ではマネージャー以上にあがるにはコーチングスキルは必須と伺っていますし、企業の研修にも取り入れられています。
 さらに、人材育成の必要性が増していることや、「1 on 1ミーティング」(1対1の面談を頻繁にやること)を有名企業が導入したことの影響もあるように感じます。

 

 さて、コーチングはコミュニケーションスキルです。
↓関連する過去のブログ

コーチングって何? - うめさんブログ


 具体的には、「認める」「聴く」「質問する」「フィードバックする」といったスキルを用います。
 「スキル」ですから、例えばスキーのように、練習すれば誰もがある程度までは確実にできるようになります。

 逆に言えば、練習しなければ、できるようになりません。本だけ読んでもできるようになりません。スキーも一緒ですよね。

 

 ところが、スキルを身につけたとしても、コーチングが機能しない場合があります

  以下、上司である人がコーチングの「スキル」を身につけ、部下と対話するケースを取り上げます。

 

1.信頼関係がない
 信頼関係がないとコーチングは機能しません。
 
 例えば、コーチングでは、将来に目を向け、「5年後にどのような自分になっていたいですか?」といった質問をしますが、これを普段怒鳴ってばかりいる上司に質問されたとき、どれだけの人が答えるでしょうか?

 

 「1 on 1ミーティング」に限らず、四半期の始めや最後に行う面談において、その面談が上手くいくかどうかは、面談中の上司側のスキル以前に、上司と部下の間に信頼関係ができているかに左右されます。

 

 

2.相手の可能性を信じていない
 コーチングでは、コーチは相手の可能性を信じて話を聴きます。(相手の可能性を信じることを「コーチングマインド」と言います。)


 「今は悩んでいるかもしれないが、必ず自分自身で解決策を見つけることができ、自ら掲げた目標を達成できるだろう」という気持ちで話を聴きます。
 
 ところが、上司という立場にある方々にとって、この相手の可能性を信じるというのはとても難しいです。なぜなら、優秀な人が上司になっているからです。
 上司から見れば、部下は未熟なところがたくさんあります。上司自らがやった方が早い、と思うこともあるでしょう。
 ついつい、「自分が教えてやらなければ」と思ってしまうでしょうし、教えた方が早いこともあります。

 

 ここで少しややこしいのが、人材育成の観点から、上司が質問をして部下の気づきを促すというものです。
 私はこれは「コーチングである」こともあるし、「ティーチングになってしまっている」こともあると思っています。


 上司がすでに知っている解決策に向けて、部下に質問を投げかけつつ誘導する、というのはコーチングではありません。
 「質問する」というスキルを使っていますが、上司が知っていることを教えているにすぎません。
 
 これはこれで効果的な「ティーチング」の方法だとは思いますが、こういう方法を取ってしまうのは、相手の可能性を信じきれていないからであり、このやり方を「コーチング」だと思ってしまうのは非常に危険です。


 なぜなら、いずれ部下は誘導されていることに気づきますし、誘導された解決策は、結局部下自身が気づいたものではないため、部下にはやらされ感が出てしまうからです。

 

 仕事においては全てを「コーチング」で行うことは無理です。
 単純に部下の知識が足りていない場合や、緊急時などは、「ティーチングでやるぞ!」と言うことをしっかり意識して「ティーチング」をすればよいと思います。

 

 そして、上司の中にも答えがなく、(その時点の)部下の中にも明確に答えが見えていない将来のことなどについては、「コーチング」を用いて、対話を通じて、部下が目指したい目標を見つけることを手助けすると良いと思います。

 

 

3.自分に自信がない(自己基盤が確立していない)
 コーチングをやろうという人で、余りこういう人はいらっしゃらないとは思いますが、自分に自信を持っていない人がコーチングをしようと思っても機能しません。

 

 自分に自信があるとは、自尊心を持っている、さらに言えば、ありのままの自分を受け入れられているということです。
 ありのままとは、何が自分にはできて何ができないのかを理解し、できていない部分も含めて自分であることを認めているということです。

 逆に言うと、例えば、有名な大学を出たから、大企業に勤めているからという理由でもって自分に自信を持っているというのは、その比較軸が崩れた時、自らも崩れてしまいます。

 

 ありのままの自分を受け入れられているから、相手のことも認められるようになります。

 

 「自分に自信を持てるようにするにはどうしたら良いか?

 私がコーチングを習った先生の答えは次の2つでした。

  1. 小さなことで良いから自分でやろうと決めたことを継続すること
  2. 小さなことで良いから自分で立てた目標を達成することを何度も経験すること

 


最後に。
 この「信頼関係」「相手の可能性を信じる心(コーチングマインド)」「自己基盤」は、私がコーチングを習った際に、最初に相当の時間をかけて教わったことです。


 恥ずかしながら、受講中は「早くスキルを教えて欲しいなぁ」などと思っていました。

 

 自分自身、どれ一つとってもまだまだです。焦らず少しずつ自分自身を磨いていきたいと思います。

 

 次回は、この3つのうちの信頼関係構築のためには、なんとスキルに戻って「認める」「聴く」という2つのスキルが有効、と言うお話をしたいと思います。

 

全く野球経験はないのに少年野球のコーチをやっている友人から聞いた話

 今回は、全く野球経験はないのに少年野球のコーチをやっている友人から、以前聞いた話を紹介します。
 人材育成の観点からもたくさんの示唆を含んでいます

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以下、友人談。

自分がコーチになってからやったこと。

  • 怒られると思って萎縮していたのを解放してあげるだけで、子供たちは激変。「お前はやれる」「失敗してもいい」と声がけ。
  • 失敗したときは、「何にチャレンジしようとして失敗したのか」を確認するだけで、怒らない。「もっと前でボールを取ろうとしたんだよな?」
  • 前の世代と比較して「この世代はダメだ」ということを子供の前で言うのを周りの大人にやめさせた。
  • 「キャプテン」には練習メニューを相談するなど、子供であってもリーダーとしてちゃんと扱う。
  • 不調の子をあえて「打撃リーダー」に任命して、周りの子の面倒をみさせた。
  • なかなか出場機会のなかった6年生も試合に出したら、周りからの声がけが自然と出て、チームワークが高まった。(試合に出ていた子は自分だけが試合に出ていることに遠慮を感じていた。)
  • 基本基本と言われすぎて、自分の頭で考えられなくなっていたのを、「何でそうしてるの?」と聞いて考えさせるようにした。
  • 子供は調子に乗って試合を楽しんでるぐらいの時が最もパフォーマンスがいい。

 

 とにかく一人一人をよく観ること、可能性を信じて話しかけること、子どもたちの自尊心を大切にすること、そして上に挙げたことに至る前に山ほどそれぞれの子供に合わせて工夫していて、その工夫し続けることこそ大切だなぁと思いました。

 

 

参考:

画像 pixabayより

 

人材育成の落とし穴

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 人材を育成するためにやるべきことは多々ある一方で、北海道大学の松尾先生の研究によると、やってはいけないのは、この3つです。

 

  1. 弱みを克服させることに重点を置き
  2. 問題や失敗のみを振り返らせ
  3. マネジャー(上司)が職場のすべてを仕切っている

 

 「反省」を重視した余りにも伝統的かつ日本的な育成方法を示していて驚きです。

 

 私自身もこういった育成方法を受けたことはありますが、その間、多少は成長できましたが、何しろ自分で考えることができない(考えてもダメ出しされる、結局上司の意見が通る)ので成長の度合いが遅く、また、そのような職場で働くことは楽しくはありませんでした。
 そういった経験から、数年前から、強みを伸ばしたい、と思っていました。

↓関連する過去のブログ

強みを伸ばす - うめさんブログ

 

 

 この3つのやってはいけないことを知ったとき、ある新任管理職の方を思い出しました。

 その方は、実績もあり課長にはなりましたが、やや知識や判断力が欠けていました。


 ところが、とにかく部下を褒めて任せることが上手く、部下の方も「課長はしょうがないなぁ、助けてあげますよ」なんて形で活き活きと働いていました。
 自分が説明しなきゃいけないような大事な会議でも、「これは部下のAさんが詳しいので、彼から説明します」と言ってしまうほどでした。


 この方は、特に人材育成の観点からこういう行動をとっていたわけではなく、自分なりのマネジメントのスタイルとしてやっていたのだと思いますが、チームとしての成果もあがり、なによりその和気あいあいとしたやり取りと、約1年の間に、部下がどんどん成長していったのが印象的でした。

 

 このやってはいけないことは、優秀な上司の方ほど、陥りがちです。
 なぜなら、自分と比べるとどの部下も自分より劣っていて、弱点や問題ばかりが目につき、ついついすべてを仕切りたくなってしまうからです。

 強みに着目して部下に任せる、人材育成はそこから始まります。 

 

 

参考)
松尾睦、2019.10, 部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ, ダイヤモンド社

画像:SKによるPixabayからの画像 

 

効果的なフィードバック

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                    画像:pixabayより、Gerd Altmann氏の作品

 

 以前は部下を叱る上司は多かったようですが、最近はパワハラなどに敏感になりすぎて叱ることができない上司が増えていると聞きます。(注:パワハラは絶対にダメです。)

 そのような状況に加え、管理職の方は、コロナウイルスのために、4月入社の新人や異動してきた部下に対して十分な指導をすることが難しかったのではないでしょうか?

 それでも非常事態宣言が解除され、明日6月1日からは、コロナウイルスへの対応をしつつも、様々な業務の遅れを取り戻さなくてはならず、そのためには部下にも頑張ってもらわなくてはと、思っている方も多いでしょう。

 

 そこで今回は部下への指導方法の一つである「フィードバック」を取り上げます。

 

 以前、部下の能力を伸ばすには、まずは、部下自身の振り返りをサポートすることが有効と言うお話をしました。
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経験を活かそう - うめさんブログ


 その「振り返り」をサポートする手段の一つがフィードバックですが、学術研究によると、それには効果的なやり方があります。

  

 効果的なフィードバックの方法:

  • 事実に基づき
  • 行動ベースで
  • 部下自身の興味が高いトピックについて
  • 問題が顕在化したタイミングで

     フィードバックを行う。

 

 例えば、遅刻が続いている部下に対してフィードバックするのであれば、「いつ・何回・どの程度遅刻したのか」をしっかり把握しておく必要があります。[事実ベース]


 「最近やる気がない」と指摘するのではなく、「昨日と今日も遅刻をした」という行動に焦点を当てなければなりません。[行動ベース]


 別の例では、コミュニケーションの向上に関心がある部下に対しては、遅刻のことよりも、お客様の前でのプレゼンの仕方について指摘した方が良いです。[部下自身の興味が高いトピック]
 応用例としては、「落ち着いてプレゼンできるようにするために、30分早めに来きて、機材のチェックをしよう」と伝えれば、遅刻も改善するかもしれません。


 さらに、期末の面談の時にまとめて指摘するよりは、お客様へのプレゼンに失敗したら、(その日は自分自身で反省させるとしても)、翌日にはフィードバックをしてあげた方が良いです。[問題が顕在化したタイミング]

 

 

(※ここからは私が気づいたことです)

 このフィードバックの方法を見ていると、上司側としても冷静にフィードバックできる、つまり、怒りに任せて指摘するということを防止できます。


 また部下側としても、行動としてやってしまったことなので受け入れるしかない、もしくは関心があるトピックなので受け入れやすいでしょうし、何を改善したらよいかも明確です。

 

 さらに褒めるに際しても、事実ベースで褒められた方がモチベーションがあがるという研究成果もあります。 

 

 部下に指導しようと思った時、どうやって怒ろうか、とか、どうやって褒めようかと考えるよりも、まずは手元に上記の4点をメモしてから部下に声をかけてみてはいかがでしょうか?

 

※最後に、本書は、一般的に信じられている人や組織に関する常識を、研修者が発見してきた原理や原則から見直してみるという試みがなされています。採用や育成、評価など様々なトピックについて、1項目数ページで書かれていて手軽に読めます。是非本書もお読みください。

 

参考)
「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」, 2020/3/28, 曽和利光, 伊達洋駆

 

チームで取り組む問題解決

 ここ数か月は、そして今も、世界中の人が、コロナ対応で日々様々な問題を解決すべく奮闘されているのではと思います。


 そこで、以前も紹介した、名著「問題解決」(著:高田貴久、岩澤智之)から、問題解決を学ぶ意義を振り返ってみました。
 そして、チームのメンバーそれぞれが問題解決の手順の中のどこを担っているかを認識することで、より効率的で効果的な問題解決ができるようになります。

 

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Iceland, Feb. 24, 2019


1.問題解決の手順
 問題解決の手順は以下の3ステップとなります。
 ①現状分析(Where)・・・どこで問題が起きているのか?
 ②原因分析(Why)・・・その問題の原因は何か?
 ③対策立案・実行(How)・・・ではどうすればよいのか?

 

2.各チームメンバーの役割

2-1 若手
 若手の役割は、何と言っても、対策を実行すること(How)です。
 確実に素早く対策を実施する必要があります。
 
 ただし、ただ指示された対策をこなしているだけでは成長できません。
 「対策実行」の少し前の「対策立案」や、さらに前段の「原因分析(Why)」の議論の過程を振り返ったり、自ら考えてみたりすることが大切です。

 

 この前段が把握できることによるもう一つの効果は「モチベーションが上がる」ことです。
 私自身の経験を振り返っても、なぜこれをやるのか分からない作業は苦痛でしたし、背景がわからないと自分なりに工夫することもしづらかったです。

 

2-2 中堅
 中堅の役割は、「原因分析(Why)」も大切ですが、それ以上に「現状分析(Where)」が大切です。


 なぜなら、中堅にもなると、段々と「大きな問題」に立ち向かう必要があるからです。

 例えば、売り上げが落ちているという問題に対して、どこで問題が起きているのか(where)を明らかにするために、売り上げを地域別、商品別、時間帯別、消費者属性別など、さまざまな切り口で分析する必要があります。

 そして、どういった切り口や観点から分析をするのかについては、若手よりも経験が豊富な中堅の方が適任でしょう。

 

 「現状分析なんかは、若手の仕事ではないか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
 確かに、地域別で売り上げを分けてみる、といった作業であれば若手にやってもらっても良いでしょう。
 しかし、繰り返しになりますが、どういった切り口や観点から分析するのかが非常に重要なのです。
 先の売り上げ減少の分析にあたって、ひたすら機械的に、国別、県別、市町村別と細かく分けていったところで、何も見つからないということもあり得るからです。

 

 また、もしこの「どこで問題が起きているのか(where)」を間違えると、対策(How)を実行しても全く問題の解決につながりません。

 

※whereの重要性については、以前のブログの例をご覧ください。
↓関連する過去のブログ

問題解決の手順 - うめさんブログ

 

2-3 管理職、そして経営層
 若手、中堅が、問題解決の3ステップである①where→②why→③howをやるとしたら、管理職は何をするのでしょうか?

 それは、問題を設定することです。
 さらに言えば、あるべき姿や望ましい状態を設定することです。
 何を目指すのか?(What)に答えることと言えます。

 

 問題とは、あるべき姿と現状のギャップのことです。
 あるべき姿が明確になってこそ、問題が浮かび上がってきます。

 

 管理職レベルにもなれば、若手や中堅が行う問題を特定し、原因を考え、対策を行うことは一通りできるでしょう。
 重要なのは「誰が見ても分かる」という次元の問題に対処することではなく、将来を予測し、高いレベルのあるべき姿に基づいて「問題を設定する」ことが求められます。

 

3.チームで問題解決

 話を分かりやすくするために、若手、中堅、管理職と分けましたが、仕事において、たった一人で問題解決を行うことはありません。

 

 若手であっても、原因分析や現状把握をしたって良いですし、中堅であってもあるべき姿を議論しても良いでしょう。
 

 なにより、独りで考えられるアイディアには限りがあります。
 チームで思考することで、より良いアイディアが生まれますし、確実に対策が効果を生むでしょう。

 

 組織の視点に立って、若手を支店、中堅を支社、管理職を本社と言い換えてみても、同じことが言えます。

 戦略を考える本社から、現場を預かる支店までが一丸となることで、問題が解決できます。

 

 こういったチームで問題解決を促進するカギは、やはり管理職(もしくは本社)です。
 
 管理職(もしくは本社)の方々がついやってしまいがちなのは、自分自身の中ではあるべき姿が明確であり、さらにそこからwhereやwhyを考えることもできてしまうため、howだけ、つまり対策だけを部下(もしくは支社や支店)に指示しがちということです。

 

 このhowを伝えることだけをしていると、部下がだんだん考えなくなります。
 もし「部下が考えなくなった」というお悩みをお持ちならば、それは管理職であるあなたが優秀すぎて言葉が足りないからかもしれません。


 是非ご自身の考えや思いを部下に伝えてあげてください。

 そして、チーム一丸となって問題を解決していきたいですね。

 

↓関連する過去のブログ

察するのにも限界があるから話す - うめさんブログ

 

 最後に、原著では、問題解決の手順を理解するだけでなく、「問題を解決できるようになる」という点にこだわって、具体のやり方を分かりやすく丁寧に解説されています。是非原著もお読みください。 

 

参考)

「問題解決――あらゆる課題を突破する ビジネスパーソン必須の仕事術」 2014/3/6
高田貴久 (著), 岩澤智之 (著)